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Goldman SachsのAI活用は「利用回数」ではなく「仕事の流れ」で見るべき、という話

キーポイント

本文

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Goldman SachsのCIO、Marco Argenti氏の発言がかなり面白いです。
要するに彼は、​​「社員がAIをどれだけ使ったか」を個別に監視するのはあまり意味がないと言っているんですね。

これ、いかにも今っぽい論点です。
多くの会社が「AIを使え、使え、使え」と音頭を取る一方で、では何をもって“使えている”と判断するのかは意外と難しい。単純に利用回数を数えても、「とりあえず開いてみた」だけの人と、仕事のやり方そのものを変えた人が同じ扱いになってしまうからです。ここはかなり筋がいい視点だと思います。

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何を見ているのか

Argenti氏が見ているのは、​12,000人いるエンジニアのチームが、アイデアを出してから実際に動くまでのスピードです。

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Fortuneの記事では、彼はこれをサッカーにたとえています。
「1人の選手の動きだけ見ていてもゴールが増えない。ボールをパスしないといけない」というわけです。

この比喩はうまいですね。
AIの活用も、個人の“手数”だけを見ても仕方なくて、​チーム全体の流れが速くなっているかを見るほうが実態に近い。
個人的には、AI時代の評価指標としてかなり本質的ではないかと思います。

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AIで何が変わったのか

Goldman Sachsでは、AIのおかげで、社員がアイデアをPowerPointで説明するだけではなく、すぐにprototype(試作品)​を作れるようになってきたそうです。

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prototypeとは、ざっくり言えば「完成品の前に作るお試し版」です。
昔はアイデアを会議資料にして終わることも多かったのに、今はその場で調整できる形にして試せる。Argenti氏はこれを、​​「ソフトウェアを3Dプリントしているようなもの」​と表現しています。

この表現もなかなか印象的です。
つまり、AIが入ることで「考える→資料化する→開発する」という段差が縮まり、​アイデアから形になるまでの距離が極端に短くなっているということです。
ここがAIの本当のインパクトで、単なる作業時間の短縮よりずっと大きいと思います。

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Goldman Sachsはかなり本気

Goldman Sachsは、AI導入にかなり前向きです。

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記事によると、同社は2024年にGS AI Platformを公開しました。これは、OpenAIやGoogleのような大規模言語モデルを使いつつ、​社内データを守るためのセキュリティ層を加えたものです。
大規模言語モデル(LLM)は、文章を理解したり生成したりするAIのことですね。便利ですが、会社の機密情報をそのまま入れるのは危ない。だから金融機関では、こういう“安全装置つきAI”が重要になります。

さらに、社内版ChatGPTも作っていて、​Legendという仕組みでは、社内の膨大な資料を自然言語で検索できるそうです。
自然言語で検索できる、というのは「ファイル名を正確に覚えていなくても、普通の言葉で探せる」ということ。
これ、地味ですがかなり強いです。社内検索って意外とストレスの塊なので、ここが改善されると仕事のスピード感はかなり変わるはずです。

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他社は「使ったかどうか」を見ている

一方で、ほかの企業、特にテック企業では、AI利用をもっと直接的に評価しようという動きもあります。

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記事では、GoogleがソフトウェアエンジニアをAIツールの利用状況で評価していると報じられたこと、AccentureのJulie Sweet CEOが「AI fluency(AIを使いこなす力)」を昇進条件にしていることが紹介されています。さらに、AIを学び直さない社員は退出してもらう、というかなり強いメッセージも出しているようです。

ここは企業ごとの差がはっきり出るところですね。
​「使ったか」を見る会社と、​​「仕事の流れが速くなったか」を見る会社
前者は管理しやすいけれど、後者のほうが本当に生産性を見ている感じがあります。私は後者のほうが健全ではないかと思いますが、一方で大企業ほど前者のようなわかりやすい指標に頼りたくなるのも理解できます。

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社員の反応も変わってきた

Goldman Sachsの社員も、最初からAIに前向きだったわけではないようです。
Argenti氏によると、以前は不安や懐疑があったものの、今では​「力を与えてくれる」「解放された気分だ」​という感覚が広がっているとのことです。

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これもかなり自然な流れだと思います。
新しい技術って、最初はたいてい「自分の仕事を奪うのでは」「使い方がわからない」と怖がられます。でも、実際に使ってみて、面倒な作業が減ったり、試行錯誤が早くなったりすると、見え方が一気に変わる。
AIに限らず、技術の普及ってだいたいそういうものです。

この話のいちばん大事なポイント

このニュースの面白さは、単に「Goldman SachsがAIを導入している」という話ではありません。
むしろ重要なのは、​AIをどう評価するかという視点です。

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多くの人は、AI導入の成果を「何回使ったか」で測りたくなります。
でもArgenti氏は、そうではなくて、​アイデアが現場で形になるまでの速度を見ている。
これはかなり“経営っぽい”し、同時にかなり実践的です。

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個人的には、AIの価値は「会話がうまい」とか「文章がきれい」とかよりも、​組織の摩擦をどれだけ減らせるかに出ると思っています。
会議で終わるはずだったアイデアが、すぐ試せる。
調べものに半日かかっていたのが、数分で済む。
そういう変化が積み重なると、会社の動き方そのものが変わるんですよね。

Goldman Sachsのやり方は、その変化をちゃんと見ようとしている点で、かなり示唆的だと思います。

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参考: Goldman Sachs’ tech boss says tracking individual AI usage isn’t useful. He just watches how fast his 12,000 engineers move from idea to production

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