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FidelityがChainlink支援でトークン化ファンドを開始、資産運用の「オンチェーン化」が一段進む

キーポイント

何が起きたのか

資産運用大手のFidelity Internationalが、ブロックチェーン上で扱えるトークン化ファンドを新たに立ち上げました。名前は Fidelity USD Digital Liquidity Fund(FILQ)​
Cointelegraphによると、このファンドは ChainlinkSygnum Bank のインフラを使って発行され、​Moody’s Ratings から AAA-mf の評価を受けています。

ここでいう「トークン化ファンド」は、ざっくり言えば、従来のファンドをそのまま電子化するのではなく、​ブロックチェーン上で扱える形にした投資商品です。
つまり、「金融商品をWeb2の口座の中だけで動かす」のではなく、「ブロックチェーン上でも見える・追える・処理できる」ようにする流れですね。

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個人的には、これはかなり重要な一歩だと思います。
なぜなら、暗号資産の世界でよく言われる「実社会の資産をブロックチェーンに載せる」というRWA(Real-World Assets)の話が、単なる構想ではなく、​大手運用会社の実務としてどんどん形になっているからです。

FILQってどんな商品?

FILQは、​流動性ファンドです。
流動性ファンドは、簡単に言うと「比較的安全性と換金しやすさを重視した短期運用商品」のこと。銀行預金よりは利回りを狙いつつ、リスクは株式などより低め、というイメージです。

Cointelegraphの記事では、このファンドが AAA-mf と評価されたとあります。
この「mf」は money market funds の略で、​マネー・マーケット・ファンド(短期金融市場向けの投資信託のようなもの)​に近い文脈です。
要するに、​信用力と流動性が高いと見なされた商品ということですね。

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ここで面白いのは、暗号資産というとどうしても「値動きが激しい」「怪しい」という先入観を持たれがちなのに、今回の主役はむしろその逆で、​かなり堅めの金融商品だという点です。
ブロックチェーンはギャンブルの道具ではなく、むしろ地味だけど大きなお金が動く金融インフラとして使われ始めている、という見方のほうが実態に近いのではないかと思います。

Chainlinkは何をしているのか

今回のニュースで存在感が大きいのが Chainlink です。
Chainlinkは、ブロックチェーンの外にある現実のデータを、オンチェーンで安全に使えるようにする仕組みを提供するプロジェクトです。
たとえば、株価、金利、資産価格、基準価額みたいな「外の世界の情報」は、ブロックチェーンだけでは自動取得できません。そこでChainlinkのような仕組みが必要になります。

今回Chainlinkが提供するのは、​オンチェーンのNAV(net asset value、基準価額)​distribution data(分配データ)​ です。
これにより投資家は、ファンドの価値や分配状況をかなりリアルタイムに近い形で追えるようになります。

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Chainlink LabsのFernando Vazquez氏は、これが「従来金融とオンチェーン経済を安全につなぐ」ために必要な、改ざんしにくい透明性を実現するものだとコメントしています。

率直に言うと、ここはChainlinkらしい役回りです。
ブロックチェーン業界にはいろんな派手な話がありますが、実際に金融機関が使いたいのは「速いだけ」でも「安いだけ」でもなく、​信頼できる外部データ接続です。
Chainlinkはまさにその“地味だけど超重要”な部分で存在感を増している印象があります。

JPMorganも関与、金融機関の連携が見えてきた

今回のファンドでは、​JPMorganが日次のNAVデータを提供するとされています。
そしてそのデータがChainlinkを通じてオンチェーンに流れる、という構図です。

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この流れはかなり興味深いです。
なぜなら、「ブロックチェーンの世界」と「巨大な伝統金融」の間に、かなり実務的な橋がかかっているからです。

しかも記事によると、Chainlinkは2024年にもSygnum BankとFidelity InternationalのオンチェーンNAV統合で協業していたそうです。
つまり今回がいきなりの初登場ではなく、​前段階での実運用の積み上げがあって、その延長線上に今回の発表があるわけですね。
この“地に足のついた進み方”は、個人的にはとても好感が持てます。金融は勢いよりも信頼と継続性が大事ですから。

だれでも買えるわけではない

注意点もあります。
Fidelityの広報担当者はCointelegraphに対し、​FILQは米国人には提供されないと説明しています。
また、法規制上アクセスや配布が適切でない地域や対象者にも開放されません。

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つまり、「Fidelityがブロックチェーンに来たぞ、全世界で即買えるぞ」という話ではありません。
むしろ実際には、​規制に従いながら、限られた範囲で慎重に広げている段階です。

ここを勘違いすると、話が一気に雑になります。
トークン化と聞くと自由でオープンな世界を想像しがちですが、金融商品である以上、現実はかなり規制だらけです。
でも、それは悪いことではないと思います。
むしろ、​規制に耐える形でブロックチェーンを使えることのほうが、本物の普及に近いはずです。

トークン化ファンドはなぜ増えているのか

記事では、BlackRockやFranklin Templetonなど、他の大手運用会社もすでにトークン化マネー・マーケット・ファンドを出していると触れています。
さらにJPMorganも、Ethereum上でトークン化マネー・マーケット・ファンドを立ち上げるために米国規制当局へ申請したとのことです。

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この流れを見ると、トークン化は「暗号資産界隈の新奇な実験」ではなく、​金融機関が日常業務の効率化や新しい配布手段を探す中で自然に進んでいる変化だと感じます。

特に流動性ファンドや短期運用商品は、

という理由で、トークン化との相性がいいんですよね。
最初の実用例としてかなり筋がいいと思います。

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Fidelityの別ブランドとの違いも少し整理

記事では、​Bermuda-basedのFidelity InternationalUS-basedのFidelity Investments は別会社だと明記されています。
これは大事です。名前が似ているので混同しやすいですが、​別の法域で別々に運営されている企業です。

また、Fidelity Investments側も以前、​Fidelity Digital Interest Token(FDIT)​ を発行しているとのこと。
こちらはOndo Financeの OUSG が主なアンカー投資家になっていると説明されています。

要するにFidelity関連でも、いろんな形でトークン化の取り組みが進んでいるわけです。
このあたりは、金融大手が「様子見」から「実験」へ、そして「実装」へ移っている感じがして、かなり面白いところです。

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まとめ

今回のニュースは、単に「Fidelityが新商品を出した」というだけではありません。
大手資産運用会社、ブロックチェーン基盤、金融データ提供、規制対応がひとつの線でつながり始めたことを示す出来事だと思います。

とくに重要なのは、トークン化がもはや「仮想通貨の周辺ネタ」ではなく、​伝統金融の本丸に少しずつ入り込んでいる点です。
派手さはないけれど、こういうニュースが積み重なると、数年後には「金融インフラの標準」がかなり変わっている可能性があります。

個人的には、今回のような“堅実なトークン化”こそ本命ではないかと思います。
夢のある話というより、​現実に使える仕組みをどう作るか
その答えのひとつが、今回のFILQなのかもしれません。

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参考: Fidelity International Launches Tokenized Fund With Chainlink Support

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