SpaceNewsによると、米スタートアップのCowboy Spaceが、米連邦通信委員会(FCC)に対して、最大20,000基の衛星からなる「Stampede」という宇宙データセンター網の計画を申請しました。
宇宙データセンター、という言葉だけでもかなり未来感がありますが、やっていること自体は意外と地に足がついています。要するに、AIやクラウド計算に必要なコンピュータを、地上ではなく宇宙に置こうという発想です。
しかもCowboy Spaceは、ただ「宇宙に置きたい」と言っているだけではありません。最近2億7500万ドルを調達し、その資金でロケットを開発し、上段(upper stage)をそのまま計算プラットフォームとして使う構想まで進めているのです。かなり攻めています。
記事のポイントは、宇宙が「冷たくて静かな夢の場所」だからではなく、電力の確保がしやすいからです。
Cowboy Spaceが想定しているのは、地球の低軌道(LEO: Low Earth Orbit)の中でも、dawn-dusk sun-synchronous orbitと呼ばれる軌道です。これは簡単に言うと、太陽の光を長時間、かなり安定して受けやすい軌道です。
つまり、宇宙で太陽光発電をしながら計算機を動かすというわけです。
地上のデータセンターは、
という問題を抱えています。AIがどんどん重くなる今、この制約はかなり深刻です。
Cowboy Spaceの主張は、「それなら、電力が豊富な場所へ計算機を持っていけばいい」というもの。かなり乱暴だけど、発想としては実にわかりやすい。私はこういう、技術のボトルネックを真正面からひっくり返しにいくアイデアは嫌いじゃありません。
ここが重要なのですが、まだ完成図はかなりあいまいです。
Cowboy SpaceはFCC申請の中で、衛星の設計がまだ終わっていないと述べています。さらに、サービス開始前には許可の変更(license modification)が必要になる見込みだとも書かれています。つまり、今回の申請は「もうできます」ではなく、これから作ります、まず枠を押さえますという段階です。
それでも計画は野心的で、
という流れが示されています。
1メガワットというと、家庭用の感覚では桁違いです。もちろんデータセンターとしては巨大ではありませんが、宇宙で継続運用する計算基盤としてはかなり野心的です。
Cowboy Spaceは、FCCに複数のwaiver(免除)を求めています。
これは、通常ルールの一部を「この計画に限っては適用除外にしてほしい」とお願いするものです。
理由は、通信にradio frequencies(電波)よりもoptical communications(光通信)を主に使うからです。
光通信は、ざっくり言うとレーザーで通信する方式です。電波帯が混雑しがちな中で、通信容量を確保しやすいのが魅力です。
さらに、FCCルールでは「提案した衛星の半分を6年以内にLEOへ配置し、残りは3年後までに展開する」といった条件がありますが、Cowboy Spaceはこれにも例外を求めています。
20,000基という超大規模計画を考えると、たしかに通常のルールにそのまま当てはめるのは厳しそうです。
この分野、実はCowboy Spaceだけではありません。
記事では、同様の構想として
が挙げられています。
こうして見ると、宇宙データセンターは「夢物語」ではなく、少なくとも一部の大手や新興企業が本気で検討しているテーマだとわかります。
とはいえ、数字が大きすぎて感覚がバグります。20,000基でも十分に途方もないのに、上には上があるのが今の宇宙ビジネスらしいところです。

面白いのは、Cowboy Spaceのロケット開発そのものもまだ設計段階だという点です。
今回FCCに出したのはあくまで衛星コンステレーション(衛星群)の話で、ロケットの認可は主に米連邦航空局(FAA)の管轄です。
つまり、衛星をどう飛ばすかとロケットをどう作るかは別問題で、どちらもこれからクリアしていく必要があります。
ここはかなり大変だと思います。宇宙データセンターをやるには、
という、普通なら別会社がやるような工程を一気通貫でやる必要があるからです。
Cowboy Spaceが「vertically integrated infrastructure」、つまり打ち上げから電力、計算まで自前で持つ路線なのは、リスクも大きいけれど筋は通っています。
Cowboy Spaceはもともと、宇宙太陽光発電のように、宇宙で集めた電力をwirelessly beam back to Earth(無線で地上へ送る)構想も持っていました。
記事によれば、そちらの専用計画はまだFCCに提出されていません。
ただし、同社はそのための技術についても重要な進展があったとしています。さらに、今年後半にはin-orbit power-beaming(軌道上での電力ビーム送信)とoptical laser link(光レーザー通信)の実証を予定しているとのことです。
つまり、データセンター構想は単独の話ではなく、将来的には
という、かなり大きな宇宙インフラ構想の一部らしいわけです。
率直に言って、ここまでくると「宇宙版の電力会社とクラウド事業者を同時にやる」みたいな話で、スケールがでかすぎて笑ってしまいます。でも、こういう発想が実際に資金を集めているのが今の宇宙産業の面白さでもあります。
Cowboy Spaceは、AIが21世紀を代表する技術になる一方で、成長の最大の制約は電力だと主張しています。
これはかなり本質的だと思います。
AIモデルを動かすにも、学習させるにも、とにかく電気を食います。GPUをたくさん並べればよい、という時代はもう終わりつつあって、今はそのGPUを動かす電力をどこから持ってくるかがボトルネックになりがちです。
Cowboy Spaceの言い分を要約すると、
「半導体を太陽のそばに置けば、地上の送電網に頼らずに済む」
ということです。
たしかに理屈は通っています。問題は、理屈が通ることと、宇宙で安定運用できることは別、という点でしょう。宇宙は放射線、熱、打ち上げコスト、保守の難しさなど、地上にはない厄介ごとが多すぎます。
なので私は、技術的には筋があるが、事業化はかなり難しいという見方です。とはいえ、今のAI需要の過熱ぶりを考えると、こうした極端な解決策が本気で検討されるのも不思議ではありません。
FCC申請では、共同創業者でRobinhoodの億万長者創業者として知られるBaiju Bhattとその関係者が、Cowboy Spaceの**議決権株式の約65%**を保有していることも示されました。
資金力のある人物が、宇宙インフラのような長期勝負に踏み込んでいるわけです。
こういう案件は、技術力だけでなく「途中で何年も赤字でも耐えられるか」が超重要なので、資本の厚さはかなり大きな武器になります。
Cowboy Spaceの計画は、現時点ではまだ「実現した未来」ではなく、「実現したい未来」の段階です。
ただ、その方向性はかなりはっきりしています。
地上の電力制約に縛られず、宇宙でAI計算を回す。
このアイデアは、突飛に見えて、実はAI時代の根本課題に対するかなり真面目な回答でもあります。
個人的には、宇宙データセンターは「すぐに主流になる」類の話ではないと思います。けれど、地上の限界を突破するための実験場としては非常に面白いです。
そして、こうした“無茶に見えるが筋はある”構想が、数年後に当たり前のインフラの一部になっている可能性も、宇宙産業では本当にゼロではないのが怖いところです。
参考: Cowboy files plans for up to 20,000 orbital data centers