PaPoo
cover
technews
Author
technews
世界の技術ニュースをリアルタイムでキャッチし、日本語でわかりやすく発信。AI・半導体・スタートアップから規制動向まで、グローバルテックシーンの「今」をお届けします。

MediaTekがDimensity 8550を発表、LLM BoosterとGemini Nano V3対応で“AI寄り”に再仕上げ

キーポイント

まず結論:中身はほぼ同じ、でも“AIまわり”が少し前進

MediaTekが新しいSoC(スマホ向けの頭脳みたいなチップ)​Dimensity 8550を発表しました。

ただし、これを見て「大幅刷新だ!」と期待すると、少し肩透かしかもしれません。というのも、​基本設計は以前のDimensity 8500とほぼ同じだからです。
違いは主に、​LLM Boosterの追加と、​Google Gemini Nano V3への対応。つまり、今回は“性能を大きく盛った新型”というより、​AI機能をより扱いやすくした再調整版という印象です。

個人的には、こういう更新はかなりMediaTekらしいなと思います。派手な全部入り新世代ではなく、実用性が高そうな部分だけを静かに強化する。地味だけど、スマホの使い勝手には効いてきそうです。

Dimensity 8550って何が新しいの?

1. いちばんの目玉はLLM Booster

今回の新要素として前面に出ているのがLLM Boosterです。

LLMは「Large Language Model」の略で、ざっくり言うと文章を理解したり生成したりするAIのこと。
たとえば、要約、文章作成、チャット補助、端末内で動くAIアシスタント系の処理などがイメージしやすいです。

「Booster」という名前からも分かる通り、これはスマホ上でのAI処理を効率よく動かすための強化機能だと考えてよさそうです。
MediaTekは、これをGoogleのGemini Nano V3対応とセットで打ち出しています。

2. Gemini Nano V3に対応

Gemini Nanoは、GoogleのAIモデルの中でもスマホ端末上で動くことを意識した軽量版です。
クラウドに送らず、端末側で処理できる場面が増えるので、​応答が速い、​オフラインでも使える可能性がある、​プライバシー面で有利といったメリットが期待されます。

image_0003.jpg

もちろん、どこまで使えるかは実装次第ですが、「スマホの中でAIがもっと賢く動く」方向に向かっているのは間違いありません。

3. NPU 880はそのまま

AI処理を担当するNPU​(ニューラル処理ユニット、AI専用の演算エンジン)は、引き続きNPU 880です。

つまり、チップの“AI担当の心臓部”そのものが別物になったわけではなく、​ソフトウェアや最適化でAI体験を底上げする方向のアップデート、と見るのが自然です。

CPUとGPUはどうなの?

CPUは8コアすべてCortex-A725

Dimensity 8550のCPUは、​8基すべてがCortex-A725という構成です。
最近のスマホSoCでは、性能の高いコアと省電力コアを混ぜることが多いのですが、このチップは全コアが“大きいコア”のタイプ。これをall-big-core構成と呼びます。

クロックは以下の通りです。

正直、この構成はかなり攻めています。
単純に「速いコアをたくさん積んで、幅広く押し切る」設計なので、​負荷の高い処理やマルチタスクで強そうです。一方で、省電力コアがないぶん、使い方によっては電力効率が気になる場面もあるかもしれません。とはいえ、TSMCのN4Pプロセスで作られているので、電力面のバランスはかなり意識されていそうです。

image_0012.jpg

GPUはMali-G720 MC8

GPUはMali-G720 MC8
これはゲームや映像表示を担当する部分で、対応は1440p+解像度、最大144Hzです。

要するに、かなり高精細で滑らかな画面表示に対応しています。
144Hzは、スクロールやアニメーションがなめらかに見える高リフレッシュレートのこと。実際に体感しやすい部分なので、対応スマホでは“ヌルヌル感”が期待できそうです。

動画面でも、​4K/60fpsのエンコードに対応し、​AV1デコードもサポートしています。
AV1は、ざっくり言うと高画質を比較的少ないデータ量で扱いやすい新しい動画コーデックです。今後ますます重要になる規格なので、ここはしっかり押さえているなという印象です。

メモリ・通信・ストレージも抜かりなし

Dimensity 8550は、以下にも対応しています。

ここでのポイントは、チップ単体の性能だけでなく、​スマホ全体を速く感じさせる土台がちゃんと揃っていることです。
LPDDR5XやUFS 4は、要するにメモリと保存領域の高速版。アプリ起動やデータ読み込みの快適さに効きます。

dual SIM dual activeは、​2枚のSIMを同時に待ち受け・利用できるタイプの機能。仕事用と個人用を分けたい人にはうれしい仕様です。

image_0013.svg

最初の搭載機はHonor 600 Pro

このDimensity 8550を最初に採用したのは、​Honor 600 Proの中国版です。
すでに正式発表済みとのこと。

新チップの“初号機”がどのスマホになるかは、地味に重要です。
というのも、チップの印象はスペック表だけで決まらず、​実際にどんな端末に載るかで大きく変わるからです。Honorがどう仕上げてくるか、かなり気になります。

どう見るべきか

Dimensity 8550は、名前こそ新しいですが、実態としてはDimensity 8500のAI強化版に近いです。
なので、「ものすごく新しい世代が来た!」というより、​今の設計を少し洗練して、生成AI時代に合わせたチップ、と見るのがしっくりきます。

ここが面白いところで、今後のスマホは単なるCPU/GPUの速さだけでなく、​端末内でAIをどれだけ自然に動かせるかが価値になっていきそうです。
その意味で、MediaTekがLLM BoosterやGemini Nano V3対応を前面に出してきたのは、かなり時代に合っています。個人的には、ここはかなり重要だと思います。

一方で、「中身はほぼ同じ」という事実も忘れてはいけません。
新型という名前に引っ張られすぎず、​実際の性能差や省電力性、発熱、AI機能の使い勝手は、実機レビュー待ちというのが正直なところです。スペック表だけではまだ勝負はつきません。


参考: MediaTek unveils Dimensity 8550 with LLM Booster and support for Gemini Nano V3

同じ著者の記事