いちばん引っかかったのは、「作った」という事実そのものよりも、「でも他社には出さない」ときっぱり線を引いているところだった。こういう話はつい、Anthropicがすごいものを作った、で終わりがちだけれど、読んでいるとむしろ逆で、普通のチームにはそのまま移せないくらい特殊な問題を解いているらしい、という点のほうが面白い。
Gitはコード管理の定番だけれど、AIが大量にコードを書く前提になると、たぶん人間の開発とはボトルネックの種類が変わるのだと思う。ブランチを切って、差分を見て、マージして、という今の流れは、人間が少しずつ触るぶんにはよくできている。でもClaudeのようなモデルが何千、何万行という単位でコードを動かすなら、履歴の持ち方や変更の追い方そのものを変えたくなるのは自然だ。そこまでは腑に落ちる。
ただ、そこから「じゃあGitの置き換えを作ろう」に行くのが、いかにもAI企業らしい。しかもAnthropicはそれを社内で完結させてしまった。ここには少し怖さもある。モデルが開発の道具を変え、その道具に合わせて開発基盤まで再設計されると、もう元の世界には戻れない感じがするからだ。AIのための仕組みが、AIを使える会社の前提条件になっていく。そうなると、プロダクト競争というより、開発環境そのものの競争になっていくのではないかと思う。
一方で、公開しない判断にも妙な正直さを感じた。なんでもオープンにするわけではなく、これは自分たちの規模と使い方に特化しすぎている、と言うほうがむしろ誠実だ。便利そうに見える社内ツールほど、実際には「その会社だから成り立つ」ことが多い。読んでいて、欲しいのはScionそのものより、Anthropicがどういう制約を感じてGitを越えたのか、その思考のほうだなと思った。
参考: Anthropic built its own git replacement for AI-scale coding. But you can’t have it.