Financial Timesのポッドキャスト「The Economics Show」で取り上げられたテーマは、かなり今っぽいです。
タイトルは「Will AI help the Fed conquer inflation?」。直訳すると「AIはFRBがインフレを征服するのを助けるのか?」という感じで、かなり大きく出ています。
ここで出てくるFRBは、アメリカの中央銀行であるFederal Reserveのこと。
中央銀行は、金利を上げ下げして景気や物価を調整する役割を持っています。ざっくり言えば、「お金の流れを締めたり緩めたりして、景気が熱くなりすぎないようにする司令塔」です。
今回話題になっているのは、シカゴ連銀のトップであるAustan Goolsbee。
彼は、AIがインフレを抑える力になるかもしれない、という見方について議論しています。
記事の骨子はとてもシンプルです。
AIが普及すると、生産性が上がるかもしれない。
「生産性」というのは、ひとことで言うと同じ人数・同じ時間で、より多くの価値を生み出せる力です。
たとえば、AIが事務作業や分析、文章作成を手伝ってくれれば、人間はより多くの仕事をこなせます。会社としては、より少ないコストで多く作れる。すると価格を上げにくくなる。これがインフレ抑制につながる、という理屈です。
ここ、かなり面白いところです。
AIって普通は「仕事を奪うのでは?」とか「雇用がどうなる?」と心配されがちですが、経済全体で見ると物をたくさん作れるようになる技術でもあります。
私はこの視点、かなり重要だと思います。技術の議論ってどうしても雇用の不安に寄りやすいのですが、中央銀行から見ると「物価をどうするか」のほうが超重要なんですよね。
もちろん、AIが本当にインフレを抑えるのかは別問題です。
記事でも、AIで経済が変わるという話が本当に実現するのか、それとも期待が先走っているだけなのかという不確実性が強調されています。
これが大事です。
テクノロジーの話はいつも「すごい未来」が先に語られます。ですが、実際には導入に時間がかかったり、企業がうまく使いこなせなかったり、恩恵が一部の業界に偏ったりします。
AIも同じで、「全米の生産性が一気に上がる」とはまだ言えません。
むしろ、本当に経済全体に効くのかは、これから数字で確かめる段階だと思います。
ここで鍵になるのが、「どうやってAIの効果を測るのか」という点です。
生産性が上がったかどうかは、単にChatGPTを使っている人が増えた、では測れません。
企業の売上、コスト、労働時間、投資、価格の動きなど、いろいろ見ないといけない。
このあたり、中央銀行が新技術を評価する難しさがにじみます。華やかな言葉の裏で、やることはかなり地味です。
記事では、AIが豊かな生産をもたらし、価格を下げるなら、Fedは金利を下げやすくなるという見方が紹介されています。
金利を下げると、企業や個人がお金を借りやすくなり、投資や消費が進みます。
逆に金利が高いと、景気が冷えやすくなり、物価上昇は抑えられます。
つまり、AIがインフレを自然に鎮めてくれるなら、Fedは「これ以上そんなに強く締めなくてもいいかも」と判断できる可能性があるわけです。
これは中央銀行にとってかなりありがたい話です。
なにしろ、いまの世界は戦争、エネルギー価格、雇用の不安定さなど、いろんな火種があります。そこにAIが“追い風”として働くなら、政策運営は少し楽になるかもしれません。
ただ、私はここでちょっと慎重になったほうがいいと思います。
AIが生産性を上げても、その恩恵がすぐに物価に反映されるとは限りません。
むしろ最初は、企業がAI導入に投資してコストが増えることもあるでしょうし、AI関連の需要が強すぎて一部の価格が上がることもありえます。
だから「AI=即インフレ抑制」とはならない。ここはかなり大事です。
この回では、AIだけでなく、次期Fed議長候補とされるKevin Warshについても議論されています。
Warshが中央銀行をどう変えるのか、という話題ですね。
Fed議長の人選は、実は市場にとってかなり大きなニュースです。
なぜなら、議長が変わると、金利への考え方やインフレへの姿勢が変わる可能性があるからです。
同じFRBでも、トップが違えば空気が変わる。これは企業のCEO交代に少し似ています。表面上は同じ組織でも、実際の舵取りはかなり変わりうるんです。
さらに、Austan Goolsbeeは、Jay Powellが今後どうするのかについても語っています。
PowellはFRB議長としておなじみの人物で、金利政策の中心にいる存在です。
彼が今後どんな立ち位置を取るのかは、当然市場の注目ポイントです。
このFTの記事の面白さは、AIを単なる流行語として扱っていない点にあります。
「新しいチャットボットが便利だね」で終わらず、それが物価、金利、景気にどう効くのかまで話を広げている。
これはとても現実的な見方です。
AIが社会を変えるかどうか、という問いはよく聞きますが、中央銀行の立場からはもっと切実です。
それで物価が下がるの? 金利政策を変える必要があるの?
この2つの問いこそが重要なんですよね。
個人的には、AIとインフレの関係は「夢のある話」であると同時に、「かなり測りにくい話」でもあると思います。
期待が先行しやすく、実際の数字が追いつくまで時間がかかる。だからこそ、FRBのような機関は慎重になります。
派手な技術にすぐ飛びつくのではなく、「本当に経済全体の力を変えているのか」を見極める必要があるからです。
このポッドキャスト回は、AIブームを「テック業界の話」で終わらせず、インフレ対策や金融政策の文脈に接続しているのがポイントです。
AIが本当に生産性を押し上げるなら、中央銀行にとっては追い風になるかもしれない。
でも、その効果がどれだけ広く、どれだけ早く出るのかはまだ分からない。
だからこそ、今後の経済指標やFedの発言は、AIニュースと同じくらい注意して見る価値がある、ということだと思います。
参考: Will AI help the Fed conquer inflation? With Austan Goolsbee