この記事で面白いのは、AIの性能そのものより「値段のつけ方」に真正面から噛みついているところです。
ふつうAIの話は「賢い」「速い」「便利」で終わりがちですが、ここではかなり露骨に「その高額料金、本当に必要?」と問いかけています。私はここがかなり重要だと思います。AI業界は技術競争であると同時に、価格競争でもあるからです。
筆者のきっかけは、Hermes という環境で web research を試すために DeepSeek V4 を選んだことでした。DeepSeek V4 は「安い」とわかってはいたものの、Anthropic や OpenAI の最先端モデルと並べてみたときの価格差が、想像以上だったそうです。単純に token 単価だけを比べても、ほぼ50倍の開きがある。さらに、モデルによっては同じ仕事をするのに余計に考え込むことがあり、そのぶん token を多く使ってしまうので、実際の差はもっと広がるかもしれない、と書いています。
ここで出てくる token というのは、AIが文章を処理するときの細かい単位のことです。人間でいえば「文字」より少し大きく、「単語」より少し柔らかいイメージでしょうか。AIの料金は、この token の使用量で決まることが多いので、単価が高いと長い会話や複雑な作業ほど効いてきます。要するに、高級モデルは“ちょっと試す”にはよくても、“毎日たっぷり使う”には財布が痛いわけです。
筆者が強く懸念しているのは、Anthropic と OpenAI が高コストのポジションに自分たちを追い込んでしまったのではないか、という点です。DeepSeek や Xiaomi の Mimo のような安価なモデルと戦うために、価格を20〜50倍も下げる余地があるのか。これはかなり厳しい問いです。個人的にも、いったん「高級モデル」としてブランドを固めてしまうと、値下げは意外としにくいと思います。安くした瞬間に、「じゃあ今までの価格は何だったの?」という話になりやすいからです。
記事では、Open Weight と低価格の関係も考えられています。Open Weight とは、モデルの重み、つまり学習済みの中身に近い部分を公開している形です。完全に自由な「Open Source」とは少し違いますが、外部から使いやすく、検証もしやすい。筆者は、こうしたモデルが安いのは、オープンであることで多くの人がいろんな環境で試し、実質的にコスト削減や改善が進んだからではないか、と考えています。あるいは、採算度外視で市場を取りにいく“loss leader”として出している可能性もある、と。
このあたり、かなり生々しい話です。
安い商品は、単に善意で安いとは限りません。まず市場を取り、あとから囲い込むための「入り口価格」かもしれない。AIでも同じで、無料や激安の裏に「まず依存してもらう」という戦略があるのでは、という見方は十分にありえます。
筆者は、価格を高く保つ方法として「希少性の演出」を挙げています。高級車や高級バッグがそうであるように、誰でも買えるようにするとブランドの格が下がる。だから「最先端モデルは限られた人だけが使えるもの」として壁を作る。OpenAI や Anthropic が “frontier” model の利用を高めの壁の向こうに置いているのは、まさにその構図だというわけです。ここはかなり辛辣ですが、言いたいことはわかります。AIが本当にコモディティ化するなら、値段で特別感を作る商売は崩れやすいからです。
さらに筆者は、米国が中国への懸念を使って open weight model を制限する方向に進むのではないか、という不安も書いています。これはかなり政治的な話ですが、論点はシンプルです。競争で勝つ代わりに、規制や安全保障の名目で相手を締め出すやり方はありえるのではないか、ということです。もちろん安全保障は現実の問題ですが、そこに市場競争の都合が混ざると話はややこしくなります。私は、この手の議論は「安全のため」という建前と「競争を遅らせたい」という本音がいつも絡むので、かなり注意が必要だと思います。
記事の後半で筆者は、真の意味でのオープンは何か、という点に踏み込みます。Open Weight だけでは足りず、学習データのパイプラインまで公開される「True Open Source」こそ次の飛躍だ、という見方です。ここで紹介されているのが AllenAI の OLMo です。筆者は、これらのモデルは今すぐダウンロードできて人気も増しているが、データの期限が 2024年12月までで少し古い、と述べています。つまり、オープンである代わりに最新性では少し不利、ということです。これは実にAIらしいトレードオフです。透明性を取ると、新鮮さが少し遅れる。わかりやすいけれど、地味に痛い。
最後に筆者は、米国の NSF と Nvidia が Allen AI の「完全にオープンなAI」開発を支援していることにも触れています。ここは将来への期待がにじむ部分です。もし学習データや訓練プロセスまで含めて公開されたモデルが本格的に育てば、今の「閉じた高級AI」一強の空気はかなり変わるかもしれません。
私がこの文章を読んで感じたのは、AI業界の勝負はもう性能だけでは決まらない、ということです。
「誰が一番賢いか」だけでなく、「誰が一番安く、誰が一番開いていて、誰が一番広く使われるか」の戦いになっている。しかもそこには、ブランド戦略や政治、規制まで入ってくる。かなり複雑です。
そしてたぶん、今後いちばん面白いのは、巨大企業の高級モデルがどうこうより、オープンな陣営がどこまで“安さと透明性”を武器にできるかではないかと思います。高いだけでは、もう勝ち切れない。この記事は、その空気の変化をかなり早い段階で嗅ぎ取っているように見えました。
参考: The Unbearable Cheapness of Open Weight Models – James O'Claire