The Registerの記事は、Domoのチーフデザインオフィサーであり futurist(未来予測を担う役割)でもある Chris Willis 氏の発言を中心に、いまのAIブームに対するかなり現実的な見方を紹介しています。
彼の主張をひとことで言うと、「AIで焦るな、まず落ち着け」です。
これ、かなり大事な視点だと思います。というのも、最近のAIは「使わないと出遅れる」「今すぐ導入しないと競争に負ける」という空気が強すぎるからです。便利なのは事実でも、導入すれば自動的に成果が出るわけではありません。ここをはき違えると、高いツール代だけ払って終わる、という悲しい未来が待っています。
Willis氏が気にしているのは、AIが恐怖を煽る形で売られていることです。
たとえば、

こういう圧力、見覚えがありますよね。
でも彼は、「Fear is not a durable strategy for innovating」、つまり「恐怖は、持続的なイノベーション戦略にはならない」と言っています。
これはかなり筋が通っていると思います。恐怖で動くと、判断が雑になります。
「何を解決したいのか」より先に「AIを入れないとまずい」で突っ走ると、だいたい後で現場が苦しむんですよね。

記事の中で面白いのは、Willis氏がAIモデルを「spec(仕様)がない商品」だと表現しているところです。
普通の製品なら、

をはっきり決めます。
でも大規模言語モデル(LLM)は、雑に言えば「何でもできます」と言われがちです。
もちろん、実際には万能ではありません。
文章生成、要約、コード補助、検索支援など得意分野はあるけれど、誤答もしますし、責任まで取ってくれるわけでもない。そこを理解せずに「すごいらしいから入れる」は危険です。
Willis氏の話で、かなり本質的だと感じたのはここです。
企業の経営層は、AIを導入すれば自動的に革新が起きると思いがちだが、実際にはそうではない。
彼によれば、いまの企業に必要なのはinnovation problem(革新の問題)ではなく、impatience problem(焦りの問題)なのです。
この指摘、かなり刺さります。
AIのニュースを見ていると、みんな「何を作るか」より「早くやるか」に意識が寄りがちです。結果として、現場ではちゃんと使えるものができないまま、PoC(概念実証。実際に大きく導入する前のお試し)だけが量産される。これ、よくある失敗パターンです。
Willis氏は、AI導入がAI theater、つまり「やってる感の演出」になっていると指摘します。
たしかにありますよね。
こういう状態です。
さらに記事では、tokenmaxxing という言葉も紹介されています。
これは、AIモデルにアクセスするためのtoken(ざっくり言えば、AIに入力・出力させる量や利用単位)を、とにかく大量に使わせるような運用のことです。要するに「いっぱい使ってるから、何か進んでる感はある」という発想ですね。
でもWillis氏は、これは底上げの物語にはなっても、会社の利益には直結しないと見ています。
ここは、かなり冷静で現実的なコメントだと思います。
Willis氏がすすめるのは、壮大なAIビジョンから始めることではありません。
たとえば、
こうした、地味だけど確実に時間を取られる仕事から始めるべきだと言います。
実際、彼が挙げた事例では、ある顧客向けに請求書を読み取り、誤りを見つけ、異常を人間が確認できるようにするアプリを作ったところ、顧客はとても満足したそうです。
これはかなり現実的です。
AIは「未来っぽい大技」に使いたくなるけれど、現場が本当に喜ぶのは、こういう毎日ちょっと面倒な作業を減らすことだったりします。派手さはないけれど、効果はちゃんと出る。こういう使い方のほうが、ずっと健全だと思います。
記事の中では、スウェーデンの fintech 企業 Klarna が一度 customer service staff をAIに置き換えたものの、その後、人間に戻した話にも触れています。
これは象徴的な例です。
chatbot は確かに便利ですが、「とりあえず全部 chatbot にする」のは危ない。
なぜなら、ユーザーは必ずしも chatbot と話したいわけではないからです。
個人的にも、ここは完全に同意です。
AIは便利でも、怒っている顧客、不安な顧客、複雑な事情を抱えた顧客への対応は、やっぱり人間のほうが強い場面が多いです。
AIは一次受付や定型案内には向いていても、最終的な納得感を作る役割は人間が担うべきではないか、と思います。
Willis氏のメッセージは、結局かなりシンプルです。
AIは魔法ではない。
まず業務を理解し、どこに人間の判断が必要で、どこを自動化できるのかを見極めるべきだ、と。
彼は、AIを強力なエンジンにたとえています。
でも、そのエンジンをビジネスに積む前に、どんな道を走るのか、ライトはあるのか、夜の暗闇で突っ走らないかを考えないといけない。
このたとえ、かなりうまいです。速い車でも、前が見えなければ事故りますからね。
記事の最後でWillis氏は、いずれCFO(最高財務責任者)が「なんでこんなにお金を使って、成果が出ていないの?」と問い始めるだろうと話しています。
これももっともです。
AIは導入して終わりではなく、使うたびにコストが発生します。モデル利用料、運用費、管理コスト、教育コスト……積み上がるとそれなりに重い。
だからこそ、**“AIを入れた”ではなく、“何が改善したか”**を見ないといけない。
この視点がないと、AIはあっという間に「流行の高いおもちゃ」になってしまうでしょう。
そしてそれは、かなりもったいない。
この記事はAIそのものを否定しているわけではありません。
むしろ、AIをちゃんと使うために、焦るなと言っているのがポイントです。
私の感想としては、こういう話がもっと増えてほしいと思います。
いまのAI界隈は、どうしても「できること」ばかりが前に出ます。でも現実の業務では、「どこまで任せて、どこから人間が見るか」を決めるほうがずっと重要です。
AIは万能の救世主ではない。
でも、使いどころを絞れば、地味に強い。
この記事は、その当たり前だけど見落とされがちなことを、かなりはっきり言っているのが面白いところです。
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