Anthropicが始めた Project Glasswing は、ひとことで言うと
「AIを使って、世界の重要ソフトウェアを先回りで守るプロジェクト」 です。
ここでいう「重要ソフトウェア」とは、インターネットの基盤になっているものや、銀行・クラウド・企業システムなど、止まると社会への影響が大きいソフトのことです。
こういうソフトに穴があると、攻撃者に悪用されかねません。
Anthropicは今回、Claude Mythos Preview というモデルを使って、かなり強力な脆弱性発見を進めていると報告しました。
記事によると、Project Glasswing の約50のパートナー企業とAnthropicは、1か月で 10,000件以上の high- or critical-severity vulnerabilities を見つけたそうです。
この数字、かなりインパクトがあります。
正直、「見つける力」がここまで上がると、セキュリティの話は“職人技”だけでは追いつかない段階に入ったんだな、と感じます。
しかもAnthropicが強調しているのは、今の問題は「脆弱性が見つからないこと」ではなく、見つかったものをどうさばくか になっている点です。
これは面白いというより、むしろ少し怖い。
見つける速度が上がりすぎると、人間の確認・修正速度が追いつかなくなるからです。
Anthropicは、外部テスターやパートナーの結果も紹介しています。
たとえば:
ここで大事なのは、AIがただ「コードを読む」のがうまいだけではなく、
多段階の攻撃シナリオを組み立てたり、実際に悪用につながる流れを考えたりできる ということです。
これは防御側にとってはありがたい一方、攻撃側に同じ能力が渡ると当然かなり危ない。
なのでAnthropicが「慎重に扱う」と強調しているのも、まあ当然だと思います。
Anthropicはここ数か月で、1,000件以上の open-source project をスキャンしたとしています。
open-source は、誰でも中身を見られる公開ソフトウェアのことです。世界中のWebサービスやアプリの土台によく使われています。
その結果:
さらにAnthropicは、確認後の数字ベースでは、今の時点で 約3,900件の high / critical 脆弱性 をopen-sourceコードから掘り当てる見込みだとしています。
しかもこれは、Project Glasswing のパートナー向けで見つけた分とは別です。

率直に言うと、この規模感はかなり異常です。
もちろん「脆弱性が多い=世界が危険」ということでもあるのですが、それ以上に
“AIが脆弱性発見の供給量を一気に増やしてしまった”
という事実が重いです。
記事では、open-source の暗号ライブラリ wolfSSL の例も紹介されています。
wolfSSL は、セキュリティ重視で知られ、何十億ものデバイスで使われているライブラリです。
Anthropicによると、Mythos Preview はここで、証明書を偽造できる exploit を構築したとのこと。
証明書って何かというと、Webサイトが本物かどうかを証明するための身分証のようなものです。
これが偽造できると、たとえば 銀行やメールサービスの偽サイト を本物そっくりに見せられてしまう可能性があります。
普通の利用者から見たら、かなり見抜きにくいです。
この記事では、この脆弱性はすでにパッチ済みで、今後 CVE-2026-5194 として詳細分析を公開するとしています。
こういう例を見ると、「脆弱性」という言葉の軽さに反して、実態はかなり社会インフラ寄りなんだと改めてわかります。
ただのバグではなく、信頼そのものを壊す穴 になりうるわけです。
ここがこの記事の核心です。
Anthropicは繰り返し、
発見はAIで加速したが、修正は人間の作業なので追いつかない
と述べています。
脆弱性対応の流れはだいたいこうです。
この中で、AIが強いのは主に1と一部2です。
でも3〜6は、まだまだ人間の組織力と運用力が必要です。
Anthropicは、maintainer(保守担当者)たちが
と説明しています。
これ、かなりリアルな話です。
技術の進歩って、たいてい「できること」だけ派手に伸びて、「受け止める側」の負荷は後回しになりがちなんですよね。
今回もまさにその構図だと思います。
脆弱性の世界には、Coordinated Vulnerability Disclosure という考え方があります。
簡単に言うと、
見つけたらすぐ全部公開するのではなく、修正の猶予を与えてから公表する
というやり方です。
Anthropicもこの方針を採っていて、通常は

なぜかというと、先に全部公開すると攻撃者に悪用されるからです。
一方で、秘密にしすぎても利用者が危険なままなので、そのバランスが難しい。
今回Anthropicが細部をまだ全部は出さないのも、この現実的な制約のせいです。
これは地味だけど重要で、「AIで見つけた」ことと「安全に共有できる」ことは別問題 なんですよね。
Anthropicの見立てははっきりしています。
Mythos-class models のような高性能モデルは、今後もっと広く使われる。
すると、ソフトウェア業界全体で「脆弱性の量産」にどう対処するかが問題になる、というわけです。
記事では、開発者や防御側に対して、基本だけど重要な対策を挙げています。
ここで私が強く同意するのは、**“すごいAI”に期待する前に、まず運用の基本を固めるべき** という点です。
結局のところ、守る側が弱いままだと、どんなに検出精度が上がってもリスクは残ります。
今回の発表でいちばん印象的だったのは、
「脆弱性を見つける能力が、もはや人間の対応能力を上回り始めている」
という事実です。
これはAIセキュリティの進歩を示す明るいニュースである一方、
サイバー防御の現場には、かなり現実的で苦しい宿題を突きつけています。
私はこれを、単なる「AIがすごい」で終わらせるべきではないと思います。
むしろ本質は、
セキュリティのボトルネックが“探索”から“運用”へ移った
ことではないか、という点です。
AIは穴を見つける。
でも穴を塞ぐのは、人間、組織、手順、そして時間です。
この非対称性が、これからしばらくは大きな課題になるはずです。
Project Glasswing は、AIがサイバーセキュリティをどう変えるかを示す、かなり象徴的な事例です。
個人的には、これは未来の話というより、もう始まってしまっている変化 だと思います。
「AIで脆弱性を探す」は珍しい実験ではなく、これからの標準的な防御手段になっていくのではないでしょうか。