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シリコンだけで“解けないはずの問題”に挑む。KAISTが示した新しいIsing machineの可能性

記事のキーポイント


「何千年もかかる問題」を解く、という強い言い方の正体

この記事の見出しはかなり刺激的です。
「半導体を使うと何千年もかかる問題を、silicon oscillators が解く」と言われると、つい魔法みたいに聞こえますよね。

ただし、ここで言っているのは、ふつうのパソコンやGPUが苦手な combinatorial optimization problems(組合せ最適化問題)​ に対して、専用のハードウェアで別ルートから解こうとしている、という話です。

組合せ最適化問題は、たとえば

みたいに、選択肢が爆発的に増える問題です。
選択肢が増えると、総当たりで調べるのは現実的ではなくなります。そこで、​​「答えを探す計算そのものを物理現象にやらせる」​ という発想が出てきます。今回の研究は、その代表格のひとつです。

個人的には、この「ソフトウェアで頑張るんじゃなくて、物理に仕事をさせる」発想がすごく面白いと思います。AI時代らしい発想でもありますね。


そもそも Ising machine って何?

Ising machine は、もともと物理学の Ising model にヒントを得た計算方式です。
難しく聞こえますが、ざっくり言うと、

という仕組みです。

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この「一番安定した状態」を、最適化問題の「答え」に対応させます。
つまり、物理系が自然に落ち着いた先の状態を見れば、それが計算結果になっている、というわけです。

今回の研究は、その Ising machine を oscillator(発振器)​ ベースで作ったものです。
発振器とは、電気信号を周期的に繰り返す回路のこと。時計の針みたいに、一定のリズムを刻むイメージです。

複数の oscillator が信号をやり取りしてリズムをそろえていくと、システムは安定状態に向かいます。研究チームはこの性質を使って、最適解を探しています。


何が新しいのか。ポイントは「全部シリコンで作った」こと

今回の研究の大きな特徴は、​oscillator も coupler も、単一の silicon transistor で実装したことです。

用語の補足

これまでの oscillatory Ising machine には、

という弱点がありました。

今回の研究では、oscillator と coupler をどちらもシリコンのトランジスタで作ることで、

ことに成功した、とされています。

ここは地味に重要です。
研究室の中で「動いた」だけなら珍しくないのですが、​既存の半導体製造ラインで作れるというのは話が別です。実用化を考えると、ここがいちばん大きいと思います。

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実際に何を解いたのか:Max-Cut problem

研究チームは、このハードウェアで Max-Cut problem を解いたとしています。

Max-Cut problem は、ネットワークを2つのグループに分けて、​グループ間のつながりを最大化する問題です。
たとえば、人間関係や通信ネットワーク、回路配置などに応用できます。

一見すると単純に見えますが、ノード数が増えると、どこで分けるのが最適かを探すのが非常に難しくなります。
だからこそ、こういう問題は組合せ最適化の代表例としてよく使われます。

この記事では、Max-Cut problem が以下のような分野に直接つながると紹介されています。

要するに、​物流、金融、半導体設計です。
この3つは、どれも「候補が多すぎて人力では無理」という共通点があります。だから、もし本当に高速で安定した最適化ハードウェアになれば、インパクトはかなり大きいはずです。


量産できるのが本当に強い

この研究で私がかなり良いと思ったのは、​特別な材料や特殊工程を必要としない点です。

研究チームによると、この技術は 現在の半導体業界で使われている CMOS process をそのまま利用できるとのこと。
つまり、新しい巨大設備を一から作らなくても、既存の fabrication line に載せやすい。

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ハードウェア研究は、性能がすごくても「製造が難しい」で終わることが多いです。
でも今回はそこをかなり意識していて、そこがかなり現実的だと思いました。

もちろん、研究段階の結果がそのまま量産に直結するわけではありません。
ただ、少なくとも “工場で作れる形” に寄せている のは、商用化を考えるうえで大きな一歩です。


「トランジスタの第3の波」という考え方

記事の後半で面白いのが、研究チームがトランジスタの歴史を3つの波として捉えている点です。

  1. 第1の波: switch
    トランジスタが電気のON/OFFをする部品として使われた段階

  2. 第2の波: amplifier
    信号を増幅する部品として使われた段階

  3. 第3の波: oscillator
    リズムを作り、計算そのものに使う段階

この見方、かなり野心的です。
正直に言うと、「第3の波」と呼ぶのはややキャッチーすぎる気もしますが、方向性としてはすごく納得感があります。

なぜなら、半導体の性能向上は長年、ずっと「より小さく、より速く、より省電力に」という miniaturization の延長で進んできたからです。
でも、物理的な限界が近づくにつれて、単なる微細化だけでは伸びしろが小さくなっているのも事実です。

だからこそ、​トランジスタに新しい役割を持たせるという発想は、かなり筋がいいと思います。


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どこまで信じていいのか、という視点も大事

こういうニュースを見ると、「ついにAIや最適化の時代が変わるのか」と盛り上がりたくなります。
ただ、冷静に見るポイントもあります。

とはいえ、研究の方向性自体はかなり魅力的です。
「計算を速くする」のではなく、​そもそも計算の仕方を物理に合わせて変える。これはコンピュータの歴史の中でも、なかなかワクワクする流れだと思います。


まとめ:半導体は“スイッチ”から“振動する計算装置”へ?

今回のKAISTの研究は、
シリコンの transistor だけで oscillatory Ising machine を作り、組合せ最適化問題を解く
という、かなり野心的な成果です。

個人的には、ここで本当に重要なのは「すごい計算ができた」こと以上に、
既存の半導体製造と相性がよい形で新しい計算原理を示したことだと思います。

もし今後この方向が伸びるなら、コンピュータはますます

に近づくかもしれません。

その意味で、この研究は単なる新型チップの話ではなく、
​「トランジスタは何のための部品なのか」​ という問いを更新しようとしている、かなり面白い試みだと感じます。


参考: Silicon oscillators solve computer problems that would take thousands of years using semiconductors

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