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ロンドン警察、デモで初の顔認証導入へ――「安全」と「監視」の境界線はどこか

キーポイント

何が起きたのか

英サイト Reclaim The Net の記事によると、ロンドン警視庁は、政治的なデモの会場で初めて live facial recognition(ライブ顔認証)​ を使うと発表しました。

live facial recognition というのは、カメラで映った人の顔をその場で読み取り、警察が持つwatchlist(照合対象の名簿)​と比べる仕組みです。要するに、街を歩く人や集会に来た人の顔をリアルタイムでチェックするわけです。技術としてはかなり強力ですが、正直、一般市民からすると「ちょっと待って、それ本当に許されるの?」となる類のものだと思います。

今回の対象は、ロンドン・Camdenで行われる「Unite the Kingdom, Unite the West」集会。主催者の Tommy Robinson は、この集会を「national unity, free speech and Christian values」のためだと説明しています。
ロンドン警視庁は、参加者が集まると見込まれる区域にLFRを展開するとしており、さらに上空にはドローンも飛ばすとされています。

同じ日なのに、片方だけ監視?

この記事で特に引っかかるのは、​同じ日にロンドンで行われる親パレスチナのデモには、同じ顔認証を適用しないとされている点です。

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記事では、MetのDeputy Assistant Commissioner James Harman の発言として、LFRはCamdenの「Unite the Kingdom」イベント向けに使う一方、同日に行われる推定3万人規模の親パレスチナ行進には使わない、と紹介しています。

これ、単なる運用上の差なのかもしれませんが、外から見るとかなり不公平に見えます。
Reform UK の Nigel Farage も「同じ扱いをすべきだ」と反応し、​**“two-tier justice”**​(二重基準の司法・治安運用)だと批判しました。

個人的にも、こういう場面で監視の強さに差がつくと、技術そのもの以上に「誰が危険視されているのか」という政治的メッセージが立ってしまうのが怖いと思います。

ロンドンでは、すでに監視の“土台”が変わっている

今回のデモでの導入は単発の話ではありません。記事によれば、ロンドン警視庁はその2日前にも、​Croydonでの6か月間の試験運用の結果を公表していました。

ここで注目なのは、顔認証カメラを警察車両ではなく、街灯や既存の街路設備に設置したことです。
これはかなり大きい変化です。

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つまり、監視が「たまたま来た警察の装置」から、「街に最初から埋め込まれている機能」に変わりつつある、ということです。
これはかなり気持ち悪い。少なくとも私はそう感じます。

数字だけ見ると“成果”、でも代償は大きい

Metは、Croydonでの6か月の試験で以下のような数字を出しています。

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警察側はこれを「うまく使えば非常に強力なツール」と評価しています。
たしかに、数字だけ見れば「おお、成果があるじゃないか」と思う人もいるでしょう。

でも、ここで大事なのは何人が監視対象になったかです。
記事は、47万人以上の生体情報が処理された一方で、​99.96%の人は何の犯罪にも関係がなかったと指摘しています。

さらに言えば、​1件の逮捕のために約2717人の顔がスキャンされた計算になります。
これをどう見るか。
「犯罪者を見つけるための効率的な方法」と言うこともできるけれど、私はむしろ大勢の無関係な人を巻き込む前提の監視だと感じます。

問題は「使えるか」より「誰が決めたのか」

記事は、顔認証の導入が議会の明確な承認なしに進んでいることも問題視しています。

要するに、

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ということです。

これは技術の是非以前に、かなり重要な話です。
社会に大きな影響を与える監視技術なら、本来は​「誰が、どこで、どの条件で使うのか」​を、公開の場で決めるべきです。
それが曖昧なまま広がると、気づいたときには「もう普通に使われている」状態になってしまう。記事が言うように、まさに導入→試験→慣れの順で既成事実化しているわけです。

いちばん怖いのは「参加する前にためらう」こと

今回のデモでの顔認証導入が、単にその場の逮捕率を上げるだけで終わるとは思いません。
むしろ本当に怖いのは、​​「行くかどうか迷っていた人が、監視を理由に参加をやめる」​ことです。

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記事もここを強く押さえていて、顔認証はたとえデータがすぐ削除されるとしても、​政治的参加の記録を生み出すと指摘しています。
つまり、デモ会場に行っただけで「顔を撮られるかもしれない」と感じれば、人は来なくなるかもしれない。
これって、表現の自由や集会の自由に対して、かなり効いてしまう圧力です。

監視カメラは、逮捕する前に人を黙らせることがある。
その意味で、顔認証は単なる治安技術ではなく、​行動を変えてしまう社会装置なんだと思います。

個人的な感想

この記事を読んでまず思ったのは、​​「便利だから広げていい」領域を超えてきたなということです。

顔認証そのものは、空港の本人確認や刑事事件の捜査など、限定された場面なら使い道があるのかもしれません。
でも、デモのような政治的な場に入ると話が変わります。
そこでは「何をしたか」だけでなく、「何を言いたい人だったか」「どんな立場に見えるか」まで監視の対象になりかねないからです。

しかも今回は、街のあちこちに固定カメラを置く方向まで進んでいる。
これが一度広がると、あとから止めるのはかなり難しいはずです。
技術は“例外運用”から始まって、いつのまにか“標準運用”になる。
ネットでも街でも、このパターンは何度も見てきました。

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まとめ

ロンドン警視庁による今回のデモでの顔認証導入は、単なる新技術の試用ではありません。
政治的な集会に対する監視の線引きが崩れ始めた象徴的な出来事として見るべきだと思います。

「安全のため」という説明は分かりやすいし、完全に否定しづらい。
でも、その裏で誰が監視され、誰が監視されないのかが曖昧なままでは、自由社会の土台が少しずつ削られていく。
記事のタイトルどおり、まさに市民の自由が1回の導入ごとに少しずつ侵食されている、そんな印象です。


参考: London Police Deploy Facial Recognition at Protest for First Time

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