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TencentがHy4 previewを公開した理由

Tencentが自社の大規模言語モデル「Tencent Hy4 preview」を公開し、同時にオープンソース化した。単に新しいAIモデルを出したという話ではなく、770Bという巨大な総パラメータ数、49Bのアクティブパラメータ、100万トークン超の長い文脈処理を前面に押し出しているのが特徴だ。しかも用途は研究室のデモではなく、coding、office work、scientific researchのような実務寄りの場面に置かれている。Tencentがこのモデルをどう位置づけ、どこで使わせようとしているのかを見ると、いまの生成AI競争の焦点がかなりはっきりしてくる。

Tencent Hy4 previewが示した実力と、どう使わせるつもりなのか

Tencentの発表によると、Hy4 previewは次世代のlarge language modelで、総パラメータ数は770B、実際に推論時に動くactive parametersは49B、context windowは100万トークンを超える。要するに、モデル全体としてはかなり大きいが、常時全部を動かすわけではなく、必要な部分だけを使って計算効率を確保する設計だと読める。Tencentはこのモデルを、実際の生産性タスクに強いモデルとして打ち出している。

公開の形もわかりやすい。Hy4 previewはopen-source modelとして利用できるだけでなく、WorkBuddy、CodeBuddy、Yuanbao、imaなどTencentの製品からもアクセスできる。さらにAPI経由ならTencent Cloud TokenHubとOpenRouterから接続できる。つまり、研究者や開発者がコードを触れるようにする一方で、一般の利用者や企業ユーザーには自社製品の中に自然に入り込ませる設計になっている。公開直後の2週間はWorkBuddyとCodeBuddyで無料利用でき、Hy3も両プラットフォームで9月30日まで無料期間を延長するという。新モデルへの誘導と、既存モデルの継続利用を同時に進めているわけだ。

Tencentは性能面でもかなり強気だ。社内で163人の専門家と203件のengineering tasksを使ったblind evaluationでは、Hy4 previewの平均スコアは4点満点中2.99。比較対象として挙げられたGLM-5.3は2.92、Kimi K3は2.94だった。わずかな差ではあるが、Tencentはこれを自社モデルの優位として示している。加えて、software engineeringでは長文の開発タスクに対する理解、計画、デバッグ、検証が強化され、フロントエンドでは見た目の質や操作感も改善されたという。office productivityや分析用途では、複雑な業務環境の理解やfinancial analysis能力が上がり、data analysisからdocuments、spreadsheets、presentationsの作成まで一通り支えると説明している。game developmentでは自然文の依頼1回から動く試作を作れ、科学研究ではAI research and development、molecular dynamics simulation、condensed-matter physics、fundamental mathematicsなどで改善があったとしている。

さらに変わっているのは、Hy4 preview自身が開発に参加したとされる点だ。Tencentは、training methods、data strategies、evaluation frameworks、low-level operatorsの自動最適化にこのモデルを初めて組み込み、モデルが手法を提案し、実験し、結果をもとに改善していく流れを作ったという。そこからrecursive self-improvement loopの初期段階ができたと述べている。また推論システムのボトルネックも自律的に分析し、operator fusionやcommunication optimizationを繰り返して、end-to-end throughputを31.8%改善したとしている。最後にAPI pricingとして、入力100万tokenあたり0.834ドル、出力100万tokenあたり2.501ドル、cache hitは100万tokenあたり0.042ドルが示された。Tencentは、preview-firstで実運用のフィードバックを取り込み、その後に正式版を出していく方針を続けるとも書いている。

770Bの数字より気になるのは、Tencentが「使われ方」まで握りに来ていること

この発表でまず目に入るのは770Bという派手な数字だが、実際に重要なのはそこだけではないと思う。Tencentはモデル単体の性能競争に参加しつつ、同時に配布経路をしっかり押さえている。オープンソースとして外に出す一方で、WorkBuddyやCodeBuddy、Yuanbao、ima、さらにTencent CloudとOpenRouterまでつなげているので、研究用途にも商用用途にも逃がしがない。これは「モデルを公開した」というより、「モデルをどこで触るか」をTencentの側で設計した発表に見える。

このやり方は、いまのAI競争ではかなり合理的だと思う。大規模モデルは、ベンチマークの数字だけでは差別化しづらい。だからこそ、開発者が日常的に触れる場所に入ることが価値になる。CodeBuddyでコードを書き、WorkBuddyで文書や分析を扱い、そのままAPIで自社システムに組み込めるなら、モデル名より先に利用習慣が残る。Tencentが狙っているのは、単発の話題作りではなく、業務フローに入り込む足場づくりではないか。

2.99点という社内評価は強いが、差はかなり薄い

社内blind evaluationの結果は面白い。ただ、163人の専門家と203件のengineering tasksで2.99点という数字が出ても、GLM-5.3の2.92、Kimi K3の2.94との差は小さい。ここは「圧倒的に勝った」というより、「同じ土俵で上に出た」と見るのが自然だと思う。生成AIの比較では、平均点の差がそのまま現場の満足度差になるとは限らないし、タスクの種類や評価者の癖でも結果は動く。

それでもTencentがこの数字を出した意味はある。実運用に近いengineering tasksで、しかもblind evaluationにしたのは、少なくとも「社内の宣伝」だけで終わらせない姿勢を示したかったからだろう。とはいえ、外部から見るとここはまだ確認材料の一つに過ぎない。開発者が本当に気にするのは、長いコードベースを扱ったときの破綻の少なさ、指示追従の安定感、既存ツールとの相性だ。Tencentの数字は悪くないが、現場の信頼を積み上げるにはもう少し実地の評価が必要ではないか。

自分で自分を最適化する話は、すごさと危うさが同居している

Hy4 previewが自らtraining methodsやinference systemの最適化に関わったという説明は、かなり野心的だ。しかも単なるアイデア出しではなく、実験を回し、コードやログ、フィードバックを次の探索に使ったとある。これが事実なら、AI開発の一部をAIが肩代わりする流れが、かなり具体的に進んでいることになる。throughputが31.8%上がったというのも、研究の話ではなくコストと速度に直結する数字だ。

ただ、ここは素直に歓迎するだけでは足りないと思う。recursive self-improvement loopという言い方は魅力的だが、開発の評価軸がモデル自身に寄っていくほど、どこを良い改善とみなすかが閉じた系になりやすい。例えば推論速度は上がっても、説明しやすさや安全性、誤答の質は別問題かもしれない。Tencentはそこを詳しくは語っていない。だからこの発表は、AIがAIを改善する時代の入口を見せた一方で、その制御をどう担保するのかはまだ見えていない、と受け止めるべきだと思う。

価格を下げ、無料枠を置き、まず触らせる戦略

API価格は入力100万tokenあたり0.834ドル、出力100万tokenあたり2.501ドル、cache hitは0.042ドルとされた。これだけを見ると、Tencentは高性能モデルを「高級品」として売るより、かなり手の届くところに置こうとしている印象がある。しかもWorkBuddyとCodeBuddyでは2週間の無料提供、Hy3の無料期間延長まである。新モデル公開のたびに利用者を引き込む、かなり攻めた導線だ。

この戦略は、モデルの優劣を語るより先に“試してもらう”ことを重視している。AIは説明されるより、触った瞬間の体験で評価が決まりやすい。特にコード生成や文書作成は、数回使えば向き不向きがわかる。Tencentはそこをよく理解しているように見える。無料枠と低価格APIで初速を作り、気に入ったユーザーを自社製品とクラウドに残す。派手な発表に見えて、実はかなり商売上手だと思う。


参考: Tencent Releases and Open-Sources Tencent Hy4 preview

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