Gizmodoの記事が伝えているのは、OpenAIがアメリカのAI規制をめぐって、かなりしたたかな戦略を進めているという話だ。
その名も 「reverse federalism(逆転の連邦制)」。言い方はなんだか難しいが、やっていることは意外とシンプルで、州ごとに似た法律を通していき、結果として全国共通ルールみたいな状態を作る、というものだ。
普通、アメリカでは「連邦政府が大枠を決めて、州が細かく補う」という流れを想像しやすい。
でも今回はその逆。連邦政府がほぼ動かないので、州の法律を積み上げていく。OpenAIはその流れを利用して、AI企業にとって都合のよいルールを先回りして形にしようとしているわけだ。
これ、かなり面白い。というのも、企業が「規制を嫌がる」のはよくある話だけど、OpenAIは単に規制を避けるのではなく、自分たちが影響力を持てる場所で、自分たちに不利すぎない規制を作ろうとしている。かなり政治的で、しかも現実的だと思う。

記事によると、トランプ政権はAI規制にかなり消極的だ。
本来なら、フロンティアAI企業(最先端の巨大AIモデルを作る企業)が公開前に安全性チェックを受けるような、任意の枠組みを作るはずだった大統領令も、土壇場でキャンセルされたという。
理由については、テック業界の幹部がワシントンD.C.に写真撮影のためにすぐ来られなかったから、という報道もあるし、トランプ自身は「気に入らない点があった」と説明している。さらに、中国とのAI競争を邪魔したくない、という理屈も出ている。
ただ、記事の雰囲気としては、もっと大きな流れとして
「政府がAIをちゃんと規制する気があまりない」
ことが問題だと見ている。

そして、連邦政府が動かないならどうなるか。
その空白を埋めるのは州だし、もっと言えば、その空白を利用して企業が自分たちのルールを作りにいく、という展開になる。ここがかなり重要だ。
OpenAIのChief Global Affairs Officerである Chris Lehane は、この戦略を「reverse federalism」と呼んでいる。
要するに、複数の州で似たAI安全法を通し、実質的に全国ルールに近いものを作るという発想だ。
すでにOpenAIは、

で似た方向のAI安全法を後押ししてきた。
さらに次のターゲットが イリノイ州。
OpenAIは、フロンティアAIラボに監査(audit)を義務づけるAI安全法を支持しているという。監査というのは、ざっくり言うと第三者が中身を点検して、安全性や問題点を確認することだ。

ここで面白いのは、OpenAIが支持している法案が、カリフォルニアやニューヨークで成立した法律とかなり似ている点だ。
つまりOpenAIは、自分たちにとって受け入れ可能な基準を、複数の大州で揃えにいっているとも言える。
個人的には、これは「規制に従う」姿勢というより、規制の設計図を握りにいく動きに見える。
もちろん、企業がルール作りに参加すること自体は悪ではない。ただ、あまりに主導権が企業側に寄ると、公共の安全よりも業界の都合が強くなりやすい。そこはかなり気になるところだ。
イリノイ州の件でOpenAIには大きな壁がある。
それが Anthropic だ。

Anthropicもまた、イリノイ州の政策形成に裏で関わっていて、別の競合する法案を支持していると報じられている。
つまりこれは、単なる「AI規制賛成 vs 反対」の話ではなく、どのAI企業の考え方を州法に埋め込むかという、かなり露骨な主導権争いでもある。
この構図は、ちょっと生々しい。
「安全性を確保するための法律」というより、**“どの安全性基準なら自社が生き残りやすいか”の綱引き**にも見えるからだ。もちろん、本当に安全性を高めたいという意図はあるのだろうが、企業である以上、理想だけでは動かない。ここはどうしても疑って見てしまう。
記事では、AI企業が規制や世論形成に投じるお金の大きさにも触れている。
CalMattersの推計では、テック企業全体がカリフォルニア州だけで昨年約 4000万ドル をロビー活動に使ったという。さらに今年は、AI寄りのスーパーPACに何百万ドルも流れ込んでいる。

ここでのポイントは、AI企業が単に研究開発に金を使っているわけではない、ということだ。
法律や世論を動かすためにも、かなりの金が使われている。
率直に言って、これは「未来の技術をめぐる争い」というより、もう完全に政治の勝負だと思う。
そして政治の世界では、声が大きい者、金を出せる者、情報を持つ者が強い。AI企業はその全部を持っている。だからこそ、ルールメイクでも優位に立ちやすい。
このニュースの本質は、OpenAIが何か特別な法律を一つ通そうとしている、という話ではない。
もっと大きく言えば、「連邦政府が弱いなら、州を使って規制の地図を塗り替える」という戦略が見えてきたことだ。

それは一見すると、無秩序な空白を埋めるまともな動きにも見える。
でも裏を返せば、企業が“自分たちのルール”を制度に変えていくプロセスでもある。
この手の動きは、AI分野では今後ますます増えるはずだと思う。
AIは速く進化する一方で、法律は遅い。だから企業は、法律が追いつく前に先手を打ちたがる。今回のOpenAIの動きは、その典型例ではないか。
OpenAIは、連邦政府のAI規制が進まない状況を利用して、州ごとの法制度を積み上げる「reverse federalism」戦略を進めている。
カリフォルニア、ニューヨークに続き、イリノイ州でも似たルールを後押ししようとしているが、Anthropicとの主導権争いもあり、単純には進みそうにない。

この話が示しているのは、AI規制はもう「技術の問題」だけではなく、政治・ロビー活動・企業戦略が全部入りの総力戦になっているということだ。
個人的には、ここがいちばん面白く、そしてちょっと怖いところだと思う。
参考: OpenAI Wants to Rewrite Its Washington Playbook With 'Reverse Federalism' Strategy