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「今なに作ってる?」に集まった、2026年9月の開発者たちの現在地

Hacker News で定期的に立つ「What are you working on?」スレッドは、完成品の発表会というより、まだ形になりきっていないものが次々に出てくる現場報告の寄せ集めだ。今回の September 2026 版もその例で、ソーシャルアプリ、ゲームエンジン、ブラウザ移植、仕事の合間の試作が同じ場所に並んでいる。面白いのは、単に「何を作っているか」だけでなく、作っている人が何に息苦しさを感じ、どこに手応えを見ているかまで見えてくることだ。技術そのものより、開発者の生活感が濃いスレッドだった。

Holler が狙うのは「誘う」より先の、誘い合いの面倒くささ

元記事でまず目を引くのは、Jemaclus という投稿者が紹介した「Holler」だ。これは iOS 向けの実在のソーシャルアプリで、本人いわく Android 版も作業中だという。発想はかなり単純で、「自分はこういう場所にいるから、来られる人は来て」という一言を友人に投げるだけ。たとえば「午後2時にファーマーズマーケットにいる」と書いて、あとは現地に行くだけでいい。来た人がいれば会えるし、誰も来なくても、最初から一人で行くつもりだったなら困らない。招待状を出す、断り文句を考える、子どもの予定や家族の送迎に合わせて時間を擦り合わせる、といった手間をできるだけ消したい、というのがこのアプリの中心にある。

投稿者は自分を内向的で社交不安があると述べつつ、それでも友人とは遊びたいと書いている。ただし「会う」こと自体より、会うまでの交渉がつらいらしい。別の投稿では、週末に別の夫婦と遊ぶ約束をしたものの、昼食や犬の散歩、子どもの準備、出発時刻のずれで予定がどんどん後ろ倒しになり、結局ほとんど一緒にいられなかった体験が語られている。その経験から、Holler は「社会的自由」だと位置づけられている。自分の予定に合わせて動き、気が向いた人だけが来ればよい。相手のカレンダーに自分を合わせる必要はない、という考え方だ。

この話題には反応もついた。Foursquare を思い出したという人もいれば、今ならグループチャットで同じことをしているという声もある。Android 版やWeb版がほしいという要望も出たし、UI や色使いを褒める投稿もあった。開発者本人は、デザインの土台は自分で作り、HTML/CSS は Claude にかなり頼ったと明かしている。Canva で大枠を描き、その後 AI と何度もやり取りして形にしたそうだ。ここでは、アプリの思想だけでなく、最近の個人開発が「自分で考え、AI に手を動かさせ、最後は手で直す」という流れに乗っていることも見える。

10年かけた voxel エンジンが、ようやくゲームを載せる段階に来た

次に印象的だったのは、jesse__ の長文だ。彼は Bonsai という voxel game engine を約10年作り続けている。voxel は立方体状の小さな単位で世界を表現する方式で、Minecraft のようなゲームを思い浮かべると分かりやすい。ただし本人は、Bonsai を単なる Minecraft 系にはしたくないと言っている。むしろ、環境そのものを変えることで目的を達成するゲームを目指しているようだ。

技術面ではかなり尖っている。世界やその中の多くのオブジェクトは SDF、つまり signed distance field を使って表現される。ざっくり言えば、形状を「点がどれだけ表面から離れているか」という数値の場で扱う方法だ。これを使うと、形同士を滑らかにつなげたり、丸みのある接合を作ったりしやすい。Bonsai では、世界編集は SDF のパラメータの集合として定義され、それを GPU の shader が voxel grid に投影する。しかも作者は、メモリアロケータ、フォントラスタライザ、collision detector、simulation loop まで全部自作したという。C++ template の代わりに使う metaprogramming language まで作ったと書いてあり、外部依存はほぼ C runtime library だけだと説明している。

このプロジェクトには長く「ゲームを出さない」という意図があったのも興味深い。最初は、エンジンを作り切るだけでも十分に大変で、そこからさらにゲームを出すのは無謀だと感じていたらしい。だが今では実際にゲームを載せられるところまで来ていて、ゲーム部分は closed-source repo で進めている。年末までに Steam page を出したいとも書いている。コメント欄では、いまは voxel エンジンの土台がかなり整い、同時に voxel を使うゲームも増えてきたという反応が多かった。つまり、技術の積み上げがようやく作品の増加につながり始めている、という空気がある。

ぼくが面白いと思ったのは、Holler も Bonsai も「面倒をどこで減らすか」が違うことだ

Holler は人間関係の摩擦を削る発想で、Bonsai は表現力と制御を増やす発想だ。前者は「会うまでがしんどい」を減らし、後者は「作りたい世界を自分の手で作れない」を減らしている。どちらも個人開発らしいが、狙っている痛点がかなり違う。その差がこのスレッドの面白さだと思う。新しいアプリやエンジンが増えた、という表層より、開発者が自分の生活や不満から出発していることがはっきり見える。だから説明が上手い。

Holler の場合、成功するかどうかは「招待の失敗を減らせるか」より、「少人数でも成立する習慣になれるか」にかかっていそうだと思う。投稿者自身も、誰も来なくても自分は行く、と言っている。ここは本質で、参加者数を最大化するSNSとは逆だ。むしろ、来なくても気まずくならないことが価値になる。こういう設計は、人数が集まるイベントアプリより、小さなコミュニティや友人関係に向いているのではないか。反面、利用者が増えるほど「誰かが来るはず」という期待が生まれ、かえって気楽さが失われる可能性もある。そこは面白い綱渡りだと思う。

AI を使った個人開発は、もう「使うかどうか」ではなく「どこまで任せるか」の段階に入っている

Holler の開発者が Claude に HTML/CSS をかなり任せた話は、今回のスレッドの中でも象徴的だった。コード生成が珍しい話ではなくなったからこそ、今は「何をAIに渡し、どこを自分で握るか」が問われている。本人はデザインの骨格を Canva で作り、AI に再現させ、最後に手で修正したという。これは丸投げではない。むしろ、自分の頭の中にあるイメージを、速く試作するための道具として使っている。

この使い方は、個人開発と相性がいいと思う。ひとりだと、デザイン、実装、文言、配色まで全部を高い水準でやるのは難しい。だから AI が「最低限見られるもの」を短時間で作ってくれるだけでも前進になる。ただし、ここで注意したいのは、AI が作ったものをそのまま出すと、どこかで似た味になることだ。Holler の投稿者が色やレイアウトを自分で決めたことは、サービスの個性を保つうえで重要だったはずだ。今後は、AI が作業を代行するというより、作者の判断を何倍も速く反復させる相棒として使われる場面が増えるのではないか。

「作り続けている人」の会話が、完成品の発表よりずっとおもしろい理由

このスレッドが強いのは、完成した大作の紹介より、進行中の試行錯誤が並ぶからだ。Bonsai の作者は10年かけて、ようやくゲームを載せる段階に来たと言う。Holler の作者は、現実の予定調整にうんざりして、連絡の型そのものを変えようとしている。別の投稿では、SimTower を Claude Code でブラウザ向けに書き直した人もいた。つまり、ここには「何を作ったか」だけでなく、「なぜ今それを作るのか」がある。しかも、かなり個人的な理由だ。

こういう場では、完成度の高さだけが価値ではない。まだ荒いが筋が見えるもの、現実の不便さに刺さっているもの、技術的に無駄に凝っているのに本人は本気なもの、そういうもののほうが会話を生む。私はそこに、このスレッドの寿命の長さを感じる。流行の話題はすぐ色あせるが、開発者が自分の不満から出発する限り、似た種類の投稿は来年も再来年も出てくるはずだ。今回の September 2026 版は、そのことを改めて見せてくれた。


参考: Ask HN: What are you working on? (September 2026) | Hacker News

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