生成AIにソフトウェアのおすすめを聞くとき、その答えはもっともらしく見えても、裏でどんなサイトを読んでいるのかはあまり意識されません。Trellner Research の今回の調査は、その見えにくい部分をかなり具体的に掘り下げています。Perplexity の検索付き回答が、よく知られたレビューサイトだけでなく、モデル向けに量産されたページや、人間向けとは言いにくい「grounding page」まで拾っていることを示したからです。しかも、そこには215,128本という桁違いのページ群が含まれていました。
Trellner Research は、2026年9月2日に380個のソフトウェア購入カテゴリを用意し、Perplexity の sonar と sonar-pro にそれぞれ1回ずつ、合計760回問い合わせました。質問は「best product」を5件、JSON形式で返させ、そのたびに各製品の公式ホームページのドメインも取っています。対象カテゴリは CRM software のような大きな領域から、museum collection management software のようなかなり細かいものまで含まれていて、結果を見てからカテゴリを変えることはしていません。
この760回の応答から、3,800件のおすすめ枠と1,807件の異なる製品名、さらに7,534件の引用が集まりました。研究チームは、その引用先ドメインを Tranco の順位リストと Wayback Machine で照合し、モデルが出した1,502件のベンダーのホームページも実際に取りにいっています。ここで見えてきたのは、引用の約6割が Tranco の10万位より下、つまりかなりマイナーなサイトに向いていたことです。さらに23.4%は、そもそもトップ100万にも入っていないドメインでした。
上位だけを見ると、g2.com、reddit.com、gartner.com、zapier.com、capterra.com、linkedin.com といった、聞き覚えのある名前も並びます。ですが問題はその外側でした。引用された2,055ドメインのうち751、つまり36.5%がトップ100万圏外です。しかもその多くは比較的新しく、未ランクのドメインの最初のアーカイブ取得年の中央値は2020年、ランク入りしている側は2011年でした。さらに16.6%の未ランクドメインは2025年以降に初めて確認されています。
記事が特に強く問題視しているのは、Guideflow、WorldMetrics、Gitnux、WifiTalents、WorldMetrics、Gitnux といったサイト群です。Guideflow は本来デモ製品の会社ですが、競合しないカテゴリでも自社ブログが194回引用され、全380カテゴリのうち96カテゴリ、つまり4分の1に顔を出しました。WorldMetrics と Gitnux、WifiTalents はさらに露骨で、3サイトで215,128本の /best/<something>-software/ ページを持ち、しかもホームページのHTMLタイトルを「Facts & Grounding Page」としていました。grounding は、モデルが回答を組み立てる前に資料を取ってくる段階のことです。人間向けではなく、機械に読ませる前提の自己紹介ページというわけです。
3サイトは同じCloudflareのネームサーバーを使い、同じテンプレート、同じナビゲーション、似た編集者名、似たブログ構成を持っていました。サイトごとに「project estimation software」の順位表も少しずつ違うのですが、そこでも byline に未表示のテンプレート変数らしき文言が残っていたといいます。記事は、こうしたページ群が実際に引用されることで、AIの「おすすめ」がかなり人為的に組まれている可能性を示しています。
一方で、元記事は「だからAIの検索は全部ダメだ」とは言っていません。1,502件のベンダーURLの大半はちゃんと生きていたし、17ドメインだけが消失または到達不能でした。問題は、検索や引用の土台に、機械向けに大量生産されたページが入り込んでいることだ、と整理しています。
まず驚くのは、AIが参照している世界が思ったよりずっと雑多だということだ。人はつい、AIの回答はGartnerやWikipediaや大手レビューサイトを中心に組み立てられていると考えがちだが、実際にはそう単純ではない。今回の調査では、上位の有名サイトは確かに存在感があるものの、引用全体の大半を説明するのはむしろ無名で新しいドメインだった。これは、検索結果の「権威」が必ずしも人間の感覚と一致しないことを示していると思う。
私が気になったのは、こうしたサイトが悪意を持って嘘を書いている、という話ではない点だ。記事はそこをあえて区別している。Guideflow も WorldMetrics も、表向きはコンテンツマーケティングや市場調査の体裁を取っていて、露骨な詐欺サイトとは言い切れない。けれど、モデルに読ませることを前提にした量産ページが、購入判断の根拠として機能してしまう。ここが厄介だ。人間なら「このサイト、何か変だな」と足を止める場面でも、検索層はとりあえず読んでしまう。AIの便利さは、そのまま「読んではいけないものまで読む」脆さと表裏一体だと思う。
この調査のいちばん不気味なところは、従来のSEOの話では説明しきれない点にある。昔のSEOは、検索エンジンの順位を上げて人間のクリックを取りにいく競争だった。だが今回見えているのは、その先だ。人間が読むことを主要目的にしていない「Facts & Grounding Page」や、自社の存在を機械に理解させるためのページが、回答生成の材料として価値を持ち始めている。
ここで起きているのは、検索順位の最適化というより、モデルに食わせる情報の最適化だと思う。タイトル、メタ説明、JSON-LD、カテゴリの並べ方、テンプレートの整合性。そうした要素が、読者の納得ではなく、retrieval に引っかかることを狙って作られているように見える。もしこれが広がると、サイトの優劣は「人が見て有益か」ではなく「モデルが拾いやすいか」で決まりやすくなる。すると、真面目に実用情報を出している小規模サイトが埋もれ、量産テンプレートだけが勝つ、という逆転も起こりうる。かなり不健全だ。
この研究が示したもう一つの重要な点は、AIの推薦が思った以上に供給元依存だということだ。Perplexity の sonar と sonar-pro は、引用一覧が289カテゴリで完全一致し、URL集合のJaccardも0.898だった。つまり別モデルというより、ほぼ同じ検索基盤の別サンプルと見るべきだと記事は述べている。ここからわかるのは、ユーザーが見ている「回答の違い」は、実はモデルの知性差ではなく、同じ取り出し口の微妙な揺れかもしれない、ということだ。
この構造は、使う側にとっては少し危うい。企業が「AIに選ばれたい」と考えるとき、もはやレビュー品質だけでなく、機械にどう引用されるかを意識しなければならないからだ。しかも、そのゲームは公開ルールがはっきりしていない。どのページがどう評価されるかはブラックボックスに近い。そうなると、最終的に勝つのは情報の質ではなく、機械最適化に投資できる事業者になりやすい。検索の民主化どころか、推薦の寡占化が進む可能性もあるのではないか。
とはいえ、この記事をそのまま「Perplexity は危険」と受け取るのも違うと思う。調査は380カテゴリというかなり独自の設計で、しかも1日分のスナップショットだ。カテゴリの選び方もニッチ寄りで、一般的な検索よりロングテールのソースが目立ちやすいと著者自身が断っている。Google を含む他のAI検索を測っていないことも明記されている。つまり、これはAI検索全般の最終判決ではない。
ただし、だから軽い話でもない。重要なのは、検索付きAIの回答が「広く読まれている情報」だけでできているわけではない、と可視化されたことだ。むしろ、機械向けに整えられたページが、いつのまにか推薦の土台に入り込む。その現実を踏まえると、AIの出すおすすめは、便利な反面、供給側の設計にかなり左右されるものとして疑ってかかるべきだと思う。少なくとも、最初の答えをそのまま信用するのではなく、誰がその根拠を書いたのかまで見る習慣は必要だろう。
参考: Three sites made 215,128 "best software" pages for AI. Perplexity cites them