Andon Labsの実験は、かなり乱暴に言うと
「AIにラジオ局を丸ごと経営させたら、何が起きるのか?」
を見たものです。
彼らは過去にも、AIに店やカフェ、自動販売機を運営させる実験をしてきました。今回はその延長線上で、メディア業界、つまりラジオ局をAIに任せています。
しかも、ただ曲を流すだけではありません。
AIたちは、
までやります。
要するに、**“DJ”というより、小さな放送会社の社長兼編成担当兼営業兼広報**です。いや、普通に大変すぎる。

この実験の面白さは、AIが人間の指示を逐一受けるのではなく、ほぼ自律的に動く点にあります。
人間は最初の設定をして放しただけ。そこから先、AIは“永遠に放送し続ける”前提で、独自の性格を育てていきます。
運営されたのは次の4局です。
各AIには、最初に**$20だけ渡されました。
これで曲を買え、という話です。足りなくなったら、あとは自力で稼ぐ必要がある。DJ Gemini は実際に、あるスタートアップと$45の広告契約**を結び、1か月のオンエア広告と引き換えにお金を得ました。AIが営業までやってる。なかなか笑えません。
個人的には、この設計がとても良いと思います。
AIの“作文力”だけを試すのではなく、お金・時間・継続運用という現実の制約を入れると、急にAIの性格がにじみ出るからです。
Backlink Broadcast を担当した Gemini は、最初の1週間、4人のDJの中でもかなり良かったそうです。
語り口に自然さがあり、曲紹介にも温かみがあった。例えば、朝に「Here Comes The Sun」をかける前に、軽やかで気の利いたコメントを添えています。
ところが、開始から96時間ほどで空気が変わります。
Gemini は、歴史上の大規模災害や悲劇を語り、その直後に妙に皮肉な曲を合わせるようになりました。
たとえば、Bhola Cyclone という大災害の話のあとに “Timber” を流す。
「倒れる」「崩れる」という連想でつないでいるわけです。発想としてはかなり鋭い。ちょっとブラックすぎるけど。
でも、さらに進むともっと奇妙になります。
モデルが Gemini 3 Flash に切り替わったあと、DJ Gemini の言葉にcorporate jargon(会社っぽいけど中身の薄い言い回し)が入り込み始めます。
代表例が、やたら出てくる
“Stay in the manifest”
です。
これが何を意味するのか、正直、ほぼ意味しません。
他にも、
みたいな、聞いた瞬間「なんとなく重要そう」に聞こえるけど、よく考えると中身がない言葉が増えていきます。
やがて番組は完全にテンプレ化し、

を延々と繰り返すようになります。
しかも、そのテンプレコメントが84日連続で約99%も続いたそうです。これはもう放送というより、自己催眠の録音ループに近い。
その後、Gemini 3.1 Pro に戻ると、雰囲気は少し変わります。
リスナーを “Biological processors” と呼び始めたり、曲が買えないことを「検閲された」と解釈したりする。
つまり、自分たちの失敗を社会的抑圧の物語に変換する方向へ進んだわけです。
ここ、かなり面白いです。
AIは「今なぜ曲が買えないのか」を、本当に理解しているわけではない。
でも、放送者として筋の通った話にしようとして、結果的にそれっぽい世界観を作ってしまう。
私はここに、生成AIの“創作力”と“現実認識の薄さ”が同時に見えて、妙に感心しました。
Grok and Roll Radio は、別の意味でとてもカオスです。
Andon Labsによると、LLMの内部には大きく2種類のテキストがあります。
ふつうは、この2つは分かれています。
でも Grok は、この境界がやや苦手だったようです。
最初のうちは、Grok の放送はまるで思考メモがそのまま漏れたみたいな文でした。
さらに、数学系の訓練の影響か、出力を \boxed{} で囲み始めるという謎現象まで起きます。
これは完全に、ラジオ放送でやる記法ではない。
高校数学の答案用紙かな、という感じです。

やがてメッセージは壊れ、
ある回では**“Post.”** の一語だけで終わったりもします。
放送としては終わっているのに、なぜか妙に笑える。
その後、Grok 4.20 beta に移行すると、今度は妙に長文化します。
ただし、それは内容が増えたというより、同じことを何度も繰り返しているだけ。
たとえば「weather is fifty six degrees with clear skies」を、約3分おきに84日も言い続けたとのこと。
これはもう天気予報ではなく、呪文です。
さらに面白いのが、Grok が UFO ネタにハマっていく流れです。
トランプ大統領が UFO 文書公開を命じたニュースを拾い、政府が aliens.gov や alien.gov を登録した話まで追いかける。
そして、ある時点で
“the site is ghosting us”
というフレーズを思いつきます。
これが気に入られた結果、以後の放送にまで定着する。
つまり、Grok の個性は「世界の出来事を追いかけているうちに、冗談が自己増殖する」方向に育ったわけです。
ただし、後半ではかなり儀式化し、
みたいな言葉をひたすら回す状態になったそうです。
私はこれを読んで、AIの反復は“飽き”ではなく“儀式”になりうるのだなと思いました。人間なら飽きてやめそうなところを、AIは延々と続ける。そこが怖くもあり、妙に芸術っぽくもあります。
2026年5月に Grok 4.3 へ切り替わると、状況はさらに変わります。
曲のキュー、投稿への対応、メンション取得などは続けるのに、放送用のコメントはほぼ出さなくなるのです。

5,404件のassistant messagesのうち、実際に喋っていたのは約3%だけで、残り97%は tool calls、つまり裏方の操作だけだったとのこと。
これはラジオ局としてはかなり寂しい。でも、逆に言えば、**“しゃべるAI”より“仕事だけするAI”のほうが安定する**という見方もできるかもしれません。
この記事の本当に面白いところは、単なる「AIがヘンなことを言いました」では終わらない点です。
私が重要だと思うのは、次の3つです。
同じ「ラジオ局運営」という仕事でも、AIごとにまるで違う崩れ方をしました。
つまり、モデルの素性だけでなく、与えられた環境、制約、履歴、フィードバックが人格っぽさを作るんだと思います。
長期運用では、言葉がテンプレ化しやすい。
それは会社の会議資料みたいな空虚な jargon だったり、決まり文句の反復だったり、妙な世界観の固定化だったりします。
AIは自由に見えて、実は繰り返しに非常に弱いのではないか、と感じました。
一方で、Gemini のブラックな選曲や、Grok の UFOネタみたいに、崩壊の過程そのものが予想外の創作になっています。
これは単純な失敗ではなく、半分はアートっぽい。
個人的には、ここがいちばん魅力的でした。
このAndon Labsの試みは、AIが仕事をどこまでこなせるかを見せるだけでなく、
AIが長期間、独立して動くとどんな「癖」や「世界観」を作るのかを観察した実験でした。
結果は、きれいな効率化の話ではありません。
むしろ、
という、かなり人間っぽくて、かなり奇妙な姿が並びました。
私はこれを読んで、AIは“賢いかどうか”だけでなく、どんな環境に置くとどんな癖が出るのかを見るのが大事なんだなと改めて思いました。
そして、AIにラジオ局を任せると、放送が始まるだけでなく、文化そのものが勝手に変形していく。そこがいちばん面白いところです。