AI にウェブ検索をさせる話は珍しくありませんが、今回の Cloudflare の発表は少し性格が違います。単に検索機能を足したのではなく、AI Gateway の中に Web Search API を置き、ログ管理や課金、プロバイダー選択までまとめて扱える形にしたからです。生成AIが「知っていること」だけで答えるのではなく、今この瞬間の情報を引いて応答する流れは、実運用ではかなり重要になります。しかも今回は、Cloudflare 側の枠組みを使いながら、複数の検索プロバイダーを選べる点が目を引きます。
Cloudflare は 2026年10月2日、Web Search API を beta で提供開始したと告知しました。これは AI agents やアプリケーションがインターネットを検索し、その結果をもとに回答を組み立てるための機能です。言い換えると、モデルの学習時点で止まった知識に頼るのではなく、ライブの情報を取り込んで返答できるようにする仕組みです。元記事では、URLを推測したり、学習データの範囲を前提にしたりするやり方より、実際の検索結果を使うほうがよい、と位置づけています。
利用開始時点で選べる検索プロバイダーは Ceramic.ai、Exa、Linkup の3つです。いずれも Cloudflare 経由のリクエストに対して Zero Data Retention をサポートし、さらに Cloudflare の verified bot crawling standards にもコミットしているとされています。ここは、単なる検索機能の寄せ集めではなく、外部プロバイダーとの接続ポリシーまで揃えようとしている部分です。
課金とログの扱いも Cloudflare らしい設計です。Web Search API は AI Gateway 経由で動くため、検索リクエストは gateway logs に記録され、料金は各プロバイダーの list API price をそのまま AI Gateway credits で支払う形になります。Cloudflare は追加の上乗せ料金を取らないとも説明しています。必要なら、利用者が自分の provider API key を持ち込むこともできます。
呼び出し方は REST API でも Worker でも用意されています。REST API では https://api.cloudflare.com/client/v4/accounts/$CLOUDFLARE_ACCOUNT_ID/ai/websearch/ に POST し、query、provider、limit、options.gateway.id などを指定します。本文中の例では、Salt Lake City で秋の到来前に何を楽しめるかを尋ねる query を投げ、provider を ceramic にしたり、exa にしたりしています。Worker 側では env.AI.websearch() を使い、gatewayId: "default"、query、provider、limit を渡す形です。最後に、開始手順は “How to use Web Search API” を参照するよう案内されています。
この発表で面白いのは、Web Search API そのものより、Cloudflare がそれをどう包んでいるかです。検索を AI に足すだけなら、他社も似たことはできます。でも Cloudflare は、AI Gateway、ログ、課金、プロバイダー切り替えを一つの流れにして見せている。ここに、この会社の強みがかなりはっきり出ています。個別のAI機能を売るのではなく、運用の摩擦を減らすインフラとして置いているわけです。
これは実務では効きます。AI に外部検索を許すと、まず気になるのは「どこに何を投げたのか」「あとで追えるのか」「請求がどうなるのか」です。モデルの回答品質より先に、監査やコスト管理の話が来る。Cloudflare はそこを先回りして、gateway logs に残ることや、list API price のまま請求されることを前面に出している。派手さはないですが、導入判断にはこの手の条件のほうが効きます。検索精度のデモより、運用のしやすさで選ばれるプロダクトにしようとしているのだと思います。
Zero Data Retention という言葉は、AI 周りではかなり重いです。検索クエリには、未公開の製品名、社内計画、顧客情報の断片が混ざることがあります。だから「検索できる」だけでなく、「その検索内容がどこまで残るのか」が本当は本丸です。元記事が最初にそこを押し出しているのは、Web Search API を単なる便利機能としてではなく、企業利用を意識したものとして見せたいからでしょう。
もう一つの verified bot crawling standards も地味ですが重要です。検索基盤を使う側からすると、検索元のサイトとの関係が荒れると困ります。クロールの作法が曖昧だと、後で検索結果が不安定になったり、ブロックが増えたりする。Cloudflare は、自社のネットワークやボット制御の文脈に近いところで、プロバイダー選定の安心材料を用意しているように見えます。ここは単なる技術仕様というより、検索を継続運用するための社会的な整備に近いです。
この Web Search API は、使いやすさだけでなく、支払いの見通しが立てやすいのがポイントです。Cloudflare が追加マークアップを載せず、各プロバイダーの list API price のまま AI Gateway credits で請求する、と明示しているからです。AI 機能は後からコストが膨らみやすく、検索のたびに外部APIを叩くとなると、開発者は「どこで金額が跳ねるのか」を気にせざるを得ません。その不安を少しでも減らそうとしているように見えます。
ただ、ここには逆に、コストがシンプルに見えるぶん、使い方の設計責任が開発者側に戻ってくる面もあります。検索の limit をいくつにするか、どのタイミングで検索するか、結果をそのまま全部モデルに流すのか。こうした設計次第で、同じAPIでもかなり費用感が変わるはずです。Cloudflare はその自由度を残しているので、便利ではあるけれど、雑に使うとすぐ高くつく種類の機能でもあります。
今回の発表を見ていると、AI エージェントの競争軸が少し変わってきたと感じます。以前は、モデルがどれだけ賢いか、どれだけ長く文脈を保持できるかが前に出ていました。けれど実際の業務では、外部情報にどう安全に繋がるか、どのサービスとどう組めるかのほうが大事になる場面が増えています。Web Search API は、その流れにかなり素直に乗った機能です。
しかも Cloudflare は、検索を単独商品として切り出すのでなく、Workers や AI binding とつなげられるようにしている。つまり、検索で拾った情報をそのままエージェントの処理に流し込む道筋を、最初から短くしているわけです。こうなると、強いのは「最高の検索エンジン」より「自分のAI基盤に最も自然につながる検索エンジン」です。Cloudflare はそこを狙っているのではないでしょうか。AI の時代らしい話ですが、結局は接続の地の利がものを言う、というかなりインフラ的な勝ち筋に見えます。