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自動運転車は本当に危ないのか、最新データが少し違う答えを出している

自動運転車は「事故を減らすのか、それとも新しい危険を持ち込むのか」という議論がずっと続いてきた。IEEE Spectrum のこの記事は、その問いに対して、少なくとも今見えているデータは人間の運転より自動運転のほうが安全かもしれない、と押し返している。しかも話はロボタクシーだけではない。自動ブレーキや車線逸脱警報のような運転支援機能まで含めると、すでに路上の安全を少しずつ変え始めている、という見方だ。完全自動運転の完成を待たなくても、交通事故の減少はもう始まっているのではないか、というのがこの記事の中心にある。

Waymoの走行実績と、IIHSが見直した比較のしかた

この記事がまず示すのは、自動運転に対する不安は根強いが、研究の積み上がり方はそれと少し違う、ということだ。自動運転車はまだ台数が少なく、走る場所も天候も限られているので、人間の運転と単純に比べにくい。それでも、事故率やけがの発生率を見ると、自動運転車は人間よりかなり少ないという証拠が増えていると記事は整理している。

その前段として、ADAS(advanced driver assistance systems、運転支援システム)の効果が挙げられる。IIHS(Insurance Institute for Highway Safety)は、歩行者を認識する automatic emergency braking、つまり自動緊急ブレーキが歩行者事故を27%減らしたと報告した。この機能は米国で2030年までに軽車両すべてへ義務化される予定で、すでに新車の90%超が業界の自主合意で対応済みだという。別のIIHS調査では、自動ブレーキが追突事故を50%、けがを56%減らした。さらに Highway Loss Data Institute は、自動ブレーキだけの車で物損請求が13%減り、歩行者向け自動ブレーキや adaptive cruise control、lane-departure warnings などをまとめて載せた車では、保険請求が最大39%減ったとしている。

より踏み込んだ話として、Waymo のロボタクシーがある。Waymo はすでに有料乗車2,000万回、走行距離2億2,000万マイルを超えたとし、これは人間の運転で言えば250寿命分に相当すると記事は紹介する。さらに3月の独立調査では、同程度の都市環境で比べたとき、致命的または重傷につながる事故が92%少なく、人間と比べて13分の1だった。歩行者のけがは92%減、エアバッグ展開につながる事故は83%減、けがを伴う事故全体は82%減。交差点でのけが事故は96%減っており、著者はここを特に重要な点として扱っている。

ただし比較は簡単ではない。Waymo のロボタクシーは、今のところ米国の限られた都市で、しかも主に晴天時に運行している。一方、人間の運転は雨も夜も渋滞も含めてもっと雑多な条件を背負う。そこでIIHSは、データの“汚さ”を減らす方向に動いた。人間側は事故の半分ほどが警察に報告されず、けがのある事故でも最大3分の1が未報告だと推定される。保険料値上げを避けたいからだ。対してロボタクシーは、NHTSAへの報告義務があり、小さな接触でも記録されやすい。だが全社が走行距離を詳細に公開しているわけではない。IIHSはそこで「police-reportable crashes」という比較しやすい区分を作り、サンフランシスコ、フェニックス、ロサンゼルス、オースティンで Waymo と人間の事故率を比べた。

その結果、Waymo の Jaguar I-Pace は調査期間中に約5,000万マイルを無人走行し、同じ都市群での人間の走行2220億マイルと比べると桁が違う。それでも、Waymo は全体の事故が68%少なく、都市別ではフェニックス76%減、ロサンゼルス71%減、サンフランシスコ35%減だった。オースティンは4%悪化だったが、サンプルが非常に小さいことが理由かもしれない。けがを伴う事故に限っても、Waymo は1マイル当たり81%少なかった。

記事は最後に、Zoox へのNHTSAの免除、そして自動運転の性能・能力基準を作るためのA2SCENDコンソーシアムの発足にも触れる。ここでは、完全自動運転がまだ法制度の外縁を探りながら進んでいる現実が見える。けれど同時に、医療や公衆衛生の文脈では、交通事故を減らす技術として自動運転を捉え直すべきだという主張も出てきている。米国では年間約4万人が道路で死亡し、そのうち7,000人超が歩行者だ。世界では約116万人。5〜29歳の主要な死因でもある。もし死者を50%減らせれば58万人の命が救われる計算で、著者はこれがシートベルトや飲酒運転対策に匹敵、あるいはそれ以上の社会的利益だと位置づけている。

「安全そう」に見える数字を、どう受け取るべきか

この記事でいちばん面白いのは、自動運転をめぐる議論の土俵を、感情論からデータの設計の話へずらしているところだと思う。多くの人は「自動運転は怖い」と感じるが、その怖さは1件1件の派手な事故に引っ張られやすい。逆に、交通安全の改善は統計の上で静かに進む。この記事はそのギャップを埋めようとしていて、Waymo の成績を持ち出すだけで終わらず、未報告事故や走行条件の違いまで問題にしている。そこが誠実だ。

ただ、数字が良いからといって、すぐに「人間より安全」と言い切るのも危うい。Waymo は地理も天候も限定された環境で運行しており、難しい条件を避ける設計そのものが安全率を押し上げている可能性がある。これは欠点というより、技術の成熟段階を示している。つまり、今の自動運転は“万能な運転手の置き換え”ではなく、“うまく選ばれた条件で、人間より安定して事故を減らす装置”に近い。そこを取り違えると、過大評価にも過小評価にも振れる。

事故データの「見えない部分」が、議論をねじ曲げている

この記事が指摘する未報告事故の問題は、かなり本質的だと思う。人間が起こした軽い接触や小さなけがは、保険料上昇を避けるために表に出ないことがある。一方、自動運転車はNHTSAへの報告義務があり、ちょっとした擦り傷まで記録される。これでは、見かけの事故件数だけを比べると自動運転が不利に見えるはずだ。安全性の比較というより、報告制度の比較になってしまう。

だからこそ、IIHS が police-reportable crashes に絞って比べた意味は大きい。完全ではないが、少なくとも同じルールで拾える事故を増やしたわけだ。ここで見えてくるのは、自動運転の賛否を決める前に、まずデータの収集方法を揃えないといけない、という地味だが重要な現実だと思う。政府や業界が「どの事故を、どの粒度で、どれだけの走行距離と一緒に公開するか」を統一しない限り、議論はいつまでも印象論から抜け出せない。

自動運転の本当の競争相手は、テスラではなく「人間の弱さ」かもしれない

この記事を読んで感じるのは、自動運転の競争相手を誤解しがちだということだ。よくある図式は、ある企業のAVと別の企業のAV、あるいは人間に似た挙動をどこまで再現できるか、というものだ。でも交通事故という社会問題に限れば、相手は人間の弱さそのものだ。飲酒、眠気、脇見、焦り、見落とし。これらは完全には消えない。ADAS が効くのも結局そこに刺さるからで、運転者の注意力を信頼しない設計が事故を減らしている。

その意味で、完全自動運転がまだ広がっていなくても、すでに車は少しずつ「人間のミスを前提にした機械」へ変わっている。自動緊急ブレーキや車線逸脱警報は地味だが、社会全体で見るとかなり大きい。派手なロボタクシーの話だけ追うと見落とすが、現実にはこの地味な積み重ねのほうが先に効いている。自動運転の未来は、ある日突然やって来るというより、既存の車がじわじわと人間の不得手を肩代わりする形で来るのだと思う。

公衆衛生としての自動運転は、期待しすぎずに支える価値がある

最後に、医療や公衆衛生の視点で自動運転を語るべきだという主張はかなり筋が通っていると思う。交通事故は「たまに起きるモビリティのトラブル」ではなく、世界的には若年層の主要な死因であり続けている。そこに対して、自動運転は単なる便利機能ではなく、死亡率そのものを下げうるインフラ候補だ。もし事故死を半減できるなら、社会へのインパクトはかなり大きい。

ただし、ここで気をつけたいのは、公共政策が技術の成功を先取りしすぎないことだ。Zoox への免除や、性能・能力基準づくりの動きは前進だが、制度が先走ると事故時の責任や監査が曖昧になる恐れもある。自動運転を公衆衛生の道具として扱うなら、必要なのは熱狂ではなく、継続的な測定と公開だろう。安全そうに見える、では足りない。安全であり続けることを、あとから確かめられる仕組みが要る。


参考: Cleaner Crash Data Could Prove That Human Drivers Are the Risky Ones

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