Spotifyを使うためのアプリはもう十分あるように見えますが、実際には「重い」「ブラウザの延長に見える」「キーボード操作がしづらい」といった不満が残りがちです。Fastpotifyは、そうした不満に真正面から応える形で出てきたデスクトップ向けクライアントです。Linux、macOS、Windowsに対応し、Rustで書かれたネイティブアプリとして、軽さと操作性を売りにしています。単なる再生ソフトではなく、Spotify Connectやライブラリ閲覧、Winamp風のミニプレーヤーまで含めているのが面白いところです。
Fastpotifyの説明はかなりはっきりしています。これは「Spotify, native and fast」を掲げる、軽量なSpotifyクライアントです。対応OSはLinux、macOS、Windowsで、ローカル再生、ライブラリへのアクセス、Spotify Connectの操作を一つのウィンドウで扱えるとしています。
まず強く押し出しているのが軽さです。ブラウザエンジンを使わないネイティブバイナリで、起動は1秒未満、メモリ使用量は通常100〜250MB程度だと書かれています。ここは、Web技術で作られた音楽アプリに慣れている人ほど目に留まる部分でしょう。見た目の派手さより、立ち上がりの速さや常駐時の負荷を優先しているわけです。
再生まわりでは、Spotify Connectの制御に加えて、ローカル再生もサポートしています。しかもローカル再生はギャップレスで、最大320kbpsまで扱えると説明されています。Spotify Connectは、スマホやスピーカー、テレビなど別の機器を同じアカウントで制御できる仕組みですが、Fastpotifyはその操作をひとつの画面にまとめている形です。
ライブラリ機能も単なる再生補助ではありません。プレイリスト、Liked Songs、アルバム、アーティスト、ポッドキャストを閲覧でき、カタログ検索もできるうえ、自分が所有するプレイリストは編集可能としています。つまり、再生専用の薄いクライアントではなく、Spotifyの普段使いをかなり広くカバーする設計です。
見た目の面白さもあります。ライト、ダーク、システムモードを切り替えられるだけでなく、ページやプレーヤーバーがアルバムアートの色を拾う仕組みもあるようです。さらに、Ctrl+Mで開くWinamp mini playerを用意し、Winamp 2系のスキン、スペクトラムアナライザー、イコライザー、プレイリストを小さな画面で扱えるとしています。別窓ではprojectMのMilkDropビジュアライザーも動かせます。フルスクリーン、プリセットパック、キーボード操作にも対応しているとのことです。
操作性では、キーボードショートカット、LinuxでのMPRISメディアコントロール、そしてウィンドウを閉じても再生を続けるトレイオプションが挙げられています。ソースはMITライセンスで公開され、Rust、egui、librespotで構成されているとも明記されています。なお、このプロジェクトはSpotify ABとは無関係で、公式の承認も受けていないと注記されています。
Fastpotifyを見てまず感じるのは、「音楽を聴く」だけならもっと簡単なはずなのに、その簡単さが意外と守られていない、という現実への反発です。Spotify自体は巨大なサービスですが、利用者が触るクライアントは必ずしも快適ではありません。WebベースのアプリやElectron系のUIに慣れた人ほど、起動の遅さやメモリ消費を当たり前として飲み込んでいるはずです。Fastpotifyはそこに疑問を投げています。音楽プレーヤーは、もっと軽くていいのではないか、と。
私はこの姿勢はかなり筋がいいと思います。音楽アプリは動画編集ソフトのような高機能さを毎回必要としません。毎日開くものだからこそ、1秒未満で立ち上がることや、100〜250MB程度で済むことに価値があります。しかもSpotify Connectやライブラリ編集まで入れているなら、ただの「小さい代替品」ではありません。快適さを削らずに、むしろ主戦場を絞っている。そこが強いです。
Ctrl+Mで開くWinamp mini playerやMilkDropビジュアライザーは、ぱっと見だとかなり懐古的です。けれど、単なるおふざけとして片付けるのは早いと思います。音楽再生ソフトは、実用性だけでなく「触っていて気持ちがいいか」がかなり重要です。昔のWinampを覚えている層には刺さるし、知らない世代にとっても「小さな別窓で操作が完結する」分かりやすさがあります。
ここで面白いのは、見た目の遊びが単独で置かれていないことです。スペクトラムアナライザー、イコライザー、プレイリストがまとまっていて、しかもキーボードで扱える。つまり見た目のノスタルジーと、操作の速さが同じ方向を向いています。こういう作りは、単純なレトロ風テーマよりずっと説得力があります。音楽を「聴く」だけでなく「触る」感覚を残しているからです。
FastpotifyはRust、egui、librespotで作られています。ここでRustを前面に出すのは、単なる技術好き向けのアピールではないと思います。ネイティブで、軽くて、複数OSに対応する。そうした条件をまとめて満たしたいなら、Rustはかなり相性がいいからです。ブラウザエンジンを避けるという方針とも合っていますし、配布される実行ファイルの素直さにもつながります。
一方で、Rustで書かれていることがそのまま使いやすさを保証するわけではありません。音楽アプリは裏側の実装より、Spotifyとの相性やUIの細かな気持ちよさで評価が決まりやすいからです。なので本当に重要なのは、Rustを使っている事実そのものではなく、その選択が「速く起動し、軽く動き、余計な層を挟まない」という体験に落ちているかどうかでしょう。Fastpotifyは少なくとも、その方向を正面から狙っています。
Fastpotifyは、Spotifyの全機能を求める人よりも、毎日同じ基本操作を素早く済ませたい人に向いているはずです。デスクトップで音楽を流しっぱなしにする人、キーボードショートカットを多用する人、LinuxでMPRIS連携を活用したい人にはかなり相性が良さそうです。さらに、ウィンドウを閉じても再生を続けるトレイオプションがあるので、「アプリは開きっぱなしにしたくない」という人にも合います。
逆に、Spotifyの新機能や公式クライアントとの完全な一致を期待する人には向かないかもしれません。Fastpotifyはあくまで独立したプロジェクトで、Spotify AB公認ではありません。こうした非公式クライアントは、便利さの裏でAPIや仕様変更の影響を受けやすいです。だからこそ、これは万能な置き換えではなく、「自分の使い方に合うならかなり気持ちいい選択肢」と見るのが自然だと思います。軽さと操作感を最優先する人には、はっきりした価値があります。
参考: Fastpotify