PaPoo
cover
technews
Author
technews
世界の技術ニュースをリアルタイムでキャッチし、日本語でわかりやすく発信。AI・半導体・スタートアップから規制動向まで、グローバルテックシーンの「今」をお届けします。

データセンターの建設で、住民の声が届きにくくなるかもしれない

AI向けのデータセンターが各地で急増するなか、米国の環境規制をめぐって、住民が建設計画に意見を言う機会を狭める動きが出ている。Capital B Newsは、連邦政府が公聴や情報公開のルールを緩めようとしており、とくに黒人コミュニティが多い地域でその影響が大きくなりうると伝えた。単なる手続きの話に見えて、実際には空気汚染、電気代、立ち退きまでつながる問題だ。しかも、住民が気づいたときには工事が始まっている、そんな事態もありえそうだというのがこの記事の重さだと思う。

EPAがいじろうとしているのは、住民が口を出せるタイミング

この記事が扱うのは、米環境保護庁(EPA)が提案した規則変更だ。ひとつは、州が工業施設の大気汚染許可を出す前に、住民へ知らせて意見募集を行うことを義務づける連邦ルールを撤廃しようとしている点。データセンターだけでなく、それらに電力を供給するための発電所も対象に含まれる。もうひとつは、デベロッパーが許可の承認前でもデータセンター建設を始められるようにする変更だという。

記事は、こうした動きがとくに南部の農村地域に集中しやすいと指摘する。そこには黒人住民が多い地域が少なくない。住民から見れば、計画が出てきた時点で初めて知るのでは遅い。コメントの機会がなくなれば、質問も反対もできないまま、工事と汚染だけが先に進む可能性がある。実際、記事の中ではサウスカロライナ州で開かれた公聴会や、メンフィスでのxAIの許可申請をめぐる住民の反応が写真付きで紹介されている。

地元で反対運動をしているPaul Black氏は、南カロライナで計画されているデータセンター複合施設を、1,200面のフットボール場に相当する規模だと表現した。その計画は、40%が黒人住民の地域で議論されているが、もともとはジョージア州のより白人が多い郡で失敗したものだったとも述べられている。Black氏は、こうした進め方は民主主義に反し、住民の意志を裏切るものだと強く批判した。

EPAは一方で、この変更は州や自治体に裁量を与えるだけだと説明している。地元事情を最もよく知る機関が、いつ、どのくらいの期間、公衆参加の機会を設けるか判断できるという理屈だ。ただ記事は、地方政府がテック企業と秘密保持契約を結んで情報を隠したり、法的命令を無視してまで詳細を伏せたりしてきた例を挙げ、そうした説明をそのまま信じにくい状況があると示す。さらに、米国内ではデータセンター建設に反対する世論が強く、7割が自宅近くでの建設に反対しているという数字も紹介されている。

手続きの簡素化に見えて、実は「黙らせる設計」ではないか

私がまず気になったのは、今回の変更が「効率化」の顔をしていることだ。EPAは「行政手続きを速くし、米国の経済発展とエネルギー優位を支える」と説明している。文言だけ見れば、よくある規制緩和の話に見える。だが、住民が知る前に工事が始められるようにするなら、それは単なる迅速化ではなく、反対や修正の余地を薄くする設計だと思う。許可制度は本来、建ててから問題が起きるのを防ぐためにある。そこを後ろ倒しにするのは、制度の趣旨とかなり緊張する。

しかも対象がデータセンターである点が象徴的だ。データセンターは「デジタルの箱」のように見えるが、実際には大量の電力を食い、発電所や送電網、燃料供給まで巻き込む。つまり、見た目はITでも、中身は重いインフラだ。空気の汚れや騒音、土地利用の変化が生活圏に落ちてくるのに、住民側の入口だけが狭くなるのは不公平だろう。便利なサービスの裏側で生じるコストを、近くに住む人だけが引き受ける構図になりやすい。

黒人コミュニティにしわ寄せが集まりやすいのが、いちばん厄介だ

この記事の核心は、データセンター問題が単なる環境問題ではなく、公害の負担配分の問題になっていることだと思う。記事は、南部の農村地域、とくに黒人コミュニティが多い場所で成長が大きいと書く。これは偶然ではなく、土地が広い、政治的な抵抗が弱く見られやすい、情報公開が弱い、といった条件が重なっているのではないか。そこに行政の手続き緩和が入ると、もともと弱い立場の人ほど、さらに声を失いやすい。

しかも負担は空気汚染だけでは終わらない。記事では、データセンターがガス火力発電所やタービンの増設を促し、それが窒素酸化物や微小粒子状物質、場合によってはホルムアルデヒドのような有害物質を出すとされる。発電コストが利用者に転嫁されれば、電気代も上がる。黒人世帯は平均してエネルギー負担が重いとされるので、生活への打撃はより大きくなりうる。さらに、建設労働者流入で周辺の家賃や住宅価格が跳ね上がり、トレーラーハウスの住民が追い出された例まである。ここまで来ると、これは開発というより、地域の暮らし方を塗り替える圧力だ。

「AIを世界一にする」のスローガンが、現場の空気を薄めていないか

もうひとつ引っかかるのは、EPAの姿勢が、環境保護庁という本来の役割とかなりずれて見えることだ。Lee Zeldin氏は昨年、EPAの最優先事項は米国をAIの中心地にすることだと述べたと記事は伝える。だが、EPAは1970年に設立された機関で、もともとは環境と公衆衛生を守るためのものだ。AIの国際競争に勝つことが、なぜ住民の参加機会を削る方向につながるのか。ここは説明が飛んでいるように感じる。

私は、政府が「成長」や「競争力」を掲げるほど、具体的な被害は見えにくくなると思う。データセンターの恩恵は遠くにいる人が受け、騒音や排気、地価上昇や電気代の上振れは現場の住民が引き受ける。この非対称は、過去の工業立地問題とよく似ている。ただ今回は、相手が巨大なAI企業で、しかも「未来の産業」として正当化されやすいぶん、異議申し立てが軽く扱われやすいのではないか。だからこそ、住民が情報を知る権利を先に削るのは危うい。声を聞く仕組みを残さないまま前へ進めば、あとで残るのは、作られた施設と、受け入れを強いられた地域だけだ。

地方自治体への信頼が崩れているのに、裁量を渡して大丈夫なのか

EPAは「州と地方に任せる」と言うが、この記事を読む限り、その前提はかなり怪しい。地元政府がテック企業と秘密保持契約を結んだり、裁判所の命令を押し切って情報を隠したりしてきたなら、裁量を増やすことがそのまま民主的な運用につながるとは限らない。むしろ、透明性の低い自治体ほど、住民が異議を唱えにくいまま計画が進む危険がある。Davante Lewis氏が「信じてくれ」と言うだけでは通らない、と語ったのはその通りだと思う。

ここで厄介なのは、住民側がただ反対しているだけではないことだ。多くの人は、地域に雇用や税収が入るなら理解したいはずだ。だが、その代わりに何が失われるのかが見えない。健康、電気代、土地、静かな生活、将来の住みやすさ。これらを比べる材料が与えられないまま「地域振興」と言われても、納得しろという方が無理がある。だから今回の問題は、データセンターそのものより、意思決定の順番にある。先に建てることが決まり、あとから説明だけ求められるなら、それは参加ではない。


参考: Federal Government Moves to Limit Public Input on Data Center Projects

同じ著者の記事