任天堂が自社IPの活用先を、ゲームソフトの枠外へ着実に広げている。映画では『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の成功が先行例となり、テーマパークではユニバーサル・スタジオ・ジャパンの「スーパー・ニンテンドー・ワールド」が定着した。加えて、アパレルや雑貨、フィギュアといったグッズ展開も厚みを増しており、キャラクターを軸にした収益機会が複線化している。
この動きは、単に周辺事業を増やしたという話ではない。任天堂の強みである「IPの認知力」と「体験設計」を、映像・リアル施設・商品にまたがって再利用している点が重要だ。ゲームを遊んだあとに映画を観る、テーマパークで世界観に触れる、日常のグッズでキャラクターを持ち帰る。接点が増えるほど、IPの接触頻度は高まりやすい。個人的にも、任天堂が得意としてきた“遊びの記憶”を、生活空間にまで広げているところに一段の強さを感じます。
ポジティブと見られる理由は、いくつか整理できる。
収益源がゲーム発売日に偏りにくくなる。
ソフトの発売やハードの世代交代に左右される部分を、映画配信、ライセンス、施設運営が補完する。景気や発売計画に対する耐性が少し増す。
IPの寿命が長くなる。
マリオ、ゼルダ、どうぶつの森、ポケモンといったキャラクターは、新作の有無にかかわらず認知が維持されやすい。映像や物販は、その長寿命を再点火する役割を持つ。
体験価値が積み上がる。
テーマパークは、ゲームでは届けにくい「現地で身体を使う体験」を提供できる。これがブランド記憶を強め、次の購入動機にもつながりやすい。
海外市場との相性がいい。
映画館、観光、ライセンス商品は国境を越えて広がりやすい。任天堂のIPは日本発でありながら、グローバルに説明しやすいのが大きい。
競争の主戦場が“ソフト単体”から広がる。
単一タイトルの売上だけでは測れない価値が増す。ゲーム会社というより、IPコンテンツ企業に近い手触りが鮮明になる。
競合と比べると、任天堂の立ち位置は少し独特だ。Sony PlayStationは映画や音楽との接点を持ちながらも、中心はあくまでゲームプラットフォームにある。映像化の実績も増えているが、任天堂のように自社キャラクターをリアル施設とグッズまで一体で展開する構造とは少し違う。Microsoft Xboxはクラウドやサブスクリプションを軸にしたサービス色が強く、IPビジネスの広がり方はゲーム配信・会員モデルに寄っている。Steamは流通基盤として非常に強いが、自社IPを前面に出して世界観を横断展開する企業ではない。モバイルゲーム各社はキャラクター消費の回転が速い一方、任天堂ほど長期にわたって同一IPを磨き続ける設計は多くない。
ここで際立つのは、任天堂が「ゲームの外で稼ぐ」ことを目的化していない点です。むしろ、ゲームで築いた信頼を土台に、映画や施設でIPの価値を増幅させている。ゲームを起点に、別の接点を無理なく足していく。この自然さは、他社が容易に真似しにくいところでしょう。
5年スパンで見ると、意味はさらにはっきりする。第一に、主要IPの認知を次世代に継承しやすくなる。映画やテーマパークは、親子で触れる導線を作りやすい。第二に、ハード販売だけでは説明しにくい企業価値を、IP全体で語れるようになる。第三に、海外の大型施設やライセンス拡張が進めば、地域ごとの収益機会も厚くなる。こうした積み上げは、年度ごとの派手さよりも、長く効いてくるタイプの強みだ。
一次情報としては、任天堂公式IR資料、とくに決算説明資料や統合報告書が基本になる。加えて、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの運営発表、映画『The Super Mario Bros. Movie』の公開時の公式発表、各国の興行・来場データ、ファミ通やCircana(旧NPD)、GfKの市場レポートを合わせて見ると、IPの広がり方を立体的に追いやすい。数字の見え方は事業ごとに異なるが、任天堂が「遊ぶ」から「体験する」「身につける」へと接点を増やしている事実は、かなり明瞭です。