この記事を読んでまず思ったのは、ブラックホール研究って、いまや「見つける」より「取りこぼさない」段階にかなり入っているんだな、ということだった。しかもその取りこぼしを埋める主役が、X線と光学スペクトルの組み合わせだというのがいい。単独の観測だけでは見えないものを、別の波長で補っていく。地味に見えるけれど、たぶんこういう積み重ねがいちばん効く。
特に引っかかったのは、光学やUVのサーベイでは見逃されがちな accreting black holes がかなりある、というくだりだ。ブラックホールは「黒い」のだから見えないのは当たり前、と思いがちだけれど、実際には周囲のガスや塵が邪魔をしていたり、そもそも明るさの出方が偏っていたりして、見えるはずのものまで見落とす。そこで eROSITA のX線地図に SDSS のスペクトルを重ねると、赤方偏移、つまりどれくらい遠いかまで含めてちゃんと押さえられる。観測の分業がそのまま科学の解像度になる感じがして、かなり気持ちいい。
もうひとつ面白かったのは、標準的な自動解析パイプラインが通らない「weirdos」がたくさん出てきた、という話。こういうのは研究の現場では面倒な例外扱いになりがちだけれど、記事の調子からすると、むしろそこに新しい現象が詰まっている。機械的に処理できないデータが増えるのは一見トラブルだけれど、天体物理ではその「面倒さ」こそが未知のサインなのだと思う。自動化が進んでも、最後は人の目で確かめる必要がある、というのもいかにも観測天文学らしい。
それにしても、70%から90%の supermassive black hole growth が、厚い塵やガスの向こう側か、X線すら抑え込まれる段階で起きたかもしれない、という見立てはかなり強い。ここは断定しすぎないように読みたいけれど、もし本当にそうなら、私たちが「見えている宇宙」は成長のかなり薄い表面しか掴めていないことになる。派手なクエーサーだけを追っていると、宇宙の本当の繁殖力みたいなものを取り逃がすのだろう。そう考えると、このDR20は単なるデータ公開というより、「見えにくいものを見える形にしていく」ための足場を増やした節目に見えた。
参考: Mapping Monsters: SDSS-V Data Release 20 Unveils All-Sky Views of Supermassive Black Holes - SDSS