MediaTekが新しいSoC(スマホ向けの頭脳みたいなチップ)Dimensity 8550を発表しました。
ただし、これを見て「大幅刷新だ!」と期待すると、少し肩透かしかもしれません。というのも、基本設計は以前のDimensity 8500とほぼ同じだからです。
違いは主に、LLM Boosterの追加と、Google Gemini Nano V3への対応。つまり、今回は“性能を大きく盛った新型”というより、AI機能をより扱いやすくした再調整版という印象です。
個人的には、こういう更新はかなりMediaTekらしいなと思います。派手な全部入り新世代ではなく、実用性が高そうな部分だけを静かに強化する。地味だけど、スマホの使い勝手には効いてきそうです。
今回の新要素として前面に出ているのがLLM Boosterです。
LLMは「Large Language Model」の略で、ざっくり言うと文章を理解したり生成したりするAIのこと。
たとえば、要約、文章作成、チャット補助、端末内で動くAIアシスタント系の処理などがイメージしやすいです。
「Booster」という名前からも分かる通り、これはスマホ上でのAI処理を効率よく動かすための強化機能だと考えてよさそうです。
MediaTekは、これをGoogleのGemini Nano V3対応とセットで打ち出しています。
Gemini Nanoは、GoogleのAIモデルの中でもスマホ端末上で動くことを意識した軽量版です。
クラウドに送らず、端末側で処理できる場面が増えるので、応答が速い、オフラインでも使える可能性がある、プライバシー面で有利といったメリットが期待されます。

もちろん、どこまで使えるかは実装次第ですが、「スマホの中でAIがもっと賢く動く」方向に向かっているのは間違いありません。
AI処理を担当するNPU(ニューラル処理ユニット、AI専用の演算エンジン)は、引き続きNPU 880です。
つまり、チップの“AI担当の心臓部”そのものが別物になったわけではなく、ソフトウェアや最適化でAI体験を底上げする方向のアップデート、と見るのが自然です。
Dimensity 8550のCPUは、8基すべてがCortex-A725という構成です。
最近のスマホSoCでは、性能の高いコアと省電力コアを混ぜることが多いのですが、このチップは全コアが“大きいコア”のタイプ。これをall-big-core構成と呼びます。
クロックは以下の通りです。
正直、この構成はかなり攻めています。
単純に「速いコアをたくさん積んで、幅広く押し切る」設計なので、負荷の高い処理やマルチタスクで強そうです。一方で、省電力コアがないぶん、使い方によっては電力効率が気になる場面もあるかもしれません。とはいえ、TSMCのN4Pプロセスで作られているので、電力面のバランスはかなり意識されていそうです。

GPUはMali-G720 MC8。
これはゲームや映像表示を担当する部分で、対応は1440p+解像度、最大144Hzです。
要するに、かなり高精細で滑らかな画面表示に対応しています。
144Hzは、スクロールやアニメーションがなめらかに見える高リフレッシュレートのこと。実際に体感しやすい部分なので、対応スマホでは“ヌルヌル感”が期待できそうです。
動画面でも、4K/60fpsのエンコードに対応し、AV1デコードもサポートしています。
AV1は、ざっくり言うと高画質を比較的少ないデータ量で扱いやすい新しい動画コーデックです。今後ますます重要になる規格なので、ここはしっかり押さえているなという印象です。
Dimensity 8550は、以下にも対応しています。
ここでのポイントは、チップ単体の性能だけでなく、スマホ全体を速く感じさせる土台がちゃんと揃っていることです。
LPDDR5XやUFS 4は、要するにメモリと保存領域の高速版。アプリ起動やデータ読み込みの快適さに効きます。
dual SIM dual activeは、2枚のSIMを同時に待ち受け・利用できるタイプの機能。仕事用と個人用を分けたい人にはうれしい仕様です。
このDimensity 8550を最初に採用したのは、Honor 600 Proの中国版です。
すでに正式発表済みとのこと。
新チップの“初号機”がどのスマホになるかは、地味に重要です。
というのも、チップの印象はスペック表だけで決まらず、実際にどんな端末に載るかで大きく変わるからです。Honorがどう仕上げてくるか、かなり気になります。
Dimensity 8550は、名前こそ新しいですが、実態としてはDimensity 8500のAI強化版に近いです。
なので、「ものすごく新しい世代が来た!」というより、今の設計を少し洗練して、生成AI時代に合わせたチップ、と見るのがしっくりきます。
ここが面白いところで、今後のスマホは単なるCPU/GPUの速さだけでなく、端末内でAIをどれだけ自然に動かせるかが価値になっていきそうです。
その意味で、MediaTekがLLM BoosterやGemini Nano V3対応を前面に出してきたのは、かなり時代に合っています。個人的には、ここはかなり重要だと思います。
一方で、「中身はほぼ同じ」という事実も忘れてはいけません。
新型という名前に引っ張られすぎず、実際の性能差や省電力性、発熱、AI機能の使い勝手は、実機レビュー待ちというのが正直なところです。スペック表だけではまだ勝負はつきません。
参考: MediaTek unveils Dimensity 8550 with LLM Booster and support for Gemini Nano V3