GitLabが公開した「Act 2」は、ひとことで言うと**“AIエージェント時代に向けて、会社の形も製品の考え方も作り直します”という宣言です。
しかもこれは、単なる新機能のお知らせではありません。組織再編、事業戦略の見直し、製品アーキテクチャの再設計**まで含んだ、かなり重たい内容です。
個人的には、この記事はかなり面白いです。なぜならGitLabが「AIを足す」ではなく、AIが当たり前になる前提で土台から作り直すと言っているからです。ここは今後の開発ツール全般を考えるうえでも、かなり重要なメッセージだと思います。
タイトルの「Act 2」は、演劇の第2幕みたいなニュアンスです。
つまりGitLabは、会社として次の章に入ると言っているわけです。
この記事の冒頭で、GitLabのBill Staples氏は、会社の中で大きな変化があったことを伝えています。
その変化は大きく分けて2つです。
この2つは関連しているけれど、完全に同じ話ではない、というのがGitLabの説明です。
要するに、今の会社の形は前の時代には合っていたが、これからの時代には合わない。だから変える、というわけです。
GitLabは、従業員向けにrestructuring process(再編)を始めると発表しました。
記事ではかなり率直に、これが「hard(つらい)」話だと認めています。ここは逆に誠実さを感じます。
再編の中身は、ざっくり言うと以下の通りです。
ここでのキーワードは、「小さく、速く、任せる」だと思います。
大きくなった組織は、どうしても意思決定が遅くなりがちです。これはどんな会社でも起こる“あるある”です。GitLabはそこをかなりはっきり問題視しているように見えます。
特に、管理階層を減らすのは象徴的です。
現場に近いところで判断し、変化に素早く対応するためでしょう。これは理屈としてはわかりやすいですが、実際に運用するのは簡単ではありません。だからこそ、GitLabが本気で構造を変えようとしているのだろうと感じます。

この記事の核心はここです。
GitLabは、未来のソフトウェア開発をこう捉えています。
Software will be built by machines, directed by people.
ソフトウェアは機械が作り、人が指示する。
かなり強い言い方です。
つまり、AIは“ちょっと便利な補助輪”ではなく、作業の主役の一部になるという考え方です。
ここで重要なのは、人の役割が消えるわけではない、という点です。
GitLabは、人間が担うべきものとして次のようなものを挙げています。
つまり、コードを書くことだけがエンジニアではないという、かなりまっとうで、でもAI時代には特に重要になる視点です。
個人的にもここは強く同意します。コード生成はかなり自動化されても、何を作るか、どこまでやるか、何を捨てるかは、人間の判断が最後まで必要だと思います。
GitLabは、AIエージェント時代にはソフトウェア需要そのものが増えると見ています。
理由はシンプルで、ソフトウェアを作るコストと時間が下がれば、
「じゃあもっと作ろう」「もっと自動化しよう」という流れになるからです。
記事では、開発者向けプラットフォームの価格帯が、以前は月額1人あたり数十ドルだったのに、今は数百ドル、そして将来的には千ドル単位に向かうとも述べています。
これはかなり挑戦的な見方ですが、AIが本格的に業務へ入ると、単なるツール代ではなく成果に近い価値が問われるようになるので、そういう方向性は十分ありえます。
私はこの見立てを、少し大げさにも見えるけれど、完全に外れているとも思いません。
AIが開発を加速すれば、ソフトウェアの総量は確かに増えそうです。むしろ問題は「増えるかどうか」より、その増えたソフトウェアをどう安全に運ぶかなのだと思います。GitLabはまさにそこを取りにいっています。

GitLabは、今後の製品戦略として5つのarchitectural bets(構造上の賭け)を挙げています。
この部分は記事の中でも特に技術色が強いですが、言い換えると「これからのGitLabの設計思想」です。
AI agentは、人間よりはるかに速く、並列に動きます。
たとえば、複数のmerge requestを同時に開き、pipelineを24時間回し、commitを大量に送る、といった動きです。
GitLabは、今のGitや従来の基盤は、その負荷を前提に作られていないと考えています。
だから、基盤そのものを再設計する、と言っています。
ここで出てくるのが、monolithからAPI-firstのcomposable servicesへという話です。
要するに、人が使う画面だけでなく、agentが直接使える仕組みを作るということです。
これはかなり本質的です。AIが主役になるなら、UI中心の設計だけでは足りません。機械が機械らしく使えるAPIや構造が必要になります。
GitLabは、単にコードを生成するだけでは不十分だと考えています。
企業が欲しいのは「activity」ではなく、ちゃんと動くソフトウェアが事業を前に進めることです。
そこで重要になるのが orchestration。
これは難しく聞こえますが、かんたんに言えば、複数のagentや作業をまとめてうまく進行管理する仕組みです。
たとえば、
といった役割があります。
GitLabは、CI/CD(コードをテストして本番へ届ける仕組み)も、これまでの「人間の変更を安全に流す」設計から、agentを前提にしたruntimeへ変えていくとしています。
これはかなり大きな発想転換です。地味に見えて、実はめちゃくちゃ重要だと思います。

GitLabが特に強調しているのが context です。
contextは日本語だと「文脈」「背景情報」に近いですが、AIの世界ではとても重要です。
なぜなら、AIモデルの性能が似てくると、差がつくのは何を知っていて、何を参照できるかだからです。
GitLabは、planning、code、review、security、deployment、operationsをまたぐデータモデルを持っている点を強みとしています。
つまり、開発の前から後まで、ずっとつながった情報があるわけです。
これはすごく強いです。
AIにとって、良い答えを出すには良い材料が必要です。GitLabはその材料を長年の作業データとして持っている。ここはかなり魅力的な立ち位置だと思います。
記事では、contextによってAIが少ないtokenで良い結果を出せるとも述べています。
要するに、よく知っている相手ほど、AIは賢く振る舞いやすいということです。
governance は、ルール管理や統制のことです。
AI時代は便利な一方で、何でも自動化すると危ないので、企業は「誰が何をしてよいか」「何が起きたか」をきちんと管理したいわけです。
GitLabは、governanceをあとから足すのではなく、コアに組み込むと言っています。
具体的には、
を、agentやpipeline、merge requestが必ず通る仕組みとして作るとのことです。
私はここがかなり大事だと思います。
AIを使う企業が増えるほど、「速さ」だけではなく「説明できること」が必要になります。
何が起きたのか追跡できること、ルールを守れること、データを変な場所に置かないこと。これがないと、企業利用は広がりにくいです。
GitLabは、企業の働き方を3つのモードで捉えています。

そして、現実の企業はこの3つが混ざる、と言っています。
これはかなり現実的です。全部を一気にAI化する会社なんて、実際にはほとんどないでしょう。
さらに、クラウドやモデルにも依存しすぎない、cloud and model neutral を目指すと言っています。
要するに、特定のクラウドやAIモデルにベタ依存しない設計にしたいわけです。企業向けとしては、とても筋がいい考え方だと思います。
製品だけでなく、ビジネスモデルも変えると言っています。
GitLabはこれまでのsubscription、つまり「毎月・毎年いくら」という分かりやすい料金体系を残しつつ、
agentが実際に行う作業に応じた consumption pricing(使った分だけ課金)も取り入れていく方針です。
これはかなり自然な流れだと思います。
なぜなら、AI agentの価値は「席数」ではなく、どれだけ仕事をしたかで見られやすいからです。
ただ、ここはユーザー目線だと少し不安もあります。
使えば使うほど価値は出る一方、請求額が読みにくくなる可能性もあるからです。
なので、GitLabがsubscriptionの安定性を残しながら柔軟性を足す、というのはバランスの取り方として悪くないと思います。
GitLabは顧客向けに、かなり大事な点を明言しています。
つまり、「会社が大きく変わるけど、いま使っている人はすぐ困らないようにする」というメッセージです。
こういうとき、顧客が一番気にするのは「で、うちの運用は止まらないの?」なので、そこに先回りして答えているのは良いですね。
そのうえで、今後は品質、深さ、スピードを上げていくとしています。
GitLab自身が「customer zero」、つまり自分たちが最初の利用者になって実証するとも述べています。
これは言うのは簡単ですが、やるのは大変です。だからこそ、もし本当に実行できたら強いです。
投資家に向けてGitLabは、今回の発表を20年で最大級の変化の真っ只中にある市場で勝つための意図的な動きだと位置づけています。

要するに、
ということです。
この姿勢はかなり野心的です。
しかも、単に「AIやります」ではなく、組織、技術、収益モデル、運用のすべてをそれに合わせて変えると言っている。ここは本気度が伝わります。
個人的には、GitLabの「Act 2」は、かなり攻めた戦略だと思います。
AI時代に合わせて製品を少し改良するのではなく、会社の骨格そのものを組み替える話だからです。
良い点ははっきりしています。
一方で、難しさも相当あります。
なので、これは「勝ち筋が見えているから安心」というより、勝ち筋を取りに行くためにかなり大胆に体を入れ替えるタイプの発表です。
その意味で、読んでいてかなり刺激的でした。
GitLabの「Act 2」は、AIエージェント時代に向けて、会社の構造・製品設計・収益モデルをまとめて作り変える宣言でした。
ポイントは、AIを表面的に足すのではなく、機械が大量に動く前提で土台を作ることにあります。
特に印象的だったのは、GitLabが「AIがコードを書く」よりも一段深く、
AIがソフトウェア開発の流れ全体を動かす世界を見ている点です。
この見方が正しいかどうかはまだわかりませんが、少なくとも「未来をどう作るか」という問いに対して、かなり本気の答えを出している会社だと感じました。
参考: GitLab Act 2