オランダ政府向けの「デジタル自律な職場」を、政府・企業・市民社会が一緒に作るための公開コミュニティが立ち上がっている。DAWO.community は、その活動の入口をまとめたサイトだ。単に製品を売る場ではなく、設計図、技術要素、イベント、議論の場をすべて公開し、誰でも関われる形を取っているのが特徴だ。政府のITを、外から見えない“ブラックボックス”のままにしないという問題意識が、かなりはっきり出ている。
サイトが最初に示しているのは、DAWO の正式な狙いだ。DAWO は “digitally autonomous workplace” の略で、オランダ政府のためのデジタルに自立した職場を、政府・業界・社会が共同で作るオープンコミュニティだとしている。ここでいう「自律」は、ただ国産ソフトを使うという意味ではない。デジタル面での依存を減らし、必要な部品を自分たちで理解し、交換し、検証できる状態を目指している。
そのために掲げている目的は五つある。ひとつ目がデジタル自律の強化、二つ目が政府と社会の協力や知識共有の改善、三つ目がセキュリティとデータ保護の確保、四つ目がイノベーションと効率化、五つ目が政府ITシステムの検査可能性・検証可能性の向上だ。単に便利な道具を集めるのではなく、公共の価値と技術をどう結びつけるかを前面に出している。
この考え方を、サイトは「ひとつの製品ではなく、置き換え可能な building blocks でできたオープンな職場」と表現している。各部品は個別に検査でき、交換もできる。公開されている構成要素としては、AI、Operating system、Cloud、Collaboration の四分野が並ぶ。AI ではオープンで検証可能な building blocks、Operating system では DAWO-NixOS と再現可能な職場のためのインストール用部品、Cloud では自律的で検証可能なクラウド基盤、Collaboration ではコミュニケーションや文書作成、共同作業のためのオープンな解決策を示している。
また、DAWO は見せ方よりも参加導線を重視している。イベント、ニュース、ブログ、フォーラムはメンバー用ポータルに集約されていて、内容はすべて公開だという。フォーラムは誰でも読めるが、投稿にはアカウントが必要になる。参加の入り口としては、会話、コード、ドキュメント、試験導入、イベントが挙げられている。コードは Codeberg や code.overheid.nl に置かれており、LinkedIn へのリンクもある。サイト下部には 2026 年の表記があり、NL Design System で構築されたことも明記されている。
まず面白いのは、DAWO が“完成品の採用”ではなく“設計図の共同編集”を選んでいる点だと思う。行政のITは、どうしてもベンダー主導になりやすい。調達の都合で大きな製品を入れ、その中身はブラックボックスのまま使う、という構図は珍しくない。DAWO のサイトは、そのやり方に対してかなり明確に別の道を示している。部品ごとに見えて、交換できて、検証できることを優先しているからだ。
ここで重要なのは、これは「OSSを使います」という単純な宣言ではないことだ。オープンソースはあくまで手段で、DAWO はその上に公共部門の運用思想まで載せようとしている。公開フォーラム、公開ドキュメント、公開のコード置き場、試験導入まで含めて、関係者全員で同じ土台を見る。私には、ここに“透明性を制度として組み込む”発想があるように見える。これは自治体や省庁のIT改革でよくある「見える化」よりも一段深い。
DAWO の五つの目的の中で、私は特に verifiability を強く打ち出している点に目が止まった。ITシステムは動けばよい、では済まない場面が増えている。AI、クラウド、文書共有、認証、監査。どれも便利だが、内部で何が起きているか説明できないと、公共部門では不安が残る。だから「安全」「保護」に加えて、「検査しやすい」「検証しやすい」を目的に入れているのは筋が通っている。
しかも DAWO は、AI まで同じ枠に入れている。AI は派手なデモよりも、監査可能性や説明責任で評価されるべきだという見方が透ける。これは今の流行に迎合したAI活用サイトとは違う。むしろ、AI を“使うかどうか”の前に、“どう見張るか”を先に置いている感じがある。私はここに、政府向けプロジェクトとしての現実感を覚えた。公共部門では、性能だけでなく説明責任が問われるからだ。
構成要素の中で少し異色なのが Operating system の欄だ。そこでは DAWO-NixOS と、再現可能な職場のための installation building blocks が紹介されている。NixOS は、構成管理や再現性の文脈で知られる Linux 系の OS だが、ここでそれを出しているのは偶然ではないはずだ。職場の環境を毎回同じように作れ、部品を差し替えても全体の整合性を追いやすい、という思想と相性がいい。
この点は、クラウド中心の議論に慣れた人ほど見落としやすいと思う。多くの組織は、まずクラウドをどうするかを考えるが、DAWO はその前段の“土台をどう再現するか”を重視している。インフラが再現できなければ、検証も監査も難しい。だから OS、クラウド、コラボレーションを別々の部品として見せているのだろう。私は、ここに「現場で回ること」と「政策上説明できること」を両立させようとする意図を感じる。
DAWO.community は、誰でも読める公開フォーラムや公開ニュースを用意しつつ、投稿や深い参加にはアカウントを求める。これは地味だが重要な設計だと思う。完全なオープンを掲げるだけだと荒れやすいし、逆に閉じすぎるとコミュニティにならない。その中間で、「読むのは広く、書くのは少し管理する」という線を引いている。公共性と運営の現実の折り合いを、かなり丁寧に取っている印象がある。
さらに、参加手段を会話、コード、ドキュメント、試験導入、イベントに分けている点もよい。技術者だけでなく、政策担当者、調達担当、ドキュメントを書ける人、実証実験に関われる人まで、入口が違う。私はこの設計を、単なる広報ではなく“役割の翻訳”だと見た。政府ITの議論は、ともすると専門家の閉じた会話になりがちだが、DAWO はそこを少し開こうとしている。もし本当に機能すれば、技術の議論が調達や運用の言葉に翻訳されやすくなるはずだ。
参考: DAWO.community