ReutersがTeslaの自動運転システム「Full Self-Driving(FSD)」について調べたところ、かなり厄介な話が出てきました。
要するに、Teslaが「FSDは人間の運転よりかなり安全だ」と見せていた数字の作り方に問題があった、という話です。
しかも面白いのは、外部の批判だけではありません。
TeslaでFSDの学習用データを扱っていた社内のAIトレーナーたち自身が、その技術を信用していないとReutersに話しているんです。これはなかなか強烈です。
「中の人が信じていない製品を、どうやって一般ユーザーに信じさせるのか?」という話になりますからね。
FSDはTeslaが売っている運転支援機能です。
ただし名前に「Full Self-Driving」と入っていても、今すぐ車が完全に自動でどこへでも行けるわけではありません。Tesla自身も現在の機能については、運転者の監視が必要で、自動運転車ではないと注意書きを出しています。
このへん、名前がかなり紛らわしい。
個人的には、ここがTeslaの広報のうまさでもあり、危うさでもあると思います。
「Self-Driving」と聞くと、つい“ほぼ自動運転”を想像してしまいますから。
Reutersが指摘した核心は、Teslaの安全統計が比較の条件をそろえていないことです。
Teslaは、FSD使用中の事故数を示す際に、自社車両でエアバッグが展開した事故を使いました。
一方で、比較対象にした政府データは、レッカー車が必要な事故を含むものでした。
ここが肝心です。
エアバッグが開く事故と、レッカーが必要な事故は、必ずしも同じ重さではありません。
ざっくり言うと、「かなり重めの事故」と「もっと幅広い事故」をごちゃ混ぜに比較していたわけです。
Reutersによると、この比較のせいで、Teslaの安全性は実際より3倍くらいよく見えていたとのこと。
つまり、「10倍安全」と宣伝していたのに、ちゃんとそろえて比べると「だいたい3倍くらい」という話になる。
これ、かなり印象が変わりますよね。
しかも厄介なのは、Teslaには正しい比較をするためのデータもあったのに、あえて別の指標を使っていたことです。
これが単なるミスなのか、意図的に見えをよくしたのかは断定できませんが、少なくともかなり不自然だとは思います。

Reutersが複数の交通安全研究者にTeslaの方法を見せたところ、11人中10人が「誤解を招くマーケティングだ」と判断したそうです。
カーネギーメロン大学のPhil Koopman教授のコメントも辛辣でした。
要するに、「自分のジェット機は第二次世界大戦の爆撃機より速い」と言っているようなものだ、という例えです。
うまいたとえです。比較対象がズレていたら、どれだけ数字が良くても意味が薄い、ということですね。
個人的には、この部分が一番本質的だと思いました。
安全性の議論って、本来は「何と比べるか」でかなり変わるんです。
でもマーケティングは、そこを少しずらすだけで、驚くほど印象操作ができてしまう。怖い話です。
Reutersは、Teslaの元データラベラー9人、自動運転エンジニア1人、交通安全研究者11人に取材しています。
その中で、9人中7人の元データラベラーが「自分ならFSDには乗りたくない」と答えたそうです。
ある人は、ロボタクシーには「金をもらっても乗らない」とまで言ったとか。
かなり本音が出ています。
さらに、長年Teslaのクラッシュデータを見てきた自動運転エンジニアは、Teslaの安全主張を「bullshit」と切り捨て、「Elonを信じるな」とまで言っています。
ここまで内部の人間が冷めていると、さすがに無視しづらいですよね。
ただし、ここは少し補足も必要です。
データラベラーは、当然ながら失敗事例ばかり見る立場です。
なので「全体の平均的な印象」より厳しく感じる可能性はあると思います。
それでも、7人が7人とも信用していないというのは、かなり重いサインではないでしょうか。
元データラベラーたちは、FSDが日常的に基本動作でつまずく例を見ていたと話しています。
たとえば:
中には、工事現場に突っ込み、作業員にぶつかりそうになった例もあったとのこと。
また、ペデストリアン(歩行者)とのニアミス、つまり「あと少しで人をはねそうだった」場面を専門に扱うチームまであったそうです。

この話を聞くと、FSDって「万能AI」ではなく、むしろ得意な場面ではそれなりに走るけれど、苦手な状況では急に危うくなるシステムなのだと感じます。
そして、そういうタイプのシステムは、使う側が慣れて油断した瞬間に一番危ない。ここは本当に重要です。
もう一つ面白いのが、Teslaのロボタクシー展開に関する部分です。
Elon Muskは以前から、競合のWaymoのような面倒なローカルマップ作りは不要だと主張してきました。
つまり、「Teslaはもっとスマートに、カメラ中心で広く展開できる」というイメージです。
でもReutersによると、実際にはTeslaもかなり事前に細かい地図作りや現地調査をしていたそうです。
これ、かなり大事なポイントです。
つまりTeslaは「地図なんてそんなにいらない」と言いながら、実際にはかなり人手をかけて慎重に準備していたわけです。
個人的には、ここは“宣伝と実運用のズレ”が最も見えやすい部分だと思います。
しかも、Austinでは今でも無人ロボタクシーは約20台程度で、しかも限定された、かなり丁寧に地図化されたエリアしか走っていないとのこと。
一部の車両には、まだ前席に安全監視員が乗っているそうです。
これで「大規模に自動運転が普及した」とは、さすがに言いにくいですよね。
Teslaは今、FSDとAutopilotをめぐって米NHTSA(道路交通安全局)の調査を4件抱えているとReutersは伝えています。
内容には、赤信号無視や対向車線への侵入など、かなり怖いケースが含まれています。
さらに、2023年のAutopilotリコールが十分だったのかどうかも調査対象です。
加えて、フロリダでのAutopilot事故に関連して、Teslaは2億4300万ドルの評決を受けています。
そして、Muskは以前「FSD中にテキストを打てるようにする」と株主に話していたのに、6か月後の時点でも実現していないとのこと。
しかもTeslaのFSDページには、今も「運転者の監視が必要で、自動運転ではない」と書かれています。

このギャップ、なかなかすごいです。
言葉では未来を先取りしつつ、現実の製品説明ではしっかり安全側に逃げる。
こういう二重構造は、利用者としてはかなりモヤっとすると思います。
今回のReuters調査で一番印象的だったのは、「外から見ても怪しい」話が、内側の証言でさらに補強されたことです。
安全性の数字がズルい、というのはよくある疑いです。
でも今回は、
だから私は、これは単なる“批判記事”というより、Teslaの自動運転ストーリーがどこまで現実に支えられているのかを再点検させる材料だと思いました。
もちろん、FSDがまったく進歩していない、という話ではありません。
Electrek自身も触れているように、特にHW4搭載車では以前よりかなり良くなっている面はあるようです。
ただ、その分だけユーザーが過信しやすくなる。
そして、少ない失敗に慣れた人ほど、いざという時に反応が遅れる。
ここは本当に危ないと思います。
TeslaのFSDは、少なくとも今回のReuters調査を見る限り、**“安全性の数字”と“現場の実態”の間に大きなズレがある**ようです。
しかも、そのズレは偶然というより、かなり都合よく見せる方向に働いていた可能性が高い。
ロボタクシーも、華やかな発表の裏では、人海戦術に近い地道な準備が欠かせない。
つまり、Muskが描く「魔法のような自動運転」ではなく、かなり手作業に支えられた限定サービスが今の実像に近いのではないか——私はそう感じました。
参考: Tesla's own AI trainers don’t trust 'Full Self-Driving' or its safety stats, Reuters finds