Factorioの開発チームが、ゲーム内の機械や敵を3Dプリント用モデルとして公開する、かなり変わった取り組みを紹介した。単なる記念グッズの話ではなく、ゲームの見た目や設計思想をそのまま現実の造形に落とし込む挑戦でもある。しかも、これは開発中の思いつきで終わった企画ではなく、試作と調整を重ねて実際に公開できるところまで持っていった。ゲームの外側にまで世界を広げる試みとして、かなり面白い。
この話は、2024年夏にさかのぼる。Factorio開発チームはSpace Age DLCの仕上げに追われながら、プレイヤーを招いたプレイテストイベントを開いた。そこで実際に遊んでもらい、感想や批判をその場で受け取るという、かなり手の込んだ検証を行った。さらに、その場を少しでも面白くしようと、Prusa Researchの協力を得て関連プログラムやプレゼンも用意した。Factorio好きの間で盛り上がるイベントにしたかった、という空気が伝わってくる。
その流れで、会場でFactorioの模型をその場で3Dプリントしてみよう、という話になった。Fearghallが急いで、Glebaに登場するWrigglerの簡単なモデルを作ったのが始まりだったという。イベント後、開発は本業に戻ったが、「現実世界のFactorio模型」をもっと本格的にやりたい気持ちが残った。そこで空き時間を使って試作を続け、形を見直し、塗装し、何度もやり直しながら方向性を探った結果、答えはTransport Belt、つまりベルトだった。
ベルトはFactorioの工場づくりの中心だ。そこでJarosławが、ゲームのグリッド配置を踏まえて、実際に部品をぴったり置けるレイアウトを設計した。Inserterも続き、次々とモデル化が進む。3Dプリントでは、精密に差し込める「高精度版」と、接着して組み立てる人やプリンタの都合で余裕が必要な人向けの「クリアランス多め版」の2種類が必要だと分かった。つまり、見た目の再現だけでなく、ちゃんと組めるかどうかも重要だったわけだ。
その後、敵側のモデルも増えていく。Biter spawner、チェスト、プレイヤーキャラクター、Stone Furnace……と続き、最終的には早期ゲームを中心に絞り込む方針になった。全部を出そうとすると終わらなくなるからだ。結果として、15のモデルセット、65個の個別モデル、247個のSTLファイルにまとまった。この記事には、その試作がどれだけ何度もやり直されたかを示す写真も多数載っていて、最初の試作品、塗装検証、サイズ変更、不要になった案まで含めて、かなり手間のかかったことが分かる。
開発チームは、この企画で3Dプリントを選んだ理由も説明している。物理版ゲームやコレクターズアイテムが減っている今、何か手元に残るものを作りたかった。ただし、Wubeはソフトウェア会社であって玩具メーカーではない。だから高価な限定品を売るのではなく、誰でも自分でダウンロードして印刷できる「ありがとう」の形にしたかったという。さらに、プレイヤーがそれを自分なりに改造したり、色を塗ったり、別の解釈を加えたりできる余地を残したかった、とも述べている。
後半では、設計者本人の視点から、3Dプリント化の難しさが語られる。FDMプリンタではサポート材の扱いが厄介で、なるべくサポートなしで印刷できるようにモデルを分割したり、支えが要る部分を別パーツにしたりする必要がある。またFactorioの機械は等角投影の見た目を前提にしているので、実物として見ると「見えているもの」と「本当にある形」がかなり違う。北西向きと南東向きで微妙に形が違う機械もあれば、高さが1マスに収まっているのに、それ以上に大きく見えるものもある。背面には、ゲーム上ではほとんど見えない“暗い部分”があり、そこは3Dモデルとして新しく作り直したという。敵側のモデルも同様に、テクスチャ頼みだった部分を立体として成立させるため、かなりの整形が必要だった。
この企画でまず驚くのは、単なる販促物では終わっていないことだと思う。普通なら、人気ゲームの3Dモデル公開は記念品か限定商品として処理されがちだ。だがここでは、開発者自身が「ゲームの構造をそのまま手で触れる形に移したらどうなるか」を試している。ベルトが中心になったのも象徴的で、Factorioらしさは派手なキャラクターより、むしろ物流の歯車の連なりにある。そこを現実の部品として再構成したのは、かなり筋がいい。
面白いのは、再現対象が見た目の派手さではなく、組み立てやすさや差し込み精度まで含んでいる点だ。3Dプリントの世界では、完成品の映えより「ちゃんと出るか」「ちゃんとハマるか」が先に来る。そこで高精度版と余裕のある版を分けたのは、単に親切というより、3Dプリントの現実をよく分かっている設計だと思う。Factorioがゲーム内で「詰まり」を嫌うように、現実の造形でも詰まりを減らす方向へ寄せている。その一致が気持ちいい。
この記事を読んで強く感じたのは、完成した模型そのもの以上に、そこへ至る反復がFactorio的だということだ。試作品を出し、印刷し、塗り、壊し、作り直す。これは工場の最適化と同じで、最初から正解があるわけではない。Jarosławが「ゲーム内モデルを3Dプリントにするのは簡単だと思ったが、そうではなかった」と振り返っているのも印象的で、まさにその落差こそがこの企画の核心だろう。
特に、ゲームの中では成立している“見え方の嘘”を、現実に持ってくると破綻するという指摘は重要だ。等角投影、見えない背面、誇張された高さ。Factorioはずっと、視覚表現をうまく使って「それっぽく見せる」ことで成立してきた。その見せ方を崩さずに立体へ翻訳するには、アートと工学の両方が必要になる。だからこの企画は、単に「かわいい模型ができました」ではなく、Factorioの表現を別メディアに移植する実験として読むと面白い。
もう一つ引っかかったのは、これが限定品ではなく、誰でも自分で作れる形になっていることだ。ゲーム企業が物販をやると、どうしても希少性や値付けの話に引っ張られる。だがWubeはそこを避けて、むしろプレイヤーの手元で再現できるデータそのものを渡している。3Dプリントは、所有よりも参加に近い。自分で出力し、色を塗り、少し改造する余地があるからだ。
この方針は、Factorioのコミュニティとかなり相性がいいと思う。Factorioのプレイヤーは、ただ完成品を眺めるより、レイアウトをいじり、効率を詰め、さらに自分の工場に合わせて調整することを楽しむ人たちだ。模型でも同じで、完成品を買うより、STLを手元で触って調整するほうが、このゲームらしい。開発側が「ありがとう」の気持ちを売り物ではなく再現可能な素材で返しているのは、かなり誠実なやり方ではないかと思う。
この手の取り組みは、短期的には珍しさで話題になる。でも本当に効いてくるのは、ゲームの寿命の延長だと思う。Factorioはもともと、MOD、Wiki、設計図共有の文化が強い。そこに3Dプリントが加わると、遊びが画面の外へ広がる。机の上に工場の一部が置かれるだけでも、プレイヤーの記憶はかなり変わるはずだ。
しかも今回は、公式が作った完成品を飾るのではなく、プレイヤー側で組み上げられる余白を残している。これは「作品を消費して終わり」にしない設計だ。将来的に他のスタジオが似たことをやるとしたら、見習うべき点はそこだろう。物理グッズは、売上のためだけに作るとすぐ行き詰まるが、参加の入口として作ると長く残る。Factorioの模型は、その違いをかなり分かりやすく示している。
参考: Friday Facts #447 - Factorio that you can touch | Factorio