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Tech企業の「再生可能エネルギーで相殺」ルール、実はもっと厳しくなるはずだった

まずは要点

何が起きたのか

今回の話、ひとことで言うと「企業が“きれいな電力を使っていることにする”ためのルールを、業界側がやんわり弱めた」というニュースです。
少し身もふたもない言い方ですが、かなり重要です。

Engadgetが紹介しているのは、​Science Based Targets initiative(SBTi)​が、データセンターの排出を厳しく扱う新しい提案を、最終的に推奨しない判断をした、という件です。
このSBTiは、企業の気候目標が科学的に妥当かどうかを見ている団体で、いわば企業版の気候ルール監視役のような存在です。

ところが、そこにテック業界のロビー活動が入りました。
結果として、​ガス火力を使うデータセンターの排出を、再生可能エネルギー投資で帳消しにする際の条件を厳しくする案が後退した、というわけです。

データセンターはなぜそんなに問題なのか

AIブームの影響で、AmazonやMetaなどの大手はアメリカ各地に巨大なデータセンターを建てています。
データセンターは、ざっくり言うと大量のコンピューターを24時間ぶん回す工場みたいなものです。電力をものすごく食います。

ところが、建てた場所で電力が足りないことがある。
そこで出てくるのが、​gas turbines(ガス火力タービン)​です。これは天然ガスを燃やして電気を作る装置で、手早く電力を確保できますが、当然CO2を出します
個人的には、ここがいちばん「うーん」と思うポイントです。AIのために電力需要が爆増し、結局は化石燃料に寄る——便利さの代償がかなり露骨に見えるからです。

企業はどうやって「排出を相殺」しているのか

企業は、「うちはガスを使っているけど、そのぶん風力や太陽光にも投資しているから大丈夫」と主張します。
このとき使われるのが証書(certificates)​です。これは、たとえば「どこかで再エネが作られた」ことを示す紙のようなもので、排出を相殺したことにできます。

でも問題は、​電気を使った場所と、再エネが生まれた場所が別でもよいこと。
さらに、​使った時間と、再エネが生まれた時間がズレていてもよい場合があるんです。

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記事の例がわかりやすいです。

これ、帳簿上はきれいに見えます。
でも実際には、​夜のテキサスで出たCO2が、昼のカリフォルニアの太陽光で消えたわけではない。ここが論点です。私はこのズレ、かなり本質的だと思います。見た目の「グリーンさ」と、現実の排出削減は同じではないからです。

ルールを厳しくしようとしたGGP

ここで出てくるのが、​Greenhouse Gas Protocol(GGP)​です。
これは温室効果ガスの会計ルールを作る大きな枠組みで、​ヨーロッパやカリフォルニアでも参照されています。

GGPの考え方はかなり筋が通っています。
化石燃料で発電した電気を使ったなら、それを埋め合わせるクリーン電力も、できるだけ同じ市場・同じ時間帯であるべきだ、というものです。
こうすれば、企業の主張と実際の電源のつながりがもっと信頼できる、というわけです。

SBTiもこの考えに沿って、​同じ時間帯に発電されたクリーンエネルギー証書を使うべきだと提案していました。
要するに、「いつ・どこで作られた電気なのか」をもっと厳密に見よう、という話です。

でも業界は「それはキツすぎる」と反発

これに対して、Apple、Amazon、GMなど合計で約5兆ドル規模の売上を持つ企業が、「May not Shall」というロビー活動を始めました。
名前からして、ちょっと皮肉が効いていますね。
直訳に近い雰囲気で言えば、「しなければならない(Shall)ではなく、してもよい(May)にしてくれ」という主張です。

彼らの言い分は、

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というものです。

この主張も、完全に筋が悪いとは言い切れません。
企業からすれば、急に厳密な会計を求められると運用が大変でしょうし、投資の自由度も下がるでしょう。
ただ、個人的には「運用が面倒だからルールをゆるくして」という話は、気候変動の文脈ではかなり慎重に扱うべきだと思います。面倒さよりも、​実際にどれだけ排出が減るのかのほうが大事だからです。

逆にGoogleは厳格派だった

面白いのは、​Googleは時間ベースの一致を支持していたことです。
Googleは、企業として再生可能エネルギー購入の最大級プレイヤーですから、相当本気でこの問題に向き合っているのだろうと思います。

ここは業界内でも温度差がある、という点が重要です。
「テック企業」とひとまとめにされがちですが、実際には

なぜ“同じ時間帯”がそんなに大事なのか

ここがこの話の核心だと思います。
電気は、基本的にその瞬間に使う電力を、どこかで作って補っています。
だから、夜に火力で使った電力を、昼の太陽光で相殺するだけでは、「その夜のCO2」が消えたとは言いにくいんです。

研究グループやEUが、​hourly energy offset accounting(1時間ごとの相殺会計)​を支持しているのは、そのためです。
ざっくり言えば、​雑な平均値でごまかさず、もっと現実に近い形で記録しようということですね。

Princeton UniversityのLow-Carbon Technology Consortiumなどは、こうした厳密な会計のほうがCO2削減を今よりずっと早く進められるとみています。
私はこれ、かなり説得力があると思います。
再エネ投資そのものを否定しているわけではなく、​​「投資した気」になって実排出が残る状態を防ぎたいという話だからです。

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このニュースの本当の重み

この件が面白いのは、単なる企業の広報戦ではなく、​AI時代の電力問題そのものが見えてくるところです。
AIやクラウドが便利になるほど、データセンターは増えます。すると電力需要が増え、足りないぶんをガスで埋める誘惑も強くなる。
その一方で、企業は「再エネに投資している」と言いたい。
この綱引きが、今まさに起きているわけです。

個人的には、こういう“見えにくい帳簿の世界”こそ、気候問題の勝負どころだと思います。
太陽光パネルを何枚置いたか、風車を何基建てたかだけではなく、​それが本当に排出削減につながっているのかを細かく見る段階に来ているのではないでしょうか。

まとめ

今回の話は、「テック企業が悪い」「再エネがダメ」という単純な話ではありません。
むしろ、​急成長するAIインフラをどう脱炭素化するかという、かなり現実的で難しい問題です。

ただ、ひとつだけはっきりしているのは、
“どこかで買った再エネ証書で相殺しました”だけでは、もはや十分ではない
という流れが強まっていることです。

今後は、

まで、かなり厳しく見られていくはずです。
その意味で今回のニュースは、地味だけどかなり重要。AIの話として読むより、​​「企業の脱炭素会計がいよいよ本丸に入った」話として読むほうが本質的だと思います。


参考: Tech companies lobbied away stricter rules on gas-powered data centers - Engadget

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