SuperSplatに公開されている 「Strawberry」 は、その名の通り、いちごを題材にした3D作品です。
ただのフルーツ写真だと思ったら大間違いで、制作条件を読むとかなり気合いが入っています。
作者はこの作品を、90個の視点から撮影したそうです。
しかも各視点で、88枚のfocus stacked images を使っています。
ここでいう focus stacking は、簡単に言うと「ピント位置の違う写真を何枚も重ねて、全体にくっきり見える1枚を作る方法」です。
マクロ撮影では被写体が大きく写るぶん、ピントが合う範囲がとても狭くなります。いちごのように表面のつぶつぶまで立体感を出したい対象だと、普通の1枚撮りではどうしても一部しかシャープになりません。そこで何十枚も撮って合成するわけです。
いや、手間がすごい。正直、ここまで来ると「写真を撮る」というより「研究する」に近いと思います。
公開されている撮影情報は次の通りです。
こういう情報がきちんと書かれているのは、技術好きとしてはかなりうれしいところです。
特に macro lens は、花や昆虫、小さな食品など「寄って撮る」ためのレンズです。いちごの表面の質感や種の凹凸を、かなり細かく拾っているはずです。
また、背景に bluescreen を使っているのも実用的です。
青い背景は被写体と分離しやすく、後処理で切り抜きやすいことが多いからです。3D化の材料を作るときには、こういう地味な工夫が効いてくるんですよね。
この作品の training は、GitHubで公開されている slang-splat というツールで行われたと書かれています。
名前からすると少しとっつきにくいですが、要するに「撮影した画像群から3Dっぽい表現を学習させるための仕組み」です。
SuperSplatの文脈では、こうした手法で作った3Dシーンをブラウザ上で見たり共有したりできます。
静止画をただ眺めるのではなく、3D空間として作品を扱えるのが面白いところです。個人的には、果物みたいな身近なものほど3Dにすると妙な説得力が出て、ちょっと感動します。
「知ってるはずのものが、知らない情報量で迫ってくる」感じがあるんですよね。
この「Strawberry」は CC BY 4.0 で配布されています。
これはざっくり言うと、利用は自由だけれど、作者名のクレジットを付けるのが基本というライセンスです。
ただし本文では、
「attribution is appreciated rather than required」
つまり「表記してくれると嬉しいけど、必須ではない」とも書かれています。
さらに、without attribution でも使ってよいと明記されています。
こういう公開のしかたは、作品を広く触ってもらいたい意図が伝わってきます。
3Dデータは見るだけでなく、研究、教材、実験、制作の参考にもなりますから、オープンにする価値は大きいと思います。
加えて、COLMAP dataset もPatreonで入手できると案内されています。
COLMAPは、複数の写真からカメラ位置や3D構造を推定するために使われる定番ツールです。
つまり、見た目の完成品だけでなく、元データまで触れる可能性があるわけで、これは制作を学びたい人にはかなりありがたいはずです。
正直、こういう高度な3D作品は、派手な建物やSFっぽいオブジェクトで作られると「まあすごいね」で終わりがちです。
でも今回は、いちご。ここがいい。
いちごって誰でも知っているし、スーパーでも見かける、かなり日常的な存在です。
それなのに、90方向・88枚ずつ・マクロ撮影・focus stacking・3D training まで積み重ねると、ただの果物が一気に「観察対象」になります。
このギャップが面白いんです。
日常のものを、異常なくらい丁寧に扱う。その結果、見慣れたものがまったく違って見える。
個人的には、こういう作品こそテクノロジーの醍醐味だと思います。
SuperSplatの「Strawberry」は、いちごを90方向から撮影し、各視点で88枚のfocus stackingを行い、さらに3D表現として学習・公開した、かなり手の込んだ作品です。
撮影条件も機材も本格的で、しかもデータやライセンス情報も明快。技術的にも公開姿勢としても好印象でした。
見た目は可愛らしいのに、裏側はかなりガチ。
この「見た目とのギャップ」こそが、今回の作品のいちばんの魅力ではないでしょうか。