会話がぐだるのは、相手が悪いからではない。前提を言葉にしていないからだ。
Claude Code に頼みごとをするときも同じで、いきなり「これ直して」「整理して」「要約して」と投げると、返ってくるものが妙に広がる。修正対象が曖昧なまま進むので、途中で「いや、そうじゃない」と戻す羽目になる。これは開発でも文書作成でもファイル整理でも同じだ。先に前提を 1 行で置くだけで、会話の往復がかなり減る。筆者はこれをサボって、あとから手戻りして diff が膨らんだことが何度もある。地味にだるい。
ここで言う前提は、立派な仕様書ではない。現在地の明文化、前提の再確認、呼び方はいろいろあるが、要するに「今どこから始めるか」を 1 行で固定することだ。Claude Code は文脈を読んで進めるぶん、こちらが土台を曖昧にすると、広く解釈して広く返してくる。そこを最初に狭める。
たとえば、文章を直したいなら、いきなり「読みやすくして」ではなく、こう書く。
この原稿は、技術に詳しくない人も読む想定です。専門用語は減らし、難しい語は言い換えてください。
コードを直したいなら、前提を先に置く。
このリポジトリでは、見た目の変更よりも既存の動作を壊さないことを優先してください。
ファイル整理なら、対象とゴールを先に固定する。
Downloads フォルダの重複ファイル候補だけを洗い出してください。削除はせず、候補一覧を作ってください。
こういう 1 行が効くのは、Claude Code が「何をしないか」もわかるからだ。何でもやってよい状態にすると、提案は賢そうでも、実務では余計な枝葉が増える。特に危ないのは、目的が複数あるのに混ぜるケースだ。たとえば「この資料を短くして、ついでに専門用語も直して、読み手向けに整えて」という依頼は、一見まともだが、どこに重心を置くかがぼける。短くするのと、読みやすくするのは、しばしば別の作業だ。先に前提を 1 行で置き、そのあとに条件を足したほうが、返答のブレが減る。
実際の書き方は、難しく考えなくていい。型としてはこれで足りる。
前提: これは社内向けの一次メモではなく、外部に見せる下書きです。
依頼: 冗長な部分を削って、誤解されやすい表現を整えてください。
コードや設定を触るときも同じだ。
前提: この変更は本番に影響する可能性があるので、安全側の提案だけにしてください。
依頼: 変更案を出す前に、影響範囲を先に挙げてください。
この「前提:」の 1 行は、短いが効く。長い相談の冒頭に入れておくと、あとから会話が逸れにくい。特に Claude Code は、こちらが置いた前提に沿ってファイルを読み、差分を出し、追加の確認点も出してくれる。土台がないと、会話のたびに「それは違う」「そこではない」が増える。そうなると、コンテキストの無駄遣いになるし、読み直しも増える。地味だが、こういう浪費が一番もったいない。
注意したいのは、前提を 1 行にするからといって、雑にしていいわけではないことだ。1 行で書くのは短くするためではなく、誤解の余地を減らすためだ。だから「いい感じに」「適当に」「わかりやすく」は前提にならない。指示として弱すぎる。Claude Code に渡すなら、誰向けか、何を優先するか、何を避けるかのどれかは入れておく。
たとえば悪い書き方はこうだ。
いい感じに整えてください。
これでは広すぎる。代わりにこうする。
前提: 読者はこの分野の用語に慣れていません。
依頼: 専門用語を残すなら、直後に短く言い換えてください。
もう一つ、やりがちな失敗がある。前提を毎回長く書いて、逆に会話を重くするやつだ。そこまでやると、最初から仕様書を書いているのと変わらない。Claude Code とのやり取りで欲しいのは、まずズレを止めることだ。細かい条件は、そのあと足せばいい。最初の 1 行は、釘を打つためのものだ。壁一面を説明するためのものではない。
筆者は以前、ファイル整理の相談で「重複を消したい」とだけ投げて、候補の洗い出しと削除方針がごちゃついたことがある。結果、欲しかったのは「候補の一覧」なのに、会話が「どれを消すか」の相談に逸れた。あのとき、冒頭に「削除はしない。候補だけ出す」と 1 行入れていれば済んだ話だ。こういう手戻りは、やっている本人ほど気づきにくい。
少し慣れてきたら、前提の 1 行を「現在地」と「目的」に分けて考えると使いやすい。
現在地: まだファイルは触っていません。
目的: まず影響範囲を確認してから、最小の変更案を出してください。
この置き方をすると、Claude Code が勝手に先へ進みにくくなる。逆に、すでに途中まで進んだ作業なら、その状態も明記したほうがいい。
現在地: 文書の構成案はできていますが、本文は未着手です。
依頼: 章立ては変えずに、導入文だけ整えてください。
会話が長引きそうなときほど、前提は先に置く。最初の 1 行で土台を固定しておけば、途中で何度も話を巻き戻さなくて済む。Claude Code を使う時間は、派手な自動化より、こういう小さな摩擦取りで短くなる。
必要なら次に、あなたの実際の用途に合わせて「前提 1 行」の書き方を、開発用、文書作成用、ファイル整理用に分けてそのまま使える形に整えられる。