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DHHがRails World 2026で語った、AI時代のコードの書き方

Rails World 2026 の幕開けで、37signals の共同創業者である DHH が登壇し、AI エージェント時代に開発がどう変わるのかを語った。題材はかなりはっきりしていて、37signals が「手書きのコード」をいったん止め、AI を前提にした開発へ寄せていること、そして Rails のような「決まりに沿えば速く作れる」フレームワークが、なぜこの流れで効いてくるのかという話だ。単なるイベントの基調講演ではなく、今の Ruby/Rails 圏の空気をかなり強く映す内容として読む価値がある。

37signals が「pencils down」にしたという宣言の重さ

元記事は、Rails World 2026 のオープニング基調講演で DHH が何を語ったかを示している。説明文によれば、彼はまず AI エージェントの時代に入ったことを前提に置き、そのうえで 37signals が「pencils down」、つまり人の手でコードを書くのをいったん止めた理由を話した。ここで言うのは、完全に人間の実装をやめたという単純な話ではなく、少なくとも新しいコードを作る中心を AI に移した、という姿勢の表明に近い。DHH は以前から、ソフトウェア開発の生産性や実装の筋の良さに強いこだわりを見せてきた人物だが、その彼が AI エージェントを前提にした転換を public に語るのは、かなり象徴的だ。

講演ではまた、Rails の「convention」、つまり慣習に従う設計が、この変化の中でなぜ強みになるのかも扱われたようだ。Rails は昔から「設定より規約」を掲げ、細部まで自由に作り込むよりも、決まった流儀に乗せたほうが速く、読みやすく、保守しやすいという思想を持っている。元記事の説明は途中で切れているが、少なくとも DHH は AI がコードを書く世界でこそ、こうした慣習が効いてくると考えているらしい。AI は人間の暗黙知を全部は持てないので、プロジェクトごとに書き方がバラバラだと迷いやすい。逆に、Rails のように「こう書くのが普通」という土台があると、生成も修正もやりやすい、という筋の主張が透けて見える。

この講演が扱うのは、単に「AI は便利です」という一般論ではない。37signals という実在のプロダクト開発現場が、どこまで AI に寄せるのかを実験ではなく方針として示している点が大きい。しかもそれを、Rails の本家に近い立場の人間が、コミュニティの大きな場で話している。だからこそ、これはひとつの会社の開発方針というより、Rails 圏全体に対するメッセージとして受け取られやすい。元記事の短い説明文だけでも、その温度感はかなり伝わってくる。

AI に寄せるほど、Rails の「当たり前」が武器になるのではないか

僕は、この話はかなり筋が通っていると思う。AI エージェントがコードを書くとしても、何でも自由に書かせれば良いわけではない。実際には、フレームワークの流儀が明確で、アプリの形がある程度予測できるほうが、AI は迷いにくいはずだ。Rails の強みは、昔から人間にとっての「書きやすさ」だったが、そこに「機械にも分かりやすい」という新しい効能が乗る。これはかなり大きい。人間が読みやすいコード規約は、そのまま AI が壊しにくい足場にもなるからだ。

ただ、そこには少し怖さもある。Rails が強いのは確かだとしても、「AI に合わせやすいフレームワーク」が勝つのか、「AI そのものがフレームワークの違いを飲み込む」のかはまだ分からない。AI の進化が速い時期は、開発者が自分たちの都合のよい未来を先取りして語りがちだ。DHH の発言もその例外ではないと思う。Rails の規約が効くという話は説得力がある一方で、AI がもっと抽象度の高い設計を扱えるようになれば、規約の価値が相対的に下がる可能性もある。つまり、今の時点では正しい予感でも、恒久的な真理とは限らない。

「手で書かない」ことは品質低下につながるのか、それとも別の管理能力が要るだけなのか

37signals が pencils down を掲げたと聞くと、すぐに「品質は大丈夫なのか」という疑問が浮かぶ。これは自然な反応だと思う。手で書くコードには、書いた人の意図や責任感が入りやすい。AI に書かせると、その場の実装速度は上がっても、細部の判断が荒くなるのではないかと心配されやすい。特に業務ソフトや長寿命のアプリでは、見た目の生産性より、あとから読んだときの分かりやすさのほうがずっと効いてくる。

一方で、37signals のような会社がこの方針を打ち出すなら、単に「AI に任せる」のではなく、レビューや仕様の持ち方まで変えている可能性が高い。人が実装の細部に時間をかけないぶん、何を確認すべきか、どこで間違いを見つけるか、どういうテストを置くかが以前より重要になる。つまり、開発の重心が「書くこと」から「選び、見極め、直すこと」へ移る。ここをうまくやれないと、AI は速さだけをもたらして、保守の負債を増やす。しかし逆に、そこまで含めて設計できる組織なら、かなり強い。DHH が見せているのは、単なるコーディング自動化ではなく、その管理方法の再設計なのだと思う。

37signals の実験は、Rails コミュニティにとって半分は宣言、半分は圧力になる

この講演は、37signals の社内事情を語る場であると同時に、Rails コミュニティへのメッセージでもある。DHH がこうした話をオープニングで打ち出すと、周囲の開発者は「これは単なる流行追随ではない」と受け取るはずだ。Rails の創業的な思想を語ってきた人物が、AI 時代にもなお conventions を押し出す。そこには、Rails は古びた枠組みではなく、むしろ AI を受け止める器だという主張がある。コミュニティにとっては心強い一方で、同時に少し圧もある。今後は「AI を使うかどうか」ではなく、「Rails の流儀に沿って AI をどう使うか」を問われるからだ。

僕はこの圧力は悪くないと思う。Rails は長年、何でも自由に作りたい人より、迷わず速く作りたい人に支持されてきた。その価値観は AI 時代でもあまり変わらない。むしろ、自由度の高い設計は人間にとっては魅力でも、AI にとってはノイズになりやすい。だから、Rails のようなフレームワークが再評価される余地は十分ある。とはいえ、AI を使えば何でもうまくいくわけではないし、Rails が自動的に未来を保証するわけでもない。DHH の講演は、楽観と現実感のあいだでかなり強い旗を立てた発言として読むのがいちばん自然だと思う。


参考: Rails World 2026 Opening Keynote - DHH

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