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Excelの文字が勝手に変わる本当の理由 ―― テーマフォントとAptos騒動

「昨日まで普通だったのに、開いたら文字の形も行の高さも違う」。Excelでこれをやられると地味に腹が立つ。ネット上の解説は「値のみ貼り付けを使え」「条件付き書式を消せ」で止まっているものが多いが、それは症状の一部でしかない。原因の大半は、もっと下のレイヤーにある。フォント名がセルに直接書かれていないこと ―― つまりテーマフォントという仕組みだ。

セルには「游ゴシック」ではなく「本文のフォント」と書いてある

Excelのフォント一覧を開くと、いちばん上に「テーマのフォント」という区切りがあって、游ゴシック(本文) 游ゴシック Light(見出し) の2つが並んでいる。既定の状態では、あなたが打ち込んだセルはこの「本文のフォント」を参照している。具体的な書体名(游ゴシック)を持っているのではなく、「このブックのテーマが本文用に指定している書体、それが何であれ」というポインタを持っているだけだ。

だから、テーマが変わればセルの見た目も一斉に変わる。ページレイアウトタブの「テーマ」や「フォント」を切り替える、別のテーマが設定されたブックにシートをコピーする、あるいはテーマ設定の異なる環境でファイルを開く ―― どれをやっても、一文字も自分で触っていないのに書体が入れ替わる。犯人を探して条件付き書式を睨んでも見つからないのは、そもそも書式が「変わって」いないからだ。参照先が差し替わっただけなので。

見分け方は単純で、変わってしまったセルを選んでフォント名を見ればいい。游ゴシック(本文)のように括弧つきで表示されていればテーマフォント参照、括弧なしの游ゴシックなら固定指定だ。この違いを知っているかどうかで、この問題の8割は説明がつく。

2024年、既定フォントが黙って入れ替わった

タイミングとしても厄介な時期にあたる。マイクロソフトは2023年に新しい既定フォント Aptos​(開発中の名は Bierstadt)を発表し、Calibriを置き換えた。Insider向けを経て、数億人規模のMicrosoft 365ユーザーへの本格ロールアウトが進んだのが2023年末から2024年前半。Word・PowerPoint・Outlookと足並みを揃えて、Excelの新規ブックの既定テーマフォントもここで切り替わっている。

これが何を生んだか。Calibri(英数)や、日本語環境なら游ゴシックを前提に組まれた既存ファイルと、Aptos既定の新規ブックが、同じ社内・同じ共有フォルダで混在するようになった。片方でコピーしてもう片方に貼る、テンプレを新環境で開き直す。そのたびにテーマフォントの解決結果がずれる。「最近やたらフォントが暴れる」と感じている人がいたら、たぶん個人の操作ミスではなく、この地殻変動の余波を踏んでいる。

ちなみにAptosに我慢できない人向けに、Calibriはフォントメニューの先頭にピン留めされている(まずはWeb版から)。戻したいなら既定テーマフォントごと変えるのが筋で、これは後述する。

「開いたら行がやたら間延びした」は游ゴシックの置換

書体だけでなく行の高さまで動くケースには、別のよく知られた元凶がある。游ゴシックだ。

游ゴシックはMS Pゴシックより広い行間を要求する設計なので、Excel 2016以降で既定になったとき、行の高さの初期値も一緒に大きくなった。問題は、游ゴシックが入っていない環境でそのファイルを開いたときに起きる。書体がMS Pゴシックに自動で置換(フォント代替)​され、それに合わせて行の高さが再計算される。送った側では整然としていた表が、受け取った側では詰まったり間延びしたりする。文字化けの行間版だと思えばいい。

手元の一台で完結している間は表面化せず、ファイルを人に渡した瞬間に牙をむくのがタチの悪いところで、原因を「相手のExcelがおかしい」と誤診しがちだ。実際は、こちらのブックが端末に存在するとは限らない書体に依存しているだけ。

直し方は「参照を切る」か「固定してしまう」か

対処は、その場しのぎと恒久対策で分けて考えるとすっきりする。

いま暴れているブックを鎮めたいなら、シート全体(左上の全選択ボタン)を選んで、フォント一覧のテーマの区切りより下にある実体としての書体 ―― 括弧のつかないMS PゴシックなりMeiryoなりを選び直す。これでセルはテーマ参照をやめ、書体名を直に持つようになる。以後テーマが動いても釣られない。共有前提のファイルなら、環境依存の游ゴシックを避けてMS PゴシックやMeiryoに寄せておくと、置換事故もほぼ止まる。

新規ブックが毎回勝手な書体で始まるのが我慢ならないなら、ファイル → オプション → 全般の「新しいブックの作成時」で既定フォントとサイズを固定する。ここを押さえると、Aptosだろうが游ゴシックだろうが、自分の決めた書体で白紙が立ち上がる(反映にはExcelの再起動が要ることがある)。よく使う書式のブックは.xltxテンプレートにして、テーマごと保存しておくと再現性が上がる。

貼り付け由来の混入 ―― Webや別ブックからコピーした瞬間に相手の書式まで流れ込むやつ ―― は、貼り付けのオプションで「値のみ」または「書式を結合しない」を選ぶ。旧来の定番対策だが、これは数ある入口の一つにすぎない、という位置づけで捉えておくのが正しい。

おまけ:「変わって見えるだけ」の偽陽性

最後に、そもそも変わっていないパターンも押さえておきたい。高DPIディスプレイやOS側の表示スケーリング(125%・150%など)、Excelの表示倍率をいじった状態では、実際のフォントサイズは1ptも動いていないのにレンダリングだけ変わって見える。この場合いくら書式を追いかけても徒労で、疑うべきは表示設定のほうだ。フォントサイズと表示倍率は別物、というだけの話だが、混同したまま原因究明に半日溶かす人は珍しくない。

蓄積した経験則を一つ挙げるなら ―― フォントが「勝手に」変わったと感じたら、まずそのセルが固定書体を持っているのかテーマ参照なのかを確認する。ほとんどの謎はその一手で解ける。


参考: Microsoft Design — 新既定フォントAptosの発表 / Excelから游ゴシック体を徹底的に駆逐する(えくせるちゅんちゅん)

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