Shawn Smuckerのエッセイ「Please Use AI」は、タイトルだけ見ると「AIをどんどん使いましょう」という話に見えます。
でも実際は、その逆です。皮肉たっぷりの語り口で、「便利さのためにAIへ丸投げすると、人間らしい時間や会話や不器用さまで失ってしまうのではないか」と問いかける作品です。
この記事は、AIそのものを技術批判するというより、**“効率化の代わりに失われるもの”** をすごく鮮やかに描いています。これが面白い。かなり意地悪な書き出しなのに、読み終えると妙に胸に残るんですよね。
本文は、ほとんど詩のような長い一文で進みます。
「次の献立を考えるときはAIを使いなさい」「キャンプの計画もAIに任せなさい」「子どもの結婚式のスピーチもAIで書きなさい」——と、わざと極端にAI利用を推し進める言い方が続きます。
でもここがポイントで、著者は本気でそう言っているわけではありません。
むしろ、AIに頼らず人に聞くことで起きる“余白” を浮かび上がらせているんです。
たとえば、料理上手な友人にレシピを聞いたら、単なるレシピ以上のものが返ってくるかもしれない。
父親のがんの話、春の庭に植えたものが霜でやられた話、ちょっとした孤独の話。そういう会話が、レシピ探しのついでに流れ込んでくる。
著者はそこに価値を見ています。いや、かなり強く価値を置いていると思います。
この記事の中心にあるのは、「効率化のために何を捨てるのか」 という問いです。
AIはたしかに便利です。
献立案、旅行計画、文章の下書き、アイデア出し——こういうものは驚くほど速くできます。
でも著者は、そこに飛びつく前に立ち止まれと言っているように見えます。
なぜなら、人間のやりとりは非効率だからです。
長電話になったり、話が脱線したり、思わぬ近況を聞いたりする。
けれど、その“脱線”こそが友情だったり、思い出だったりするわけです。
この感覚、すごくわかります。
便利なサービスはたしかに助かる。でも、すべてを最短距離で片づけると、あとに残るのは「終わった」という事実だけで、体験の厚みが薄い。そんな感じがあるんですよね。
本文の中でも特に刺さるのは、子どもの結婚式のスピーチについてのくだりです。
著者は、親が自分の言葉で話すべき場面までAIに任せるのか、と皮肉ります。
ここは単なる反AIの話ではなくて、「誰の人生の言葉なのか」 という問題だと思います。
結婚式のスピーチや弔辞みたいな場面では、文章の完成度よりも、その人がその時間に何を生きてきたか、どんな感情を持っているかのほうがずっと大事です。

AIは流麗な文章を作れるかもしれません。
でも、何百回もオムツを替えた記憶や、夜中に授乳した身体感覚や、「遅く帰ってきた子どもが死んだのでは」と本気で心配した経験までは持っていません。
この“生身の履歴”が文章ににじむからこそ、言葉は重くなる。著者はそこを強く言っているのだと思います。
ここは大事ですが、この記事は「AI禁止!」と叫んでいるわけではありません。
むしろ、AIの便利さ自体は否定していないはずです。
ただ、その便利さに気持ちよく流される前に、人間がやってきた面倒で不完全なプロセスの価値 を思い出そう、というメッセージに読めます。
私はここに、かなり現実的な視点を感じます。
AIは使える。使えばいい。
でも、全部をAIに寄せると、会話の偶然性や、手作業の遅さの中で育つ感情や、失敗しながら上達する時間が消えていくかもしれない。
これは抽象論ではなく、かなり身近な問題です。
終盤、著者は自分の50歳の今を語ります。
末っ子が胸の上で眠っていて、年上の子どもたちは巣立ちつつあり、身体は衰え、書こうとした物語は思うように形にならない。
その、少し切なくて、少し重い現実の中で、彼は「不完全さ」や「不便さ」や「人の声」の美しさを見ています。
ここがこの文章の核だと思います。
人生って、たいてい面倒です。
育児も、友情も、創作も、老いも、全部そうです。
でも、その面倒さをすっ飛ばして得た“完璧な成果”より、ぎこちなくても自分の手で作ったもののほうが、あとから思い出すと温度がある。そんな感覚を、著者は丁寧に、でもかなり強く伝えています。
正直に言うと、この記事はかなり好きです。
AIの話なのに、AIの機能説明はほぼありません。代わりにあるのは、家族、友人、創作、老い、悲しみ、そして生身の時間です。
つまりこれは、AI論というより人間賛歌なんですよね。
しかも説教くさくなく、少し刺々しいユーモアで包んであるのがうまい。
「AIを使え」と言いながら、実際には「その前に人に会え、話せ、迷え、手を動かせ」と言っている。かなり好きなタイプの逆説です。
AIが当たり前になった今だからこそ、こういう文章は効くと思います。
便利さに流されそうなとき、ふと「今日は誰に電話しようかな」と思わせてくれるからです。
参考: Please Use AI