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IBMが目指す「AIコーディングの次の段階」——“フェラーリで牛乳を買いに行く”問題とは何か

キーポイント

“フェラーリで牛乳を買いに行く”とはどういう意味か

The New Stackの記事で印象的なのは、IBMのNeel Sundaresan氏が語ったこの一言です。

Most AI coding is "like taking your Ferrari to buy milk"

直訳すると「ほとんどのAIコーディングは、牛乳を買いに行くのにFerrariを使うようなもの」。

これ、かなりうまい例えです。
つまり、AIはとても高性能なのに、実際の使い方がちょっともったいない、ということですね。

たとえば今よくあるAIコーディングは、

といった“局所的な手助け”が中心です。もちろん便利です。かなり便利。
でも企業の現場では、単にコードを書くだけでは仕事は終わりません。

本当に必要なのは、

といった、​仕事全体を進める力なんですよね。
Sundaresan氏の言いたいことは、たぶんそこです。
「コード補完」という単機能のAIは強いけれど、それだけでは企業開発の“面倒くさい現実”には足りない、ということではないでしょうか。

IBM Bobは“agentic coding tool”

記事では、Sundaresan氏が現在、​IBM Bobという「agentic coding tool」を作っていると紹介されています。

ここでの agentic は、ざっくり言うと「ただ答えるだけでなく、自分で考えて行動するタイプ」という意味です。
普通のチャットAIが「どうすればいいですか?」に答える“相談相手”だとすると、agentic toolは、状況を見て作業を進める実務担当に近いイメージです。

たとえば、こういう方向性が考えられます。

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もちろん、記事本文の範囲だけではIBM Bobの全機能を細かくは断定できません。
ただ、少なくともIBMが狙っているのは「賢い補完」ではなく、​開発作業を前に進めるエージェントだと読めます。

この方向性はかなり面白いです。
というのも、AIコーディングの議論って、これまで「どれだけ速くコードを書けるか」に寄りがちでした。でも現場の本音は、「書くこと」より「壊さないこと」「迷惑をかけないこと」のほうが重要だったりします。
そこに真正面から向き合っているのがIBM Bob、という印象です。

すでにIBMの開発者8万人が使っている

記事の説明によれば、IBM Bobはすでに8万人のIBM開発者に使われているとのことです。

この数字はかなり大きいです。
もちろん、社内導入なので外向けプロダクトとは少し意味が違うかもしれません。それでも、これだけの規模の開発者が触っているなら、単なる実験段階ではなく、かなり実戦投入に近い位置にいると見てよさそうです。

ここで重要なのは、​企業内の開発現場は、一般向けAIツールよりも要求が厳しいという点です。

企業のコードベースには、たいてい次のような事情があります。

つまり、「ChatGPTに聞けばすぐできる」みたいな軽い話では済まないわけです。
だからこそ、IBMが社内で大規模に使っているという事実は、​agentic coding が“おもちゃ”ではなく実務ツールになりつつあることを示している、と私は思います。

なぜ今、こうしたツールが注目されるのか

AI codingはここ数年で一気に広まりました。
でも、広まったからこそ見えてきた限界もあります。

最初は「コードを早く書ける」だけで十分に見えました。
ところが実際には、開発の大部分はコードを書く以外のことです。

このあたりは、むしろ人間のほうが得意な場面も多かったんですよね。
だから、AIの役割も「文章やコードを少し賢く補う」段階から、「作業の流れ全体を支える」段階へ移りつつある、というのが今の流れではないでしょうか。

個人的には、この変化はかなり重要だと思います。
なぜなら、AIが本当に開発現場に入ってくるのは、​**“すごいコードを書く時”ではなく、“地味で面倒な開発作業を減らす時”**だからです。
派手なデモより、地味な自動化のほうが現場では効きます。これはかなり現実的な話です。

GitHub Copilotの創業に関わった人物がIBMにいる意味

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Sundaresan氏は、記事によればGitHub Copilotの創設エンジニアでもあります。
この経歴はかなり象徴的です。

Copilotは、AIコーディングの代表格として広く知られています。
その立ち上げに関わった人が今、IBMでより“agentic”なツールを作っている。
これは、AIコーディングの進化が、単なる補完から自律的な作業支援へ向かっていることを示す一つの流れだと見ていいでしょう。

もちろん、「Copilotがもう古い」という話ではありません。
むしろCopilotが道を切り開いたからこそ、次の問いが生まれたわけです。

AIはコードを書く“助手”で終わるのか?
それとも、開発を進める“相棒”になれるのか?

IBM Bobは、その後者に挑戦しているように見えます。
この問いは今後かなり大きくなりそうです。というのも、企業は単なる賢い補完機能ではなく、​責任を持って作業を進められるAIを求めるはずだからです。

この話で見えてくる、AIコーディングの本当の論点

この記事を読んで面白いのは、AIコーディングの議論が「精度」や「速度」だけではないと改めてわかる点です。

本当の論点は、たぶん次のあたりです。

つまり、​**“書ける”より“任せられる”が大事**になってきているんですね。
ここはかなり大きな転換点だと思います。

そして、Sundaresan氏の「Ferrariで牛乳を買いに行く」という比喩は、そのズレを非常にわかりやすく表しています。
高性能なAIを、ちょっとしたコード補完だけに使うのはたしかにもったいない。
その一方で、AIに全部を丸投げするのも怖い。
この中間にある現実的な落としどころを、IBM Bobのようなツールが探っているわけです。

まとめ:AIコーディングは“書く”から“進める”へ

この記事のメッセージを一言でまとめるなら、​AIコーディングは次の段階に入っている、ということです。

単にコードを提案するのではなく、開発作業を前に進める。
単なる補完ではなく、文脈を理解して動く。
その方向に進まないと、AIは高性能でも“Ferrariで牛乳を買いに行く”状態のままなのかもしれません。

個人的には、この方向性はかなり有望だと思います。
AIが本当に価値を出すのは、派手な一発芸よりも、現場の面倒を少しずつ減らすときです。
IBM Bobは、その現実路線をかなり真面目に狙っているプロダクトに見えます。


参考: Most AI coding is "like taking your Ferrari to buy milk": IBM's Neel Sundaresan

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