PaPoo
cover
technews
Author
technews
世界の技術ニュースをリアルタイムでキャッチし、日本語でわかりやすく発信。AI・半導体・スタートアップから規制動向まで、グローバルテックシーンの「今」をお届けします。

UK政府のAI利用、ついに“見せる義務”が明確に

記事のキーポイント

英国で、政府がAIをどう使っているのかが、もっと見えやすくなりそうです。
今回のポイントはかなりシンプルで、​政府職員が仕事でAIを使って作った文章や画像、さらにそのAIに投げた指示文(prompt)も、情報公開請求の対象になりうると、英国の情報保護規制当局ICOが新しいガイダンスで確認した、という話です。

これ、地味に見えてかなり大きいです。
というのも、AIは「便利な道具」である一方で、​何を入力して、何が出てきたのかが見えにくい。しかも政府相手だと、「その判断、本当に人間が責任を持ってやったの?」という疑問がつきまといます。だからこそ、透明性のルールがはっきりするのは重要だと思います。

image_0001.jpg

何が起きたのか

今回のニュースの舞台は英国です。
英国には、​Freedom of Information Act(FOIA)​、つまり「情報公開法」があります。これは、政府や公共機関が持っている記録について、市民や報道機関が開示を求められる仕組みです。

image_0002.jpg

ICOが出した新しいガイダンスでは、ざっくり言うと次のように整理されています。

ここでいう「prompt」は、AIに対する指示文のことです。
たとえば「この会議メモを3行で要約して」とか「この政策案をわかりやすい言葉に直して」といった入力ですね。AIは結果だけでなく、​どういう指示でその結果が出たのかも重要になります。

image_0003.png

個人的には、この点がいちばん面白いです。
AIの“出力”だけではなく“入力”まで公開対象にするのは、かなり実務的で、しかも筋が通っています。もし入力が見えなければ、AIがどんな意図で使われたのか、かなりぼやけてしまいますから。

背景にあったNew Scientistの開示請求

image_0004.jpg

記事によると、New Scientistは昨年、当時の英国のテック相ピーター・カイル氏のChatGPTログを情報公開請求で入手することに成功しました。これは、​世界初だと考えられているそうです。

この成功をきっかけに、ほかの報道機関も似たような請求を出したものの、

などの理由で、うまくいかないケースが多かったようです。

image_0005.jpg

ここでの「vexatious」は、単なる「気に入らない」ではなく、​制度を使って相手を困らせるだけの請求という意味合いです。行政がこれを理由に断ると、公開請求はかなり通しにくくなります。

でも今回、ICOが「AIが関わるから対象外」という逃げ道を閉じた形なので、今後は**“AIだから見せなくていい”とは言いにくくなる**はずです。ここはかなり重要だと思います。

image_0006.jpg

何が変わるのか

ICOのガイダンスにより、今後は次のようなことが起きやすくなります。

1. AIで作った文書の開示請求が通りやすくなる

政府の職員がAIで作成したテキスト、画像、その他のコンテンツは、原則として情報公開の対象になりうると明確になりました。
つまり、「人間が書いたものではないから記録ではない」という言い訳は通りにくくなります。

image_0008.svg

2. promptの開示も求められる可能性がある

これはかなり大きいです。
結果だけではなく、​どんな指示を出したのかが見えると、AIの使い方そのものが検証できます。
たとえば、政策の要約をさせたのか、文章の言い換えをさせたのか、あるいはアイデア出しをさせたのか。用途によって意味が全然違いますからね。

3. コスト理由で断られにくくなるかもしれない

ICOはさらに、​大量の文書やデータセットに対して、AIを使って要約して回答することも求められるかもしれないと示唆しています。
これは実務上かなり面白い発想です。
これまで「調べるのに手間もコストもかかりすぎるので無理です」と断られていた請求でも、AIで下準備をして対応できる可能性が出てきます。

image_0009.svg

ただし、ここは少し注意が必要です。
AIが要約したからといって、その要約が完全に正確とは限りません。なので、​効率化の道具としては有用でも、最終チェックは人間がやるべきだと思います。

反発もある

もちろん、こうした透明化に反対する声もあります。

image_0010.svg

記事では、英国の研究機関ARIAのトップであるマット・クリフォード氏が、ピーター・カイル氏のChatGPT利用ログを公開する判断について「absurd(ばかげている)」「hugely corrosive(非常に有害)」と投稿したと紹介されています。
彼の主張は、こういう公開が進むと大臣がAIを使っていると“言う”だけで避けるようになり、結果として行政のAI活用がしぼむのではないか、という懸念です。

この気持ちもわからなくはないです。
政府の現場では、AIを試したい人はいるはずです。でも、何でもかんでも晒されるとなると、「じゃあ使わないでおこう」となる可能性はある。これは実際、十分ありえます。

image_0011.svg

ただ、個人的には、​透明性があるからこそ信頼できるのであって、見せること自体を怖がるようでは、逆にAI利用の正当性が弱くなるのではないかと思います。
「使ってよい。でも、使い方は説明できること」──この線引きが一番健全ではないでしょうか。

なぜこのニュースが大事なのか

この話は、単なる英国ローカルの制度変更ではありません。
AIが行政に入り込むと、次の問いが必ず出てきます。

image_0012.svg

つまり、​AI時代の行政に必要な“説明責任”のルール作りなんです。

image_0013.svg

しかも政府のAI利用は、民間企業よりもはるかに影響が大きいです。
税金、福祉、移民、教育、医療、安全保障……どれも市民生活に直結します。そういう領域でAIが使われるなら、なおさら「ブラックボックスのまま」はまずい。ここはかなり本質的な話だと思います。

まとめると

今回のICOのガイダンスは、
​「政府がAIを使ったからといって、情報公開の対象外にはならない」​
と明確にしたものです。

image_0014.svg

たったそれだけに見えるかもしれませんが、実はかなり大きな一歩です。
AIの利用がどれだけ増えても、行政は「見せられる形」で使う必要がある。そう釘を刺した、と言っていいでしょう。

個人的には、これは歓迎すべき流れです。
AIは便利ですが、便利さだけで走るとすぐ不透明になります。特に政府は、便利さよりも説明可能性が大事です。
今回のルールは、その原則をちゃんと確認したニュースだと思います。

image_0015.svg


参考: New rules confirm public has a right to see how UK government uses AI

同じ著者の記事