まず思ったのは、「それ、もうEUではかなり前からやっているのでは?」ということだった。記事の中でAmodeiが言っているのは、モデルの進化を急がず、第三者の評価を入れ、競合企業どうしでも安全性について話せるようにしたい、という話だ。筋は通っている。危ないものを作っている自覚があるなら、ブレーキの話をするのは当然だろう。
ただ、その主張が新しい旗に見える一方で、欧州ではかなり制度化されているという指摘が面白い。ここで引っかかるのは、彼の言葉が「世界に向けた提案」に見えつつ、実際には既に一部の地域では義務になっている点だ。第三者評価やリスク管理、重大インシデントの報告まで、EUのAI Actの文脈ではすでにルールとして置かれている。しかも記事は、Amodeiの投稿がそこを一切触れていないと強調している。この無視のしかたは、わざとらしいというより、かなり政治的だなと思った。
もう一つ気になったのは、彼が求めている「antitrust waiver」だ。要するに、競合企業が安全のために情報交換しやすくする免除のことだが、ここにはきれいごとだけでは済まない匂いがある。安全の名目で企業同士が足並みをそろえるなら、それは確かに有益かもしれない。でも同時に、どこまでが安全対策で、どこからが都合のいい協調なのか、境目がかなり曖昧になる。独禁法の話が出てくるのも納得だ。技術の速度を落としたい、でも競争は維持したい、その両立は簡単ではない。
記事を読んでいて、むしろ「減速」そのものより、「誰がその減速を決めるのか」の方が本題だと感じた。企業の自主規制だけで足りるのか、政府が介入するのか、EUのように法で縛るのか。Amodeiはその全部をつなぎたいように見えるけれど、現実には地域ごとに答えが違う。そこをぼかしたまま“世界標準”の話にしてしまうと、少し雑に聞こえる。安全を語る言葉ほど、実際には管轄と権限の話になるんだな、とあらためて思った。
参考: Anthropic's Dario Amodei says the AI industry must slow down