AIブームで、data center(データセンター)の需要が爆発しています。データセンターは、AIを動かすための巨大な計算機の集まりです。とくに最近のAIは、GPUという高性能なチップを大量に使います。GPUは、画像処理向けに発展したチップですが、今ではAIの学習や推論にも欠かせません。
ところが問題は、GPUそのものよりも、それを動かすための電力と建物の空きが足りないことだと記事は指摘します。データセンターを建てるには、土地だけではなく、送電設備や変電設備、冷却設備の整備が必要です。つまり「お金があれば作れる」という話ではなく、電力網の都合で詰まっているわけです。
そこで登場するのが、Californiaのsmart utility box企業Spanの案です。発想はかなり大胆で、GPUを自宅の横に置く。しかも見た目はHVAC unit(エアコンの室外機のようなもの)っぽい箱です。
Spanの説明では、各家庭は契約上、実際にはそこまで電気を使っていないことが多いそうです。記事によると、平均的な家庭の電力使用量は、割り当てられた電力の約42%にとどまるとのこと。つまり、**“使っていない分の電力”がある**という考え方です。
Spanは、家庭の電気使用状況を監視できるsmart utility boxを使って、その余りの電力をGPUに回す、と説明しています。家庭のすぐ外に置くnode(ノード、つまり計算用の箱)がその受け皿になるわけです。
この箱の中には、記事によれば以下が入っています。
複数の家庭にこうしたnodeが増えれば、それらをネットワークでつないで、distributed computing(分散コンピューティング、複数の機械で仕事を分け合う仕組み)として使える、というのがSpanの構想です。
要するに、巨大なデータセンターを1か所に作る代わりに、家庭のそばに小さな計算機をばら撒くイメージですね。発想としてはかなり面白いです。個人的には、かなり“AI時代のインフラ版Uber”っぽい匂いがして、良くも悪くもシリコンバレー的だなと思います。
Spanは、nodeを置く家庭に対して、電気代とインターネット代のかなりの部分を負担するとしています。
つまり家主から見ると、
というメリットがあるわけです。
ただ、ここで大事なのは、**“無料で儲かる”話では全然なさそう**ということです。機械は壊れますし、音も熱も出ます。しかも、そもそも自宅の敷地に、数十万ドル規模の機材が置かれるわけです。気軽に「ちょっと置いてみるか」とは言いにくいでしょう。
記事で最も重要なのはここだと思います。
アイデアは派手だが、実運用はまだほぼ試されていないのです。

Spanはプロトタイプを作っているものの、実際の住宅の横に設置したのはまだほとんどないと記事は伝えています。SpanのVPであるChris Lander氏は、内部で技術的な研究やモデリングを行っていると述べていますが、外部から見ると、まだ「本当に動くの?」という段階です。
さらに、Spanはアトランタの住宅会社Pulte Homesと協力しているものの、CNBCによれば、これまでに設置されたSpan unitはたった1軒の家のそばだそうです。これは正直、かなり慎重に見るべき数字です。
Spanは「今年後半に100台超のnodeを使ったpilot projectをやる」としていますが、いつ、どこでやるのかは明かしていないとのこと。ここは期待と不安が半々ですね。新技術ではよくある話ですが、こういう段階で大きく語る構想ほど、実証の壁が厚いものです。
新しいデータセンターが増えると、周辺地域の電気代が上がるのではないかという懸念が以前からあります。Transformer(変圧器)などの設備が熱を持ち、劣化が早まる可能性もあるからです。

Spanの面白いところは、「家庭に置くからこそ、その懸念を和らげられる」と主張している点です。Lander氏は、追加のCapEx(設備投資コスト)を電力会社が大きく負担しなくて済むので、むしろ顧客にとってプラスになると語っています。
ただ、ここはかなり慎重に見たいところです。
なぜなら、電力網から見れば“使う電気の総量”は結局増えるからです。場所が中央の巨大データセンターでも、家の横の小型nodeでも、グリッドへの負荷が増えるなら、コストがどこかに乗る可能性は消えません。
個人的には、Spanの主張は筋が通っている部分もある一方で、かなり“理想寄り”にも見えます。インフラの世界では、「誰かが得する話」は、だいたい別の誰かが少し痛みを引き受けています。そこをどう分配するのかが本丸でしょう。
この記事が面白いのは、Spanの案が単なる思いつきではなく、AI向け計算資源の不足が深刻だという現実を映している点です。
データセンターは建てるのに時間がかかります。しかも、地域住民や自治体の反対にも遭いやすい。ところがAIの需要は、今まさに急増している。つまり、需要のスピードに供給が全然追いついていないのです。
だからこそ、すでに配電されている家庭の電力を使おう、という発想が出てくる。政治的にも、巨大施設の許認可を通すより、コミュニティ単位で既存の電力を使うほうが通しやすいかもしれない。Redditユーザーの「Uberだけど、未許可のデータセンターを自宅でやるようなもの」というコメントは、かなり皮肉が効いていて、的を射ていると思います。
もう一つ気になるのは、Nvidiaの関わり方です。記事によると、NvidiaはSpanのプレスリリースで自社ブランドの使用を認めたものの、現時点での関与は主に相談役レベルのようです。
つまり、Nvidiaが全面的にお墨付きを与えたわけではないのです。ここを誤解すると危ないですね。ブランド名が出ると一気に本物っぽく見えますが、実態はそこまで踏み込んでいない可能性があります。
とはいえ、もしこの構想が実証されて本当に意味のある計算資源になれば、Nvidiaがその先の買い手を探す手助けをする可能性はある、と記事は伝えています。すでに、hyperscalers、neoclouds、neoscalers、AI service providersなど、潜在的な購入者との会話も始まっているそうです。
Spanのboxには、かなり高価な機材が入っています。記事では、部品の価格情報から見て、**$500,000以上の価値**になる可能性があるとしています。
これはつまり、家の外に半分むき出しの高級機械室ができるようなものです。冷静に考えると、かなり怖いです。盗難のリスクは当然出てきますし、保険や管理の問題も重そうです。
「住宅の横に置ける」と聞くと手軽そうですが、実際にはかなりハイリスク・ハイコストな設備です。ここは、見た目のコンパクトさにだまされないほうがいいでしょう。
このFast Companyの記事は、AI時代のインフラ不足をめぐるかなり変わった解決策を紹介しています。
自宅の横に小型データセンターを置くという発想は、未来感があってワクワクします。しかも、電力網のボトルネックという現実に真正面から向き合っている点は評価できます。
でも同時に、
といった疑問が山ほどあります。
だから私は、これは「完成された解決策」というより、AIインフラが足りなすぎて、みんなが必死に新しい置き場所を探している証拠だと思います。かなり荒っぽい。でも、今のAI市場の熱狂を考えると、こういう無茶気味のアイデアが出てくるのも不思議ではないですね。
参考: You can put a data center at your house—but who really pays?