AIでイベントのポスターを作ると、どうしても似たような見た目に寄ってしまう。そんな不満に対して、英国のブログ『ERE I AM - JH!』が「別にAIのポスターは全部ひどくなくてもいい」と実例つきで試してみせた。見た目が安っぽい、あるいはどれも同じに見える、という違和感はかなり多くの人が共有しているはずだ。この記事は、その違和感を「生成AIそのものの欠点」ではなく、「頼み方と選び方の問題」として捉え直している。
筆者はまず、Facebookで話題になった「AIが量産した、そっくりな村祭りポスター」の画像群を引き合いに出す。Independent の記事も紹介しつつ、問題は出来が悪いことだけではないと言う。よくできていても、同じような“craft fayre”風のテンプレートが何度も流れてくると、それ自体がうんざりの原因になる。そこで筆者は、ChatGPTならもっと幅広い見た目を出せるはずだと考え、架空の春のフェアの情報を入れてポスター作成を頼んだ。
最初に与えた条件は、21 April、11am to 3pm、Mill Beach Park, Honeyford、Free entry、Tombola、Cakes and drinks、Performance by a samba band and a dhol band、Craft stalls、Circus Skills workshop というイベント情報だ。さらに「clean, unfussy, bright layout」「bold striking spring-themed graphic」にして、pastel、airbrush、oil style の絵や人物画像は避けてほしいと指定した。ところが返ってきたのは、筆者いわく「default craft-fayre template」で、狙って避けたかった雰囲気からあまり離れていなかった。
そこで筆者は、今の案を「what not to do」として扱い、まったく違うデザイン美学で作り直すように求める。ここから ChatGPT は一気に変わり、Bauhaus / geometric modernist のような、幾何学的でモダンなポスターを出してきた。筆者はこれをかなり良いと感じ、次にそのスタイル名を聞く。ChatGPT は modernist / Bauhaus-influenced graphic style と説明し、Bauhaus / Modernist Poster Design、Geometric Minimalism、Swiss Style influence といったラベルを挙げたうえで、さらに「Bauhaus-inspired geometric minimalist poster」と呼べると整理した。加えて、こうした方向は village poster にありがちな bunting、hand-drawn florals、pastel palettes から外れられる、とも述べた。
筆者はその後、スタイルの候補を一覧で出させる。ChatGPT は、Bauhaus、Swiss Style、Contemporary Editorial、Risograph Print Style、Cut Paper / Collage、Botanical Scientific Illustration、Brutalist Graphic Design、90s Rave Flyer / Acid Graphics、Memphis Design、Japanese Minimal Poster、Monochrome + Single Accent、Wayfinding / Signage Style、Modern Icon System、Stamp / Letterpress Style、Festival Poster など、かなり幅広い選択肢を提示した。筆者はこの時点で、AIが想像以上に多様な見た目を扱えることを確認したかったようだ。
そこから実際にいくつか試していく。Stamp / Letterpress Style、Japanese Minimal Poster、Memphis Design を順に出させ、さらに Designers Republic 風、子どもの絵にプロのタイポグラフィを足した感じ、1980年代のパンク・ファンジン風、90年代のドラムンベース・フライヤー風、20世紀40年代のキュビズム展ポスター風と、かなり遊びを入れた依頼も挟む。途中で、Designers Republic 風のポスターに「A day of music making and family fun」のような追加文言が勝手に混ざったことにも触れている。筆者は、そういう言葉がチャットの文脈に残って次の生成物にも引き継がれるので、本当は最初から狙いのスタイルをまとめて伝えたほうがいい、と補足する。
最後に筆者は、要するに「AI生成ポスターはAIっぽさを完全に消せなくてもいいが、みんなが見飽きた見た目にする必要はない」と締める。さらに一歩進めて、Claude や Gemini なら HTML、PNG、PDF を出せるので、文字が本物のテキストとして扱え、レイヤーも編集でき、フォントや配置もあとから直せると付け加える。ただしそれは今回は深掘りしない。そしてこの試みがきっかけで、100種類のポスタースタイルを集めたカタログを作った、とも書いている。
この記事で面白いのは、筆者が「AI生成だと分からないようにする」方向に進んでいないことだ。むしろ、AIであることは前提に置きつつ、問題は“AIかどうか”ではなく“どのテンプレートに落ちるか”だと見ている。ここは実務的だと思う。多くの現場では、完全な手作り感を目指すより、まず使える見た目を短時間で出したい。そこで「AIっぽさをゼロにする」より、「どこかで見た村祭りテンプレートを避ける」ほうが、はるかに現実的だ。
この視点は、生成AIの評価軸を少しずらす。いまの議論は、しばしば「本物のデザイナーの代わりになるか」「著作権的に大丈夫か」に寄りがちだが、実際の利用者はもっと地味で、もっと切実だ。自治体のイベント、地域のフェス、学校や団体の告知では、伝わることが第一で、しかも毎回ちょっとずつ違う見た目がほしい。筆者が言っているのは、AIはその“ちょっと違う”を作る道具にはなる、ということだと思う。しかも、その違いは高度な芸術性ではなく、見飽きたものからの脱出で十分なのだ。
個人的には、この記事の本当の発見は、ChatGPTがポスターそのものを作ったことより、スタイル名を引き出せた点にある。Bauhaus、Swiss Style、Risograph、Memphis、Letterpress、Japanese Minimal、Wayfinding。こうした名前を知っている人には当たり前でも、知らない人には検索語にもなるし、再依頼の足場にもなる。つまりAIは、画像生成機であると同時に、デザインの言語を貸してくれる辞書にもなっている。
これはありがたい半面、少し危うくもある。名前が付くと、人は安心してしまうからだ。実際には「Bauhausっぽい」と言っても幅は広いし、筆者が出した画像のどれも、厳密な意味での歴史的な Bauhaus そのものではない。そこを曖昧にしたまま使うと、ラベルだけが先行して中身はテンプレ化する。だから筆者が途中で「今の案は what not to do」と言い直したのは重要だったと思う。スタイル名は便利だが、呼び名を覚えるだけでは足りない。何を避けたいかまで一緒に持たないと、また似たものに戻る。
記事の後半で触れられる、Claude や Gemini が HTML、PNG、PDF を生成できるという話も見逃せない。ここで筆者が言いたいのは、画像として固定されたポスターより、編集可能な構造を持つ出力のほうが実務では強い、ということだろう。生成AIの画像は、見た目はそれっぽくても、細かい修正をしようとするとすぐ詰まる。日付を直したい、会場名を一段上にずらしたい、文言を少し短くしたい、そんな作業が面倒だと結局は使われなくなる。
だから本当の争点は「AIが絵を描けるか」より、「デザインの制作物として手を入れられるか」だと思う。筆者が最後に100種類のポスタースタイルのカタログを作ったのも、単なるお遊びではなく、再利用しやすい設計に近い。現場で使う人は、毎回ゼロから美術史を思い出したいわけではない。必要なのは、すぐ試せる型と、その型から外れるための引き出しだ。この記事は、その両方をAIで作れることを示している。
この記事を読んでいて強く感じたのは、生成AIの問題は精度より先に“量産感”として現れる、ということだ。たとえ破綻が少なくても、同じ構図、同じ色味、同じ空気のポスターが何枚も出てくると、人は一瞬で飽きる。逆に言えば、少し粗くても、明確に違う方向へ振れたもののほうが記憶に残る。筆者が「not ugly」と言っているのは、その違いをよく見ているからだと思う。
この話はポスターに限らない。プレゼン資料、SNSの告知画像、商品紹介、採用バナー、地域イベントの案内。AIが入りやすい領域ほど、最初は便利でも、すぐに“みんな同じ”になる危険がある。そこで必要なのは、性能向上のニュースを追うこと以上に、使う側がどれだけスタイルの言葉を持てるかだ。この記事が面白いのは、そこを実験として見せた点にある。AIは万能ではないが、使い方次第で「いつもの感じ」からはちゃんと外せる。その事実は、かなり実用的だと思う。