Gizmodoの記事は、AMDがNvidiaのAI向けPC戦略に対して、かなり露骨に競争を仕掛けていると伝えています。
しかも面白いのは、「NvidiaのCPUが出る前に、もう勝負をかける」という構図です。まだ本格登場前の相手に先手を打つあたり、かなり攻めた動きだと思います。
今回の主役は、AMDの新しい Ryzen AI Max+ Pro 495。
名前からして長いですが、要するに「AMDの中でもかなり強い、AI時代向けの上位チップ」です。

このチップの目玉は、Zen 5 CPU を採用していること。
Zen 5はAMDの新しいCPU設計で、ざっくり言うと「頭脳部分の世代が新しい」という意味です。
スペックは以下の通りです。
コアは「同時に仕事をこなす作業員の数」、スレッドは「その作業員がさらに細かく分業できる仕組み」くらいに考えるとわかりやすいです。
このクラスだと、普通のノートPCというより、かなり本気のモバイル向け高性能機に近い印象です。

一方で、少し気になるのがGPUです。
GPUは画像処理やAI計算で使う部分で、今回のRyzen AI Max+ Pro 495は RDNA 3.5 のまま。これはAMDの古い世代のGPU設計です。
搭載されるのは Radeon 8065S で、40 compute units を持ちます。
compute unitsは、GPUの中の演算グループだと思えばOKです。数字が大きいほど、並列計算に強くなりやすいです。
ただ、AMDの最新GPU設計である RDNA 4 ではないので、この記事でも「性能が大きく跳ねるとは言いにくい」と見られています。
ここはちょっと“惜しい”ところです。CPUはかなり新しいのに、GPUはひとつ前の世代感が残る。こういう中途半端さ、好きな人には面白いけど、尖った進化を期待していた人には少し物足りないかもしれません。

このチップは、最大160GBのVRAM を使えるとされています。
ただしここでいうVRAMは、単なるグラフィック用メモリというより、CPUとGPUで共有する巨大なメモリ領域として考えたほうが近いです。
AMDはこれを使って、3000億パラメータのAIモデルを単独で動かせる初のx86プロセッサだとアピールしています。
ここで出てくる「パラメータ」は、AIモデルの“学習済みの知識の細かさ”のようなもの。
数が多いほど高性能になりやすいですが、当然メモリも大量に必要です。
3000億はかなり大きく、AMDが「AI向けの本気機」として見せたいのが伝わってきます。

AMDは同じAPUの別モデルも用意しています。
下位モデルはGPUも少し弱く、32 compute units になります。
つまり、最上位だけが“全部盛り”で、他は少し抑えた構成です。こういうラインナップは、メーカーがいろんな製品に載せやすくするための定番ですね。

記事が触れている重要ポイントがここです。
AMDの前世代 Strix Halo が人気だったのは、AI性能だけではなく、グラフィックス性能が意外と良かったから なんです。
これ、かなり大事です。
AIブームの文脈で語られがちですが、実際には「小型PCなのにゲームもそこそこいける」「クリエイティブ用途にも使える」という万能感が支持されたわけです。
AMDは今年、その流れを受けて ゲーム向けやクリエイター向け に少し性能を落としたStrix Halo系チップも展開していました。
ところが、AI需要でメモリ不足が起き、そうしたチップを載せるはずだった携帯ゲーム機などがキャンセルされた、という話も出ています。
これはかなり皮肉です。
AI向けの部品争奪戦が、ゲーム機や個人向けPCの選択肢を減らしてしまう。
「AIが未来を広げる」という話の裏で、普通の楽しい製品が減るのは、ちょっと残念だなと思います。

AMDは同時に、Ryzen AI Halo という小型の「AI developer platform」も発表しました。
名前は大げさですが、要は AI開発向けの超小型PC です。
搭載されるのは、最新のGorgon Haloではなく、前世代の Ryzen AI Max+ 395。
本体サイズは 6×6インチ とかなり小さく、しかも以下に対応します。

この「Windowsでも動く」というのが、地味だけどかなり重要です。
Nvidiaの DGX Spark はARMベースでLinux中心ですが、AMDの機械はx86でWindowsも使える。
つまり、AI専用マシンであると同時に、普通のミニPCっぽくも扱えるわけです。
ここはAMDの強みだと思います。
AI専用機って、どうしても「研究室の機械」「開発者向けの特殊な箱」になりがちですが、Windows対応だと一気に日常機に近づきます。
“買ってすぐ触れる感じ”があるのは、かなり大きいです。
気になる価格ですが、AMDの Ryzen AI Halo は 4,000ドル。
Nvidiaの DGX Spark も 4,000ドル です。

つまり、どちらも「気軽に買うミニPC」ではなく、完全に本気の開発者向けハイエンド機。
この価格帯になると、性能だけでなく、対応OS、使い勝手、ソフトの相性まで全部が勝負になります。
AMDはここで、NvidiaのAIブランド力に対して「同価格で、x86とWindowsの自由度もあるよ」とアピールしているように見えます。
戦い方としてはかなり賢いです。
もちろん、NvidiaがAI分野で圧倒的に強いのは変わりません。
AMDはそこに食い込もうとしている段階で、今回の発表も「追いつくための一手」という性格が強いです。

ただ、AMDが面白いのは、単にAI性能を競うだけでなく、**“AIもできる普通のPC”** に寄せていることです。
この方向性は、もしAI開発がもっと一般化したときに効いてくるのではないかと思います。
AI専用機だけだと、どうしても用途が限られます。
でも、Windowsで普通に使えて、ミニPCとしても活躍して、ついでにAI開発もできる。
こういう製品のほうが、企業以外の開発者やクリエイターには刺さりやすいはずです。
今回の記事で見えてくるのは、AMDが NvidiaのAI向けハード戦略に対抗しつつ、自分たちの得意なPC的な使いやすさも前面に出している ということです。

個人的には、AMDのこの路線はかなりおもしろいと思います。
「AI専用機です、どうぞ」ではなく、「AIもできるけど、ちゃんとPCとしても使えるよ」というスタイルは、実はかなり現実的です。
AIブームが一段落したあとに残るのは、こういう“道具として優秀な機械”なのではないでしょうか。
参考: AMD’s Next Big Chip Hopes to Beat Nvidia’s CPUs While They’re in the Crib