PaPoo
cover
technews
Author
technews
世界の技術ニュースをリアルタイムでキャッチし、日本語でわかりやすく発信。AI・半導体・スタートアップから規制動向まで、グローバルテックシーンの「今」をお届けします。

AIで仕事はどう変わる? ADP主任エコノミストが語る「ホワイトカラーの終わり」と「知識労働の拡散」

キーポイント

この記事で何が語られているのか

Fortuneの記事は、ADPのチーフエコノミストである Nela Richardson の考えを軸に、​AIが白領労働(ホワイトカラーの仕事)をどう変えるか を解説しています。

ここで面白いのは、彼女が「AIは仕事を奪うか?」というよくある議論を、少し違う角度から見ていることです。
普通は「営業職がなくなる」「事務職が減る」といった職種ベースで語られがちですが、Richardsonは 職種ではなく“タスク”の単位 で仕事を見ています。

image_0001.jpg

これ、かなり重要です。
なぜなら、実際の仕事って「営業」「経理」「編集」とラベルを貼って終わりではなく、その中にメール確認、資料作成、日程調整、分析、判断、交渉など、バラバラの作業が混ざっているからです。AIは、その一部だけを置き換えたり、別の職種と共通化したりする。つまり、仕事は「消える」のではなく「分解される」わけです。

個人的には、この視点はかなりしっくりきます。
「仕事がなくなる」と言うより、「仕事の中身が再編される」と考えたほうが、現実に近いと思います。

image_0002.jpg

Richardsonの3つの見立て

1. ホワイトカラー仕事は消えていく

Richardsonは、​白領労働の黄金時代は終わりつつある と見ています。

image_0003.jpg

ここで大事なのは、彼女が「主因はAIだ」と単純化していない点です。
むしろ、​そもそもホワイトカラー仕事を大量に生み出した歴史的な条件が終わった と言っています。

たとえば、20世紀後半から21世紀初頭にかけては、パソコン、スプレッドシート、インターネットが登場し、オフィスでできる仕事が一気に増えました。
それが、法律、会計、分析、編集、管理職などの仕事を押し上げた。つまり、ホワイトカラーの拡大は「永遠の自然法則」ではなく、​特定の技術が作り出した一時代の現象 だった、という見方です。

image_0004.jpg

Fortune記事では、ADPのデータをもとに、米国の「professional and business services」という分野が2000年の14.9%から2022年に17.6%まで伸びた後、縮小に転じていることも紹介しています。
さらに中身を見ると、​事務・サポート系の役割は減り、より高度な技術・科学系の役割が増えている。つまり、業界全体が「下から空洞化」していた、というわけです。

これはかなり怖い話でもあります。
なぜなら、多くの人は「自分の仕事は安定している」と思いがちですが、実際には、仕事の中で一番置き換えやすい部分から静かに削られている可能性があるからです。

image_0005.jpg

2. 知識労働は減るのではなく、広がる

次の見立ては少し意外です。
AIが進むと仕事が減る、と思いがちですが、Richardsonは 知識労働はむしろあちこちに広がる と言います。

ここでいう知識労働は、ざっくり言えば ​「頭を使う仕事」​ です。
ただし、彼女の定義ではもっと重要なのが autonomy(裁量)​ です。
つまり、上司から「何をするか」は言われても、「どうやるか」は自分で考える仕事。これが知識労働の本質だ、という考えです。

image_0007.jpg

AIがルーティン作業を引き受けると、残るのは判断、創造性、例外処理、調整のような、人間の裁量が必要な部分です。
すると、もともと知識労働ではなかった仕事も、だんだん知識労働っぽくなっていく。

たとえば、これまでの事務作業の一部がAIに置き換わると、残るのは「何を優先するか」「どの例外を処理するか」「どう人と調整するか」になります。
そうなると、現場の人も単なるオペレーターではなく、かなり判断を求められる存在になるわけです。

image_0008.jpg

Richardsonの見方では、AIは仕事を90%奪って10%残すのではなく、​仕事の形を伸ばし、広げ、別のものに変えていく
この発想はかなり前向きですし、個人的にはかなり説得力があると思います。

3. 企業はまだ「変える理由」をちゃんと決めていない

3つ目がいちばん厄介で、いちばん現実的です。
Richardsonによると、​企業はAI導入を急いでいるけれど、「なぜ変えるのか」「何を変えるのか」を十分に整理できていない のだそうです。

image_0009.jpg

パンデミックの時期、企業は急に在宅勤務やオンライン化を進めました。
その経験で「会社は意外と速く変われる」と学んだ。でも同時に、「変化そのものは目的ではない」という当たり前のことを、あまり学べていない。

ここ、すごくリアルです。
AI導入って、なんとなく「みんなやってるから」「競争に負けたくないから」で始まりがちです。
でも、実際には「この業務のどの問題を解くのか」が曖昧だと、現場だけが振り回される。
結果として、ツールは増えたのに生産性も満足度も上がらない、という悲しい展開になりやすいです。

image_0010.jpg

Richardsonは、ADPのデータを活用して、企業と働く人がこの移行をうまく乗り越える手助けをしたいと話しています。
要するに、​仕事を分解して、どの作業がどう変わるのかを見える化したい ということです。

「仕事は職種ではなくタスクで見る」発想が本質

この記事の肝は、たぶんここです。

image_0011.jpg

従来の労働市場の見方は、職種ベースでした。
たとえば「会計士が何人増えた」「事務職が何人減った」という見方です。

でもAI時代には、それでは足りない。
同じ会計士でも、AIで自動化できる作業と、人間の判断が必要な作業が混ざっているからです。
さらに言えば、会計士とマーケティング担当者が、AIによって似たタスクをこなすようになるかもしれない。すると、職種の境界はどんどん曖昧になります。

image_0012.jpg

Richardsonのプロジェクトがやろうとしているのは、

ということです。

image_0013.jpg

これが完成すると、かなり強力な「仕事の地図」になるはずです。
個人的には、こういう地図はAI議論の“温度感”を下げてくれると思います。
「仕事がなくなる!」という大雑把な不安ではなく、「どの作業が減り、どの作業が増えるのか」を見られるからです。

読み終えて感じること

このFortuneの記事は、AIを「怖い未来」として煽るだけでも、「便利な道具」として楽観するだけでもありません。
むしろ、​仕事は職種単位ではなく、もっと細かい作業単位で再編されている という、かなり地に足のついた見方を提示しています。

image_0014.jpg

特に印象的なのは、Richardsonがホワイトカラーの衰退を「AIだけのせい」にしていないことです。
そこが誠実だと思いました。
AIはたしかに強い加速装置ですが、そもそもオフィス中心の働き方が永遠に続く保証なんてなかった。
言われてみれば当たり前なのに、私たちはその「当たり前」を、あまりにも永遠のものみたいに扱っていたのかもしれません。

一方で、この記事の後半が示すように、企業側にはまだ覚悟というか、設計図が足りない。
AIは入れた、でも何を変えたいのかは曖昧。
この状態が一番危ない。
技術そのものより、​目的なき導入 のほうが現場を壊すことは普通にありえます。

image_0015.jpg

結局のところ、AI時代に問われるのは「仕事はなくなるか」ではなく、
“どんな仕事を、人間がどんな形でやるのか”を決め直せるか なのだと思います。


参考: Nela Richardson has a rare window into how AI is changing work. Her 3 takeaways should make you excited—or very frightened | Fortune

同じ著者の記事