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Google Play をやめて Conversations を無料公開した理由

Android向けの分散型メッセージングアプリ「Conversations」の作者が、Google Playでの販売をやめ、F-Droidを中心に無料配布へ切り替えた。単なる価格変更ではなく、長年続いたGoogleとの関係を「毒のある依存」だと断じ、もう付き合わないと宣言した話でもある。オープンソースをどう収益化するか、配布プラットフォームにどこまで頼るべきかを考える材料としても、かなり生々しい。しかもこれは理想論ではなく、作者自身の生活費とアプリの継続運営が絡んだ実務の話だ。

Conversations が有料アプリから無料配布に変わるまで

Daniel Gultsch氏は、Android向けのXMPPクライアント「Conversations」を2014年1月に学生寮で作り始めたという。もともとは自分が使いたいものを作る、いわゆる “scratch my own itch” の流れだった。数週間で自分でも日常的に使うようになり、友人との連絡手段として定着した。その後、2014年3月24日に一般公開するとき、彼はこれを単なる趣味の公開ではなく、ビジネスにしようと考えた。ソースコードは公開しつつ、コンパイル済みのアプリを便利さの対価として売るモデルだ。

そこから10年以上がたち、Conversationsは彼にとって持続可能な仕事になった。収入源は時期によって変わり、最初は企業向けの有償開発が多かった。Conversations本体に入る機能を頼まれることもあれば、特定の会社の業務にしか合わない独自機能を作ることもあった。サーバー構築や、インスタントメッセージングやセキュリティに関する相談も収入になった。さらに後年は、助成金や資金提供の比重が大きくなっていく。

ただ、長く安定した収入源だったのがGoogle Playの売り上げだった。彼は「家賃を払ってくれる」とまで表現している。フリーランスは数か月おきに請求書を切る生活になりやすく、助成金も支払いは期間の終わりに寄る。だから定期的に入る売り上げは、特に初期にはありがたい。Google Playの15%の手数料は取られるが、それでも収入の安定という意味では大きかった。

一方で、Googleとの関係はずっと悪かった。アプリ更新は理解できない理由で何度も拒否され、Conversationsは2回もPlay Storeから削除された。あるときは、ユーザーの連絡先をアップロードしていると突然疑われたが、それは事実ではなく、特定の更新に紐づいた問題でもなかったという。彼は、AIとクリックワーカー相手ではなく、せめて人間と5分話せれば誤解はすぐ解けたはずだと不満を述べる。記事執筆時点でも更新審査に14日待たされており、以前から遅かった審査がこの1年ほどでさらに悪化したとも書いている。新機能の更新が遅れるだけならまだしも、Googleは機能追加とセキュリティ修正を区別しないため、セキュリティ更新まで何日も何週間も止まるのは危険だ、というのが彼の主張だ。

彼はさらに、Googleが15%を取ることで、自分は年間1000ユーロ超を払っている計算になると述べる。その額はインターネット接続料の1.5倍ほどで、ノートPCの年額コストにも近い感覚だという。ネットが壊れれば人が来て直してくれるし、PCが壊れても人が来る。だがGoogleが失敗しても、何もできず、人間にすら話せない。彼にとってこれは、経済的に縛られていただけの「有害な関係」だった。

今では収入の重心は助成金に移っている。NLnet経由のものや、欧州委員会からの資金があり、2029年末までは安定した資金が確保されているという。さらにその先も別の支援機会が出てくる見込みだとしている。そこで、F-Droidで無料配布してきたConversationsを、ついに正式な主流の配布方法として扱うようになった。以前はGoogle Playで有料だったため、F-Droid側が掲載の許可を求めてきた。作者は拒まなかったが、当初は公式サイトからF-Droidへ誘導しなかった。ところがGoogleへの感情が悪化するにつれ、そこへのリンクも載せるようになった。現在はF-Droidが主要な配布経路で、そこから入るAPKは再現可能ビルドで作られ、彼自身の署名鍵で署名されている。最後に彼は、Google Playの収益に依存しなくてよくなった今、Googleはもう自分と自分のお金に値しないし、終わりだ、と強い言葉で締めている。

この話が刺さるのは、アプリの値段より「審査の支配力」だと思う

この告白で面白いのは、無料化そのものよりも、作者がいちばん問題視しているのが「売れないこと」ではなく「止められること」だという点だと思う。Google Playの15%は、彼にとって単なる手数料ではない。売上の一部を払う代わりに、配布の可視性や決済の便利さ、ユーザーへの到達手段を買っていた。しかし彼の体験では、その見返りがあまりに不安定だった。審査が遅い、説明が通らない、最悪の場合は削除される。しかもセキュリティ修正まで同じ列に並べられるなら、配信基盤としてはかなり危うい。

ここで重要なのは、Googleが悪いという感情論だけでは片づかないことだ。メッセージングアプリは、更新が遅れるとそのまま利用者の安全に響く。普段は新機能が遅れても問題になりにくいが、セキュリティ更新は別だ。つまり彼が嫌がっているのは気分ではなく、配信インフラとしての優先順位付けが機能していないことだと思う。巨大なストアであっても、長く育てたアプリに必要な配慮が返ってこないなら、そこに縛られる理由は薄くなる。

F-Droidへの移行は理想主義というより、収益構造の組み替えに見える

ConversationsはもともとF-Droidにあったが、作者が前面には押し出していなかった。これはかなり現実的だ。オープンソースであっても、最初から「無料でどうぞ」と言ってしまうと、開発費の回収が難しくなる。しかも彼の収入は、企業向け開発、相談、助成金、そしてPlay Storeの売上が混ざったものだった。だから当初は、Google Playを主戦場にするのは自然だったはずだ。

ただ、助成金が積み上がり、2029年末まで見通しが立つなら話は変わる。Google Playの売上が「なくても困らない」状態になった瞬間、配布チャネルに従う理由は薄れる。ここで彼がF-Droidを主要ルートにしたのは、思想の転向というより、収益モデルの再設計に見える。しかも再現可能ビルドと自前署名を採っているので、単に無料化しただけではない。誰が作ったAPKかを自分で保証しやすくし、配布の透明性も高めている。オープンソースの美徳を、運営の都合に合わせてようやく本気で使えるようになった、という感じが強い。

「毒のある関係」から抜けるには、別の稼ぎ方が要る

この文章は、Google批判として読むより、依存から抜けるまでの準備期間の記録として読むと腑に落ちる。彼が何年もPlay Storeにとどまれたのは、単に惰性ではなく、そこに実際の生活費が乗っていたからだ。独立した開発者にとって、手数料率そのものより、毎月の収入が読めることのほうが重い。だから「Googleが嫌いだからやめた」というより、「嫌いでもやめられなかったが、やっとやめられる状態になった」が正確だと思う。

この順番はかなり大事だ。大手プラットフォームから離れる話は、倫理だけで語られると空中戦になりがちだが、実際には代替の資金源が必要になる。彼の場合は助成金がそれを支えた。これは誰にでも再現できるわけではないが、逆に言えば、オープンソースの無料化は気合いではなく制度や資金の組み替えで初めて成立する。そう考えると、Conversationsの無料化は単なる「親切な解放」ではない。配布権力に対して、開発者が交渉力を取り戻した話だ。

大きなストアに乗ることの安心と不安は、もう切り離せない

Google Playのような巨大ストアは、発見されやすさ、決済、更新通知といった面でたしかに便利だ。でも、この件を読むと、その便利さは「審査側の都合で止められる権利」とセットなのだと分かる。特にセキュリティに関わるアプリでは、審査の遅れがそのままユーザーのリスクになる。大きなプラットフォームは安全の保証装置でもある一方、配信停止のリスクも巨大化させる。そこを引き受ける価値があるかは、アプリの性質と収益構造次第だ。

Conversationsのように、特定のユーザー層が自分で配布元を選べるアプリなら、F-Droidへの寄せ方はかなり筋がいい。一方で、一般向けアプリが同じことをやるのは簡単ではないだろう。だからこの話を「Googleを見限ればいい」で終えるのは雑だと思う。むしろ、どこまでをプラットフォームに預け、どこからを自前で持つかを、開発者はもっとシビアに考えなければならない。Conversationsの作者は、その線引きをかなり痛い形で学んだのだと思う。


参考: Breaking Up with Google Play: Why Conversations Is Now Free

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