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Claude Fable 5.1が370年前の暗号を解いた話

AIが難問を解く、という話はもう珍しくない。ただ今回の件は、数学の問題やコードのバグではなく、17世紀の本に埋め込まれた暗号だったところが面白い。Vals AIは、Claude Fable 5.1に「未解決の暗号を解く」という開いた課題を与え、短時間で実際に解けてしまったと報告した。しかも解けたのは、人間が何十年も見落としてきた“拍子抜けするほど単純な手がかり”だったという。AIの推論力そのものより、問題の見つけ方や粘り強さが効いた事例として読むと、かなり示唆的だ。

17世紀の数字列から「王を守れ」という祈りを抜き出した

元記事が取り上げているのは、Sir Thomas Urquhartの『Logopandecteision』の末尾に置かれた「Cyphral Distich」という暗号だ。見た目は、32個ずつ並んだ数字が2行あるだけの短いcryptogramで、そこから隠された本文を復元するのが目的だった。暗号は1899年に『Notes and Queries』で未解決問題として扱われ、20世紀の暗号研究でも繰り返し言及され、後には歴史暗号研究者Klaus Schmehの「未解決の暗号メッセージ上位50件」にも入っていたという。

Vals AIによると、Claude Fable 5.1はこの問題を44分、176k tokens、そして人間の介入ゼロで解いた。ポイントは、外側に別の暗号表があると考えたのが間違いだったことだ。Urquhartは暗号の直前に32個のProquiritationsを並べており、しかもそこでは「two and thirty」つまり32という数をわざわざ強調していた。さらに、暗号に添えられた詩は、誠実な読者なら「his own heart’s wishes, and the Author’s minde」を見いだせると示している。実際、Proquiritationsの多くは「is the desire」「wish」「hope of」といった語で終わる。

そこでClaude Fable 5.1が見つけた規則はこうだ。暗号のi番目の数字は、32あるProquiritationsのi番目を参照するための番号であり、その数字をその段落内の単語番号として使う。そして、その単語の最初の文字を拾う。すると、復元結果は

O GOD UPHOLD KING CHARLS THE SECOND AND
MAKE HIM THE SUPREME RULER OF THIS LAND

となる。2行とも32文字ちょうどで、末尾もand / landで韻を踏んでおり、詩の形としても筋が通る。さらに、チャールズ2世への祈りをこっそり埋め込むのは、王党派だったUrquhartの政治的立場とも合う、と元記事は述べている。

話はここで終わらない。Urquhartは同じやり方で、さらに大きい「Cyphral Octastich」も残していた。こちらは『The Jewel』(1652年)にある285個の数字の暗号で、これも長く未解決だった。Claude Fable 5.1はこれについても解読を進め、完全ではないものの「all but nine letters」まで到達したとされる。仕組みはDistichと同様で、今度は数字を本のページ番号として使い、各ページ内の単語位置から先頭文字を取る。元記事では、285個の数字と本の284ページの対応、ページ移動のずれ、写本由来の転記差なども細かく説明している。

作者はこの結果を、単なる暗号解読の快挙というより「人間が何百年も見落としていたが、実は単純な手がかりだった問題を、モデルが粘って拾った」例だと位置づけている。Claude Fable 5.1に与えたのは、未解決であり、かつ一意に検証しやすい暗号を探すという条件だった。すでに答えがあるものや、答えの候補がいくらでも立つものは避け、Kryptos K4のような極端に難しい題材も外した。そのうえで、モデルが自分で問題を見極め、行き詰まる候補を捨て、最終的に扱いやすいものへたどり着いた、というのが元記事の筋書きだ。

この件で目立つのは「賢さ」よりも探索の仕方だと思う

まず驚くのは、解法が高度な暗号理論ではなく、テキスト内部の素直な参照規則だったことだと思う。人間は未解決の暗号と聞くと、つい複雑な鍵や変換表を想像する。だが今回の鍵は、本の中に最初から書いてあった。しかもUrquhart自身が「32」を目立たせていた。後から見ると分かるのに、当時の人も現代の研究者も、その“本を読めばよい”という発想に戻れなかったわけだ。AIの強みは、秘伝の発見というより、そういう見落としを素早く試し直す探索力にあるのではないかと思う。

一方で、この事例をそのまま「AIが歴史暗号を一般に解けるようになった」と読むのは少し早いとも感じる。元記事自身が、わざわざ「一意に検証しやすい」「あまりに難しすぎるものは外した」と条件を絞っている。これは重要で、未解決問題の中には、答えが本当に一つに定まらないものも多い。暗号学というより、古文書学、版面の比較、語法の復元が混じるからだ。今回うまくいったのは、検証可能性が高い題材を選び、しかも書物の内部構造がそのままヒントになっていたからだろう。AIの万能感を語るより、適切な問題設定が成果を決めた、と見るほうが誠実だと思う。

それでも、この話が示す余波は小さくない。これまでこうした歴史的な難問は、誰かが何時間も文献をめくり、外れそうな仮説を潰し、手がかりを追いかける時間を確保できるかに左右されていた。つまり、知性だけでなく注意資源がボトルネックだった。モデルがそこを肩代わりできるなら、考古学的な暗号、失われた注記、古い数理問題、図書館の片隅に埋もれた謎の回収速度はかなり変わるはずだ。研究者の仕事がなくなるというより、入口のふるい分けが変わる、というほうが近い。

最後に気になったのは、元記事がかなり率直に「人間にとって恥ずかしい」と言っている点だ。これは少し挑発的だが、半分は当たっている。というのも、こういう謎は「難しい」から未解決なのではなく、「単純すぎて逆に見えない」から残ることがある。Claude Fable 5.1の成果は、巨大な知能が古典を圧倒したというより、単純な規則を疑わずに最後まで追ったことの勝利に見える。私はむしろ、ここにAIのいちばん実務的な価値が出ていると思う。派手な発明より、見落とされた平凡な答えを拾い上げる力だ。そういう能力は、暗号だけでなく、文書仕事や調査業務でもかなり効いてくるはずだ。


参考: Claude Fable 5.1 Solves the Cyphral Distich

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