Android の学習アプリ「AnkiDroid」をめぐって、Google Play で寄付導線が使えなくなったという話が出ています。単なる決済まわりの不具合ではなく、Google のポリシー解釈と、オープンソース開発の資金集めがぶつかった格好です。しかも開発側は、このままだと多くの利用者に配布できなくなるとして、かなり切迫した状況を訴えています。読んでいて気になるのは、Google 側が「tax-exempt ではない」と言う一方で、開発側は「501(c)(6) は税免除 статус だ」と食い違っている点です。
Issue #21656 で AnkiDroid の開発チームは、Google Play が Open Collective への寄付リンクを受け付けなくなったと報告しています。AnkiDroid は、Android 向けの無料・オープンソースの単語帳アプリで、医療教育や語学学習を中心に世界で 1,000 万件以上インストールされていると説明されています。アプリ内で何かを売っているわけではなく、維持費や開発費は Open Collective を通じた寄付が唯一の資金源だ、としています。
寄付の受け皿になっている Open Source Collective は米国の非営利団体で、AnkiDroid の fiscal host として機能しています。開発側は、この団体が IRS の determination letter を持ち、501(c)(6) として tax-exempt だと主張しています。その証明書は Google にも提出済みだといいます。それでも Google の支払いポリシー審査では、寄付導線が「tax exempt donations」に当たらないと判断されたようです。
開発側が引用している Google Play の支払いポリシーでは、Play billing は「tax exempt donations」には使えないとされる一方、それ以外の支払い方法へ誘導することも原則として認められていません。Google は 2026-08-06 のメールで、寄付を集められるのは「validated tax-exempt organization」、たとえば米国の validated 501(c)(3) charity だと書いたそうです。ところが 2026-08-07 の返信では、501(c)(6) の IRS 証明書を受け取ったあとでも、AnkiDroid は「tax-exempt ではない組織への寄付を許可している」と扱われた、と開発側は説明しています。
Google サポートの最後の返答は、提出資料を確認したが、アプリはまだ Payments policy に違反している、というものでした。具体的には「tax-exempt ではない組織への寄付を許可している」とだけ書かれ、なぜ 501(c)(6) では足りないのかは説明されていません。開発側はここが最も問題だと見ていて、501(c)(6) 自体は税免除 статус なのに、Google は “tax-exempt” という自分たちの文言をどう解釈しているのか示していない、と訴えています。
そのうえで、AnkiDroid 側はやむを得ず 2.24.X 系の Play Store 版から寄付リンクを外す方針を明言しています。これをしないと、Google Play からの配布自体が止まり、多くのユーザーにアプリを届けられなくなるからです。タイムラインとしては 2026-07-20 に最初の通知があり、8 月 28 日以降は Play Store への更新が拒否されるようになったと書かれています。さらに解決しなければ、9 月 11 日にはインドとロシアを除く世界各地で Google Play から削除される可能性がある、とされています。開発チームは、Google に直接サポート連絡を送るのではなく、この投稿を共有し、Google 内部の事情を分かる人に届いてほしいと呼びかけています。
この件でいちばん印象的なのは、争点が「寄付を集めること」そのものではなく、「どの税制区分なら寄付扱いとして認めるか」に収束しているところです。外から見ると細かい法務の話に見えますが、オープンソースのアプリにとっては死活問題です。寄付ボタンが1つ消えるだけで、更新や保守を支えるお金の流れが細る。しかも AnkiDroid のように、売り切りやサブスクにできないアプリほど、その影響は大きいはずです。
Google が 501(c)(3) を例に出しているのも気になります。501(c)(3) は慈善団体としてよく知られていますが、AnkiDroid 側が使っている 501(c)(6) は業界団体などに使われる区分です。一般の利用者からすると、どちらも「税免除」の仲間に見えてしまうでしょう。そこを Google が一括で切ってしまうなら、少なくともポリシー文言はもっと明確であるべきです。今回の混乱は、判断そのものより、判断基準が説明されていないことに原因があるように見えます。
AnkiDroid は無料で配られていて、Google Play が主要な配布経路です。ここが止まると、資金の問題だけでなく、ユーザーへの到達そのものが崩れます。開発側が「反対しつつ削除する」と書いているのは、納得して従っているわけではないという意思表示でしょう。同時に、現実には Play Store を外れるリスクを取れない、という事情もにじみます。
これは AnkiDroid だけの話ではありません。オープンソース界隈では、寄付やスポンサー、Open Collective のような仕組みで活動を支える例が増えていますが、プラットフォーム側のポリシーが少し変わるだけで、その資金モデルが崩れることがあります。とくに Android は配布面で Google Play の影響が強いので、開発者は技術だけでなく、決済規約や審査対応まで抱え込まされる。自由なソフトウェアほど、実際には巨大プラットフォームの制度に縛られている。その構図がよく出た事例だと思います。
今回のやり取りで引っかかるのは、Google が使う “tax-exempt” という言葉の射程です。開発側は 501(c)(6) の IRS 証明書を出しているのに、Google はそれを認めず、寄付先が税免除ではない組織だと言い続けている。もし Google が実務上は 501(c)(3) しか想定していないのなら、そう書けば済む話です。そこを曖昧にしたまま「tax-exempt ではない」とだけ返すのは、少なくとも開発者に親切ではありません。
こういう場面では、法的な正しさと運用上のわかりやすさが一致しないことがあります。Google から見れば、国や制度ごとに例外を増やすと審査が破綻するのかもしれません。ただ、今回のようにすでに証明書を出していて、しかもアプリの収益構造が寄付しかないケースでは、機械的な判定がそのままコミュニティの継続性を壊します。私は、プラットフォーム側が求められているのは厳格さだけではなく、なぜその線を引くのかを説明する責任だと思います。
AnkiDroid の開発チームは、Google に対して公開で助けを求めています。これは単なる愚痴ではなく、個別のサポート窓口で解決できないからでしょう。Google サポートの返答が定型文に近いほど、オープンソース側は公開の場で事情を可視化するしかなくなる。そうやって問題を表に出すのは、ある意味では最後の交渉手段です。