前回の記事「あれから3か月――補償はされたのか?」で、私たちは3つの宙づりの問いを残した。補償は完了したのか。金融庁はどう動くのか。責任の所在はどうなるのか。 あの記事を書いた直後、事態は静かに、しかし確かに動いた。本稿はその続報である。結論を先に言えば——補償は「やっと受付が始まった」段階に進み、金融庁の調査からは「被害相談はわずか5件」という意外な数字が出てきた。そして高市早苗首相は、6月19日の国会で改めて関与を全面否定した。一つずつ追っていく。
## 動き①:補償が「方針」から「受付」へ進んだ(6月10日)前回いちばんの焦点は「補償の方針は出たが、完了は確認できない」という点だった。ここに進展があった。
2026年6月10日、運営側(NoBorder)はサナエトークンの補償申請サイトを正式に公開した。要点はこうだ。
ここで強調しておきたいのは、これは「補償の完了」ではなく「補償の受付開始」だということだ。前回も書いた通り、「補償します」という言葉と「補償が完了した」という事実はまったく別物である。今回はその中間――「補償を請求できる窓口が開いた」段階に進んだ、というのが正確な現在地だ。実際に申請者全員に着金して初めて、騒動のこの章は閉じる。それは早くても7月以降の話になる。
なお、暗号資産プロジェクトがホルダーに返金補償を行うこと自体が業界では極めて異例とされる。私財を投じる形での払い戻しという点は、前回同様に評価しておきたい。ただし——後述するように、この補償が「誰のための補償なのか」という構造的な問いは、依然として解けていない。
前回、私たちは「具体的な被害者の告発が出てくるかどうかが、行政・刑事の行方を分ける分岐点」と書いた。その分岐点について、初めて具体的な数字が国会で明かされた。
同じ6月10日の衆院財務金融委員会。公明党の伊佐進一議員が、サナエトークンのDEX(分散型取引所)での購入に関する被害相談について質した。これに対し、金融庁の堀本善雄総合政策局長はこう答弁した。
利用者相談室に寄せられた、損失に言及のあった相談は6月9日時点で5件。このうち、先方から被害額の主張があったものは3件(うち1件は日本の非居住者からのもの)。
この「5件」「3件」という数字は、解釈が難しい。
少なく見る読み方:時価総額が一時数十億円規模に膨らみ、「20億円が吹き飛んだ」とまで言われた騒動にしては、行政の窓口に届いた損失相談はあまりに少ない。これは、(1)補償受付が始まったため正式な相談に至っていない、(2)被害者の多くが海外DEXの匿名トレーダーで日本の窓口に来ない、(3)そもそも泣き寝入りしている、といった要因が考えられる。
重く見る読み方:相談件数が少ないことは、被害が小さいことを意味しない。前回指摘した通り、最も損をしたのは「初日(2月25日)の最高値で飛びついた層」だが、補償の基準日は3月2日21時に置かれているため、彼らは原則として補償対象外だ。窓口に来ない=救われている、ではない。
いずれにせよ、前回挙げた「被害者が限定的なら警告処分で幕引き、告発が相次げば長期化・立件」という分岐点に照らすと、少なくとも現時点の相談件数は「幕引き」シナリオを後押しする方向に働きうる。金融庁が無登録の暗号資産交換業(資金決済法違反)の疑いをどう結論づけるか、最終判断はなお出ていない。
そして、今回の更新でいちばん大きいのがこれだ。高市早苗首相が国会で改めて声明を出した。
2026年6月19日の参院本会議。立憲民主党の打越さく良議員が、首相陣営の公設秘書と「中傷動画」との関係、さらにサナエトークン開発者と秘書とのつながりについて質し、秘書の国会招致を求めた。これに対し高市首相はこう答弁した。
「高市事務所として、発行主体側から、そうした名称の暗号資産が発行され、取引がなされるということについて説明を受けたことはなく、承認をしたこともないと報告を受けている」
そして「(自身は)暗号資産の発行及び取引には関与していない」と、3月2日のX投稿以来の立場を改めて繰り返した。
ここで思い出してほしいのが、前回詳報した4月の文春報道だ。開発を担った株式会社neuの松井健代表は「高市事務所の秘書には暗号資産であることをすべて伝えていた」と主張し、公設第一秘書が"ゴーサイン"を出したとされる音声データまで報じられた。つまり、「秘書は知っていた/知らなかった」という対立は、いまも国会の場に持ち越されている。
6月19日の答弁は、この対立に対する高市側の回答でもある。ポイントは表現の微妙さだ。首相は「事務所として説明を受けたことはない/承認したこともない」「自身は関与していない」という言い方を選んでいる。これは「個々の秘書が個人として何を聞いていたか」までを完全に打ち消す表現にはなっていない、とも読める。野党が秘書本人の招致にこだわるのは、まさにこの隙間を突こうとしているからだ。
前回の記事は「2026年夏が正念場」と締めた。その夏に入った今、3つの争点を採点し直そう。
3か月前、私たちは「補償します、という言葉を信じきってはいけない」と書いた。あれから、言葉は一歩進んで「補償申請サイト」という形になった。これは小さくない前進だ。だが、
サナエトークン騒動は、「終わりに向かって整理が進んでいる」のは確かだ。しかしそれは「きれいに終わった」ことを意味しない。6月30日の受付締め切り、7月以降の実際の支払い、そして金融庁の最終判断――この夏の後半が、本当の意味でのエンドゲームになる。前回からの結論は変わらない。「補償します」と「補償しました」は別物であり、「関与していない」という言葉の射程は、誰のどの行為を指しているのかまで見極める必要がある。 引き続き、一次情報で追っていきたい。
※本記事は2026年6月時点の公開情報・国会答弁に基づく整理・考察です。価格や手続き・調査の状況は変動します。暗号資産投資はすべて自己責任で行ってください。本記事は特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。