Jeff Geerling氏の記事は、Raspberry Piの主要エンジニア3人が、Redditのr/engineeringでAMA(Ask Me Anything、何でも質問していい場)に参加したときの話をまとめたものです。
そこで特に注目されたのが、次世代のRaspberry Pi 6についての発言でした。
過去の発売間隔を見ると、
と、だいたい3〜4年おきに新モデルが出ています。
この流れだけ見ると、Pi 6は2026〜2027年あたりでも不思議ではありません。
ただし、今回の話ではそこまで単純ではなさそうです。
記事によると、Eben Upton氏はタイムラインを少し伸ばし、Pi 6は2028年初頭より前には出ないというニュアンスを示したとのこと。これが本当なら、Pi 5はかなり長く現役の旗艦モデルとして残ることになります。
個人的には、これはかなり納得感があります。というのも、今はDRAM不足、つまりメモリ部品の供給が厳しい時期。新しいSBC(Single Board Computer、1枚基板の小型コンピュータ)を出したくても、値段が高くなりすぎると意味がありません。
記事でも「50ドルのPi 5の2倍払うようなSBCを出す理由はない」という趣旨が語られていて、これはかなり現実的な判断だと思います。
Pi 6に何が載るのかも気になるところですが、ここは少し肩透かしかもしれません。
記事のまとめでは、どうやらキーワードは**“more”**、つまり「より速いCPU」「より速いI/O(入出力)」になりそうだとのことです。
I/Oはざっくり言うと、USBやストレージ、ネットワークなど、外部機器とのやり取りのことです。
なのでPi 6は、派手な新機能を足すというより、今までの使い勝手を底上げする方向に寄りそうです。
そして、ここも面白い点です。
Eben氏は、NPUを載せるより、CPUをAI計算の場として使うという考え方を示したようです。NPUはAI向けの専用チップですが、Raspberry Piはそこにリソースを割くより、まずはCPUとソフトウェアで工夫する立場なのかもしれません。
これは賛否が分かれそうですが、私はわりとRaspberry Piらしい判断だと思います。
Raspberry Piは「何でも最新の専用ハードを積む」より、小さく安く、そして広く使えることを重視してきました。AI専用チップを載せると魅力は増える一方で、コストや設計の複雑さも増えます。そこをどうするかは、かなり悩ましいはずです。
次に話題になったのがPi Zero 2 Wです。
Zeroシリーズは、超小型で安価なRaspberry Piとして人気がありますが、いまは供給が安定していないようです。Eben氏によると、これはsubstrate supply(基板材料や製造用の中間素材の供給)が制約になっているとのこと。さらに、AI向けチップの大量生産の影響で、昔ながらのプロセスノードのチップでも、製造用のシリコンウェハーを確保しづらい状況があるそうです。
ちょっとややこしいですが、要するに「作りたくても、工場の都合で作りにくい」という話です。
Raspberry Pi側では新しい供給元を立ち上げている最中らしく、品薄は一時的なものになりそうだとのこと。これはひとまず安心材料です。
では、Pi Zero 3は近いのかというと、そこはまだ遠そうです。理由は2つあります。
single-sided PCBをやめる必要があるかもしれない
single-sided PCBは、部品を片面だけに載せる設計です。安く作れる反面、部品配置の自由度が低い。
さらに、RAM(メモリ)をCPUの上に重ねるタイプの部品が、より速いCPUでは使えない可能性があるらしく、設計を変える必要が出てきそうです。
新しいLPDDR RAMが高すぎる
LPDDRは省電力なメモリの規格です。Zeroシリーズは価格が命ですが、最新メモリは高価すぎて、15ドルの価格帯に収めるのが難しいとのこと。
しかもZero 2 Wが今の価格を保てているのは、古いLPDDR2 RAMの在庫があるかららしいです。ここはかなりリアルですね。ロマンより在庫、という感じです。
こういう話を聞くと、超低価格製品を維持する難しさがよく分かります。
「安い小型コンピュータ」を作るには、単に小さくすればいいわけではなく、古い部品をうまく使えるかどうかまで含めて設計しないといけないんですよね。

記事の中では、昔のモデルであるPi 3Bにも触れられています。
「Pi 4やPi 5の代わりに安く使えるモデル」として今でも人気があり、年間ほぼ100万台売れているとEben氏は述べたそうです。
これは素直にすごいです。発売から10年以上たつモデルが、まだ大量に売れている。
Raspberry Piが単なるガジェットではなく、教育・組み込み・趣味用途まで含めた定番プラットフォームになっている証拠だと思います。
記事の後半は、Raspberry Piのマイコン系、つまりMCU(Microcontroller Unit、機器を小さく制御するためのチップ)の話です。
ここではRP2350の開発にあたり、電力管理とセキュリティが想像以上に難しかったとJames Adams氏が話しています。
マイコンは、PCのように高性能を競う世界ではありません。
むしろ「安く、少なく電気を食わず、確実に動く」ことが大切です。そこで電力やセキュリティまできっちり詰めるのは、地味ですがかなり大変な作業です。
ただ、開発はうまくいったようで、新しいstepping(シリコンの改訂版)で電流リークのバグが修正されたとあります。
電流リークは、使っていないのに電気が漏れて消費されてしまう問題。バッテリー駆動や省電力設計では、かなり痛い欠陥です。これが直ったのは、ユーザーにとってかなり大きいはずです。
「なんでPicoはUSB-Cじゃないの?」という質問に対しては、コストの問題だと答えています。
USB-Cコネクタはmicro USBより高く、しかも少しだけ基板スペースも必要になる。だから低価格製品では採用しづらい、というわけです。
ここはとても現実的です。
USB-Cは便利ですが、安価な製品にとっては「便利だから採用」で済まないんですよね。部品代が数円〜数十円違うだけでも、台数が膨大になると効いてきます。
とはいえ、いつかはUSB-Cになるだろうとも言っているようです。
これは時間の問題でしょう。今やUSB-Cは新しい標準ですし、ユーザー側の体験も良くなります。なので、コストが落ち着けば自然に移行していくのではないかと思います。
記事の後半で特に印象的だったのが、ソフトウェアとファームウェアの重要性です。
Gordon Hollingworth氏は、ソフトウェアエンジニアリングの時間の95%をライブラリ、ドライバ、kernel、OSの支援と開発に使うと話したそうです。
これはかなり大事なポイントです。
Raspberry Piの魅力って、スペック表だけでは語れません。
安い、買いやすい、しかもLinuxや各種ライブラリ、ドライバの情報が多い。こうした**“動かしやすさ”**が、他の組み込み企業との差になっています。
私もここは強く同意です。
ハードウェアが少し良くても、ソフトが不安定だと結局使いにくい。逆に、多少ハードが地味でも、ソフトの面倒を見てくれると安心して買えるんですよね。Raspberry Piが長く愛される理由は、まさにそこにあると思います。
今回のAMAで見えてきたのは、Raspberry Piが次の一手を慎重に選んでいるということです。
Pi 6は確かに気になりますが、今は部品不足や価格の問題があり、無理に急ぐよりも、Pi 5やZero、Pico系をしっかり支えるほうが現実的なのでしょう。
個人的には、これはとてもRaspberry Piらしい姿勢だと思います。
派手な新機能より、安定して手に入ること、ちゃんと使えること、ソフトが強いこと。この3つを大事にしているからこそ、Raspberry Piはここまで広がったのだと感じます。
Pi 6がいつ出るのかはまだ読めません。
でも、もし出るなら「とにかく速い」「とにかく使いやすい」モデルになってほしい。そんな期待を抱かせる、興味深いAMAだったと言えるでしょう。
参考: News about Raspberry Pi 6 and Microcontroller Development