OpenBSD 7.9 が公開されました。
公開日は 2026年5月19日。これで OpenBSD は 60回目のリリースです。数字だけでも、かなり長く真面目に積み上げてきたプロジェクトだとわかります。こういう“地味だけど筋肉質”なOS、私はかなり好きです。
今回のリリースは、派手な新機能をドンと1つ増やすというより、対応機種を増やし、安定性を上げ、仮想化や省電力、ドライバをじわじわ強くするタイプの更新です。OpenBSDらしいと言えばOpenBSDらしい。とにかく「ちゃんと動く」を積み重ねています。
OpenBSD 7.9 の発表ページでは、変更点をかなり広い範囲で紹介しています。
主な軸はこんな感じです。
要するに、「新しいPCでも動かしたい」「仮想マシンでも便利にしたい」「以前より安全で落ちにくくしたい」という意図がはっきり見えます。
こういう更新は、派手さはなくても実運用ではかなり効きます。むしろ本当にありがたいのはこういう部分だと思います。
arm64 では、Intel の ice(4) が有効化され、RK3588 / RK3576 SoC の対応が追加されました。
さらに、Apple Silicon の一部ラップトップに載っている SDHC コントローラ向けに sdmmc(4) の対応も入りました。
ざっくり言うと、ARM系の新しめな機械で OpenBSD を動かしやすくしたということです。
最近のPCは x86 だけではないので、こういう対応は今後ますます重要になるはずです。
amd64 では、AMD の SoC にある SMU への対応が amdpmc(4) に追加されました。
SMU は電力管理の要となる小さな制御装置のようなものです。ここをうまく扱えると、サスペンド時の低消費電力状態に入りやすくなるわけです。
ほかにも、
amdgpu の Panel Self Refresh(画面の更新を減らして省電力にする仕組み)を無効化など、かなり実用寄りの修正が入っています。
個人的には、大容量メモリ環境の修正が特にいいなと思います。今どきは「メモリが多いからこそ出るバグ」が普通にあるので、こういう対応の価値は高いです。
riscv64 では、SpacemiT K1 SoC 向けの対応が目立ちます。
smtclock(4) というクロック/リセット制御ドライバを追加Zicbom や Svpbmt 拡張を実装Instruction access fault を PROT_EXEC として扱うよう変更し、SIGSEGV を減らすdwpcie(4) に SpacemiT K1 対応を追加RISC-V は「まだこれから」の印象を持たれがちですが、こうして実機対応が進むと一気に現実味が増します。
OpenBSD はこういう新しめのアーキテクチャにもちゃんと手を入れてくるので、見ていて面白いです。
OpenBSD 7.9 では、カーネルの中身もかなり更新されています。
scheduler に、速度の違う CPU コアを管理する仕組みが入りました。
sysctl(8) の hw.blockcpu で、次のようなコアを対象から外せます。
S : SMTP : 通常の高性能CPUE : efficient CPUL : lethargic CPUデフォルトは SL です。
つまり、遅いコアをスケジューラから追い出す方向の調整ができる、ということです。現時点では amd64 と arm64 で動きます。
これはかなり現代的な改善だと思います。最近のCPUは「全部同じ性能」ではないので、OS側がそれを前提に賢く動く必要があります。OpenBSD もようやくその世界にちゃんと足を踏み入れた感じです。
parking lock に置き換えこういう修正は、説明だけ読むと地味です。
でも、OSの安定性って大体こういう地味な積み重ねで決まるんですよね。派手な見た目はなくても、ここが強いOSは信頼できます。
ddb(4) は OpenBSD のカーネルデバッガです。
今回、指定した pid に SIGSTOP を送る stop コマンドが追加され、さらに X から ddb に入ったときの表示も見えるようになりました。
デバッグのための機能ですが、開発者やトラブルシュート担当にはかなりありがたいはずです。
今回の目玉のひとつが delayed hibernation です。
これは、サスペンド中にバッテリー切れで困らないよう、一定時間後に自動で復帰して、そのまま hibernate に移る仕組みです。
設定には machdep.hibernatedelay を使います。
これは普通に便利そうです。
ラップトップ運用だと「ちょっとサスペンドして持ち歩いたら、そのままバッテリーが尽きていた」という事故があるので、こういう保険はかなり実用的だと思います。OpenBSD は“堅いOS”という印象がありますが、こういう現場感のある改善もちゃんとやるのがいいですね。
OpenBSD 7.9 は仮想化まわりの更新も豊富です。
VMM/VMD は OpenBSD の仮想マシン機能で、ホストとしてもゲストとしても使える重要機能です。
主な変更は次の通りです。
machdep.vmmode でホスト/ゲスト状態を確認可能にvmboot という小さな kernel を追加し、sysupgrade(8) を vmd のVMで使いやすくしたcd(4) / vioscsi(4) で confidential computing を利用可能にvmd(8) の timeout や pause barrier、reset race などを修正pvclock(4) の露出条件を調整個人的には、Apple Virtualization 対応がかなり面白いです。
「OpenBSD はPC向けでしょ?」と思っていると、こういうところで意外と幅広く攻めてきます。仮想環境が増えた今、ここを押さえるのは重要です。
カーネルだけでなく、普段触るコマンド類も少しずつ良くなっています。
disklabel(8) の editor で、表示する partition 名を動的に判断disklabel(8) の delete コマンドで FS_UNUSED partition をゼロ化できるようにfstat(1) で close-on-fork フラグを f として表示disklabel は普段あまり触らない人も多いと思いますが、ディスク構成をいじるときにはかなり重要です。細かいけれど、こういうところが使いやすくなるのはありがたいです。
login(1) と xenodm(1) が XDG_RUNTIME_DIR に対応しました。
デフォルトでは /tmp/run/user/${uid} を使い、必要なら作成します。
これは Linux 系ではおなじみの環境変数ですが、OpenBSD でも扱いやすくなったわけです。デスクトップ用途やアプリ連携でじわっと効いてくる変更だと思います。
sndio 関連もかなり手が入っています。
libsndio が audio デバイスを underrun 後に再起動sndiod(8) で fallback audio device をデフォルト有効化audio は「動けば当たり前、壊れるとすごく困る」分野なので、こうした改善はかなり重要です。
OpenBSD は音まわりが弱いと言われがちですが、今回の修正を見ると、ちゃんと着実に前進している印象があります。
OpenBSD 7.9 では、各種ハードウェアドライバの追加・改善が大量にあります。
全部追うとキリがないですが、特に目立つものを挙げると:
nhi(4) : USB4 controller 用ドライバsgmsi(4) : Sophgo SG2042 SoC の MSI controllercdpcie(4) : Cadence PCIe controllerqcuart(4) : Qualcomm GENI UARTsmtgpio(4) : SpacemiT K1 の GPIOrkusbdpphy(4) : Rockchip の USB DP Combo PHYispi(4) : Intel LPSS SPI controlleracpihid(4) : ACPI の Generic Buttons Deviceiasuskbd(4) : ASUS I2C laptop keyboard の特殊キーpsp(4) : AMD EPYC 9005 の PSP 対応uvisor(4) : AlphaSmart Dana 対応smte(4) : SpacemiT K1 の Ethernetここまで来ると、OpenBSD は単に“セキュアなOS”というだけでなく、かなり広いハードウェアを現実に動かすためのOSなんだと改めて感じます。
特定の会社やSoCへの対応がどんどん入っているのを見ると、開発の粘り強さに感心します。
ネットワーク系も更新が多いです。
bnxt(4) のメモリリーク修正umb(4) で uplink/downlink speed を kstat(4) から見えるようにumsm(4) で Quectel EC200A LTE modem 対応rge(4) に RTL8126 の新リビジョン対応bnxt(4) と ice(4) で SoftLRO をデフォルト有効化urndis(4) のバッファサイズを 16k に拡大dwqe(4) がリンクダウンから復帰しない問題を修正bse(4) の出力を mp-safe 化bnxt(4) に BCM575xx(Thor / P5)対応ice(4) の TSO packet の “too many data commands” エラーを修正ネットワークは一見すると地味ですが、OSの実力が露骨に出るところです。
ここが強いと、日常運用のストレスがかなり減ります。OpenBSD は昔からネットワークに強いですが、7.9 でもその路線をしっかり維持しています。
本文の抜粋は途中までですが、wireless stack の改善とバグ修正も含まれています。
OpenBSD の release notes では無線まわりの調整が毎回しっかり入る印象があります。Wi-Fi は相性問題が出やすいので、こういう継続的な修正は本当に大切です。
率直に言うと、OpenBSD 7.9 の魅力は「新機能が派手」ではなく、普段のOS体験をじわっと良くする更新が多いことです。
こういうのは、カタログスペックには出にくいです。
でも、実際に使うと差が出ます。私はこういう「見えない進化」を積み重ねるOSがいちばん信頼できると思っています。
OpenBSD 7.9 は、60回目のリリースにふさわしく、成熟したOSが次の時代のハードウェアや利用形態に合わせて更新され続けていることを示す内容でした。
特に印象的だったのは、
あたりです。
OpenBSD は「安全第一」のイメージが強いですが、実際にはかなり実戦的で、しかも新しい機械にもちゃんと追随しています。そこが面白いし、頼もしいところだと思います。
参考: OpenBSD 7.9